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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (再会) 24

 4月から高校に復学し、澪は表面上は日常生活に戻った。

 しかし、それまで以上に澪には自由がなくなった。行動は常に運転手付きで、唯一彼女が一人になれるのは、図書館で勉強する時間だけだった。

 クラブ活動も制限された彼女は、学校帰りに市営の図書館に寄り、夕食の時間までの数時間、遅れた分の勉強をそこで少しずつ進めている。

 母が、家庭教師をつけてくれようとしたのだが、澪はそれを断った。一人になれる時間がないと、気が狂いそうだった。
 



 夏前の、もう暑くなりかかっていた頃、柊は、ふと目の前の車に澪が乗っている姿を見つける。自分のワゴン車で、商品の納入に出かけた帰りだった。

「澪・・・ちゃん?」

 そう、声に出して呟いた途端、柊は、一緒に暮らした時間の彼女を一気に思い出した。どくん、と心臓が音を立てた。

 何度も抱いた彼女の身体のすべて、怯えて泣き叫ぶ彼女を次第に蝕んでいった闇が、あるとき吹き払われるように消え去り、次第に瞳に光が戻り、命が輝きだした瞬間の少女の笑顔を。

 それは、灰色だった彼の日常に一気に色彩を取り戻した。
 手に入れたかった魂が、そこに在った。

 信号で止まっていたその車が走り出した方向へ、柊も向かった。街中を走りぬけ、その車は進む。追いかけて、どうしようと明確に考えていたわけではなかった。

 もう、澪は自分を忘れる努力を、それこそ死に物狂いでしているのだろう、と分かっていた。自分を見て、彼女は再び闇に突き落とされることになるだろうことも。

 それでも、欲しいという想いが止められなかった。

 何故だろう?

 自分を認めてくれた瞬間があったことを、彼に恋した瞬間があったことを、柊は感じていたのだろうか。澪の瞳が、深く揺れて憧れのような炎を宿した瞬間、彼は本当の意味で癒されたことを、その魂が知っているのだ。

 二人の魂が深く結びついた瞬間の閃光を。




 澪を乗せた車は図書館前に停車し、彼女を玄関に下ろすと、駐車場に向かって走っていく。そして、運転手の白川は車を下りて、入り口のカフェで待機しているようだ。

 それらをゆっくり確認し、柊も車を停めると、そのまま中へ向かった。
 館内を見てまわり、机が並んでいる学習室を覗き込んで、柊は心臓が鳴った。
 奥の窓際の席に、澪が机の上に教科書やノートなどを広げてペンを走らせていた。

 何かを必死にごまかそうとしている、というのか。ぴりぴりとした、切ないまでの飽和した悲しみを感じた。薄い空色のヴェールが張り巡らされているように、彼女の周りの空気は沈んでいた。

 柊は、そっと彼女の向かい側の、少し離れた席に腰を下ろす。
 そのまま、黙って澪を見つめていた。

 澪は、必死に何かを書き写していたかと思うと、不意に両手で額を覆い、肩をふるわせる。そして、窓の外をぼんやりと眺めると、また、目の前のことに集中しようとする。そんなことを幾度となく繰り返していた。

 おぞましくも辛い記憶と戦っている・・・ように、柊には感じられた。
 忘れようとしているのだ、と。

 しかし、彼はそのまま彼女を見なかった振りをする気には、もうなれなかった。

 失った命の代償に?
 妹の想い。アオイが遺した想い。
 苦しんで逝った彼女たちが伝えたかったこと・・・。
 



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


う~ん、やっぱり私では書きえないような美しい文章を書きますな、fateさんは。でもだからこそ、読んで刺激になってるんだと思います。

しかし、切ないですねぇ。
ひとの心とは、なんとままならないことよ。
柊の心も、澪の心も、お互いを必要としている。
でも、近づくことを現実が阻んできた。
その障害の壁を突き破ったとき、二人はどうなるのか。

とてもロマンチックな物語ですね。
このロマンチックな空気に、微かな羨望を覚えます。
自分は、現実にどっぷり漬かってますからね ^^;

でも、刹那的な生き方、というのは不幸と紙一重。
というか、ひとによって考え方は違うのでしょうが、ある一瞬のきらめきの中だけで生きて、そしてあっというまに燃えつきていく、そういうのがいわゆる「幸せ」な生と思える場合もあるし、でもそんなうまいこと燃え尽きることができずに結局は這いずり回るような結末になって現実に埋もれてしまうしかなくなる、というような場合もあるわけで、どうせ刹那的に生きるならやはりぱっと燃えてぱっと消滅したい、とそう思ったりもします。
#416[2011/11/08 02:36]  西幻響子  URL  [Edit]

西幻響子さまへ

西幻響子さん、心痺れるような素敵なコメントありがとうございます。

いやぁ、そんな風に読みとっていただけると、すんごい嬉しいです!
なんだか、これは実はとっくに終わっている筈のstoryが落とし所が分からずダラダラ続けてしまった…(・・;というのが、実は本当のところです。
連載中、なんかfateの意図に反して、妙に読者さまの反応が良くて「あり? ヤバい! 飽きて止めました、は通用しないぜ!」と焦って、ど…、どうすれば、読者さまが満足されるのだろう??? と強迫観念で進めていた、ちょっと綱渡り作品でした(^^;

これから、ひとつの山場を迎える…かな?
その辺から、ようやく落とし所が見えてきて、ほっとした(fateがな!)…という部分に入ります。

そうなんす!「 ある一瞬のきらめきの中だけで生きて、そしてあっというまに燃えつきていく、そういうのがいわゆる「幸せ」な生と思える場合もある」
「そんなうまいこと燃え尽きることができずに結局は這いずり回るような結末になって現実に埋もれてしまうしかなくなる、というような場合もある」
「どうせ刹那的に生きるならやはりぱっと燃えてぱっと消滅したい」
これ、ものすごくその通りです。
fateもそんなことをどこかで感じて進めておりました。
だからこそ、落とし所を迷い、悶えました!

なんか、お陰で、昼ドラみたいなstoryなりましたが、…すみません(^^;って感じです。
表現したかったことを受け取っていただけて、ありがとうございました!





#418[2011/11/08 08:44]  fate  URL 














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