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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (再会) 26

「存じてます。」
「知ってる?」
「鮎奈さんの・・・カルテを見ました。そして、そのご家族のお名前を調べました。」
「どうして?」
「知りたかったんです。あなたのことを・・・。それから、自分のことを・・・。」

 澪は零れ落ちる涙をぬぐいもせず、ただ必死に彼を見上げた。そこに彼が本当に存在しているのかを確かめるように。

 不意に、人の声が聞こえ、二人は慌てて衣服を直す。羞恥のためではない。澪は、母親に見つかって、その後自由を奪われたことを忘れられなかった。今は、どこへ行くにも白川が監視に付いて来る。友人と自由に出かけることすら叶わないのだ。

 そして、ただ、話をしているような様子で佇む二人は、薄暗闇でお互いの目を見つめ合っていた。
遠くに聞こえた人の話し声は、そのまま遠ざかっていく。そろそろ戻って、帰る支度をしないと白川が探しに来てしまう。二人はもと来た方向へ向かって歩き出した。

「私・・・、しばらく、ハワイに行っておりました。」

 澪は柊に支えられて歩きながら話し始める。

「そして、そこで出会ったある方に言われました。私はあなたに恋していたんだろう?と。」

 どきりと心臓が鳴り、柊は何も言わず、立ち止まった。
 それは、彼も自分自身に何度も聞いた問いだ。

 澪を愛していたんだろう?
 だから、そばに置きたかったんだろう?
 ‘妹’のことからはもう離れて、仇の娘を愛したんだ、と。

 だけど、復讐にかこつけた欲望に、澪は引き裂かれ、闇に堕とされた被害者だった。彼女が否応なく従わされたのは‘陵辱’という行為に寄ってだ。そこから解放された彼女が、何を思うのか、彼には分からなかった。

 それでも、手放したくないと、柊は彼女を見つけた瞬間に知った。

「そのときは、そんなことは思いませんでした。ですけど、後でいろいろ思い返すと、そうだったのかもしれないと思いました。あなたを求める想いが、他の男性すべてに投影されるのだと、その方がおっしゃっていたことを・・・。」
「俺を求める想い?」
「あなたに抱かれたい想いが・・・、です。」

 柊は驚いて立ち止まり、澪を見つめる。彼女のまるで照れもせずに淡々と答える、どこか恍惚、とした表情に彼は違和感をおぼえる。そして、その意味することを理解して、柊はカッと頭に血がのぼった。

「他の男とやったのか?」

 その、怒りを含んだ柊の驚きの声に、澪はびくりと彼を見上げた。

「・・・あの・・・ごめんなさい。」
「いつ?・・・一体、どうして?」

 腕をつかまれ、澪は怯えた。

「ごめんなさいっ・・・」

 柊は、澪の身体を他の男が好きに弄ぶその光景を目の前で見せつけられているような錯覚を得て、逆上しそうになった。自分では抑えきれないその激情。そして、柊は確信するのだ。

 この女を愛していたのだ、と。

「なんで、そんなこと・・・」
「ごめんなさい・・・っ、だって、フユキが、いなかったから・・・」

 悲鳴のような細い声に、柊ははっと我に返る。そうだ、彼女の前から姿を消したのは自分の方だった。

「ごめん。」

 つかんでいた腕を離し、柊は大きく息をつく。

「・・・ごめん。」

 そして、柊は壁にもたれて一旦澪から顔を背けた。澪は、その彼の様子に軽蔑されたのかと怯える。もう、嫌われてしまったのだろうか、と。

 青い顔をして佇む澪を、柊は、その腕をつかんで引き寄せる。そして、そのままその頭を胸に抱いて、ささやくように言った。

「澪ちゃん、俺のものになれよ。」



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