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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (婚約) 31

 図書館で二人でいるところを早川に見つかり、澪が連れ去られ、以後、柊は彼女の姿さえ見ることはなくなってしまった。

 少しほとぼりが冷めるのを待とうとした矢先、柊は仕事の注文主から噂を聞いた。澪が婚約したと。聞くと、相手は彼もよく知る人物だった。

その注文主が、澪の父親の病院に出入りしている業者であり、澪の婚約者というのが、妹を実験台にして殺した担当医の一人だった。

 それを澪は知らない。

 そして、捕らわれの姫君のように、まったく外出も許されずに家に閉じ込められている彼女に、相手が誰かなど考える余裕はないだろうと柊は思った。一人娘で、親思いの彼女は、きっと自分と両親へとの想いの狭間で苦しんでいるのだろう。

 それでも、澪が他の男に抱かれることを想像するだけで、柊は腸がにえくりかえる。
 そして。
 妹が、それからアオイが、云うのだ。
‘失って後悔する前に、信じた通りに生きて’と。

 あの、澄んだ優しい瞳で。何もかもを諦めて受け入れて微笑んで逝った愛しい人たち。声が、聞こえる気がした。

‘失ったものを取り戻そうとすることより、失ったもののために時間を費やすより、今、目の前にあるものを見つめて、そのために出来ることをして―’

 愛する者を守れずに苦しむことはもうたくさんだ、と柊は思う。そして、絶望と失意のどん底から‘生きる’ことを掴み取った澪の強さを、彼は眩しいと感じていた。敬意をこめて、その魂を愛しく思ったのだ。




 澪が、自分で現状を打開する方法を思いつけるとは彼には思えなかった。いや、きっかけがあれば彼女は進めるかもしれない。では、そのきっかけをどうやって掴むかだ。

 柊は、捨てようとしてたあの日の澪の写真をふと手に取った。
 彼なら、澪のどんな写真を見ても、もう特に動じないだろうと思った。

 そう、たとえ、澪がその婚約者と愛し合う姿を見せられても、或いはハワイで他の男たちに身体を預ける様を見せられても。嫉妬と怒りとに身を焼かれはしても、彼女に対する想いが変わることはない。一緒に過ごした時間は少なかったが、もっと深いところでつながりがあると信じていた。どんな状況からでも、澪を取り戻す自信はあった。

 しかし、その婚約者はどうだろう?あの、憎い妹の仇は・・・。
 自分のものではない女の身体を手に入れて、満足するだろうか?
 そうやって、結婚生活を送ることに躊躇いを感じないだろうか?

 いや。プライドの高いあの医者は、絶対にそんな女は選ばない。
 それを彼宛に、直接本人に送りつけてみたらどうだろう?と柊は思った。しかし、忙しくてほとんど自宅にも戻っていない彼がいつその写真を見ることになるだろう?或いは、彼の目に触れる前に、誰かに処分される可能性もある。そもそも、その医者の住居を彼は知らなかったし、病院に送るのはさすがにはばかられた。澪の写真を、他の人間には見せたくなかった。

 結局は、澪の手に渡し、直接本人に手渡してもらうのが一番確実だと思う。
 ただ・・・。
 澪に、その意味が分かるだろうか?
 ただ、傷つけてしまうだけではないだろうか?

 何度も、その写真を持って、彼女の家の付近まで足を運び、柊は躊躇い続ける。詳しい計画を手紙にして封入することも何度か試みたが、もし、彼女の手にうまく渡らなかった場合、どうなるだろうか。未だに連絡を取り合っていると思われたりしたら、澪の立場がもっと厳しくなってしまう。

 出来るなら、澪を再びさらってしまいたいとさえ思った。
 だけど、それでは同じことの繰り返しだ。
 そうではない、何かが欲しかった。

 澪が、両親と決別せずに彼のもとに来ることが出来るように。澪の両親が娘を愛しているのと同様に、彼女も両親を悲しませたくなどないことを彼は分かっていた。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


こういうロマンチックな物語を読んでいると、ついつい西幻は現実的なことを考えてしまうのですよねぇ…。

つまり、いまはお互いに身を焦がすような恋に夢中になっているけれど、これでもし駆け落ちでもなんでもして二人だけで暮らすようになったら。

そうしたらもう、ドラマチックな境涯がなくなる。普通の日常がやってくる。なにも波乱のない、穏やかな生活。時間がたてば、情熱的な恋情もなくなる。

そうなった時、あまりにも劇的な経験をした二人が平凡な毎日に満足することができるのか?刺激のなくなった生活に、幸せを感ずることができるのか?

fateさんは、キャラの心情や動機にとても忠実な物語作りをされているようですね。でもそれってきっと、最良のやり方じゃないかなーと西幻は思います。
#454[2011/11/10 03:34]  西幻響子  URL  [Edit]

西幻響子さまへ

西幻響子さん、深いコメントをありがとうございます。

そうそう、それなんです!
これは、駆け落ちしたいのを必死に留めました(^^;
しかも、この辺まで来ると、冒頭部分の必要性が薄れて、別に、始まりをあんな風にする必要性あったのか???
つまりは、『官能』を謳って執筆を始めたから使った手法であって、なんか今となってはちぐはぐ~
と思いながら、今後、進んでいきます。

ものすごく、「さて、どうしよう???」とfate自身は悩んでいるのに、人物たちがとにかく前へ前へと進みたがり、ちょっと待て! 状況設定まだしてないだろうがっ!!! と喧嘩しつつ進んだ、ある意味、ものすごく個性と存在の強い人物たちでした。
扱い辛かったわ~

でも、お陰で、少し、物語に力強さのようなものが入りました。

なんとなくちぐはぐに進みますがご容赦を(^^;

#457[2011/11/10 08:25]  fate  URL 














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