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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (婚約) 28

 柊が、そのときたまたまそこにいた訳ではないだろう。
 恐らく、澪の姿を見つけるまで、何度か通っていたのだろう。
 彼は、確実に、何か意図があって澪に会いに来たのだ。
 澪は、買い物の間中それを考えていた。

 彼の持っていた白い封筒。あれは、何だろう?
 一緒に死のうと、何か薬をくれたのだろうか・・・?

 彼女の家に何度か足を運んでいたらしい彼が、澪の、見合い、婚約の流れを知らない訳はなかった。近所でもすでに噂になっているし、澪の家には相手方の家族や関係者の出入りはずっと続いていたのだから。




 自宅に戻り、母が買ってきた荷物を出迎えた家政婦に手渡しているとき、別の若い家政婦が郵便物を手にして首を傾げているのを見つけて、澪ははっとする。

 そうだ、柊のくれた封筒!

「それ、ちょっと見せてちょうだい。」

 家政婦が封筒の束を父親の書斎に運ぼうとしているところに、澪は声を掛ける。

「はい・・・?」

 彼女は立ち止まって、怪訝そうな表情をする。澪が郵便物に関心を示したことなど今までなかったのだ。
 澪は、彼女の手からそれらを受け取って、柊が手にしていた宛名の書いてない封筒を探し当てる。

「あ、そちらは・・・。」
「これは、友人が授業の資料を届けてくれたものだから。」

 澪は、何気ない様子で微笑んでみせる。

「そうでございましたか。宛名が書かれていなかったもので、少々不審に思っておりました。」

 ほっとしたように家政婦は言い、残りを抱えて彼女はいつものところに郵便物を運んで行った。
 それを見送って、澪は、高鳴る鼓動を押えながら部屋に駆け込む。

 柊は何かを伝えようとしていたに違いない。
 駆け落ちの連絡?
 それとも、こっそりと二人が連絡を取れる方法?

 澪は震える手でその封筒を開け・・・
 そして、ぱらぱらと床に落ちたその中身を目にして、愕然とする。

 一瞬、目を疑った。
 間違いではないかと本気で思った。
 悲鳴をあげそうになって、喘ぎながらもようやく堪えた。

「・・・どうして・・・?」

 声がかすれていた。

「・・・どう・・・して?」

 あまりの絶望感に涙すら出なかった。眩暈を感じて、吐きそうにすらなった。
 澪は、そのままベッドに突っ伏して、声を殺して、それでも思い切り泣き始めた。




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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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