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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (それぞれの変化) 16

「フユキは・・・、お父さまを・・・どう、なさりたいの?」

 その夜、最中にずっとどこか上の空だった澪は、柊の腕の中でそう呟く。
 澪の髪を撫でていた彼の手がふと止まった。

「この手で、殺してやりたかったよ。」

 抑揚のない声で、柊は言う。ぴくり、と澪は震えた。

「・・・でも、もう、良い。・・・鮎奈は・・・妹は、そんなことは決して望まない。それが・・・分かった。」

 澪は彼の目をそっと見上げた。呟くような、独白のような柊の声は、どこか悲しげだった。

「君を、見ていてそう思うようになった。」
「・・・え?」
「君が・・・教えてくれたよ、澪ちゃん。」
「どうしてですか?」

 柊は答えずに、ただ、澪の身体をぎゅっと抱き寄せた。外はもう木枯らしのような寒い風が吹いている。澪と出会ったときにあった夏の気配は、すっかり鳴りを潜め、もう、季節は廻り始めている。

 どうして、この子は、ここにこうしていてくれるのだろう?と柊は思う。
 本気で逃げ出そうと思えば、きっと可能なのに。

 助けを求めて騒げば、外に声がまったく漏れない訳ではない。彼が不在の間、そうやって近所に助けを求めることだって出来るし、或いは、パソコンのパスワードも、盗もうと思えば今なら出来るだろう。何度も、彼女の目の前でネットを開いてみせていたのだから。

 大人の分別で混沌とする柊と違って、澪の中は、もっとすっきりとしていた。

 女は、その性別の役割の違いに寄って、自分を支配する男に対して、決定的な絶望を抱かない限り、従うことをそれほど苦痛に感じない。男は狩猟をして食料を調達し、家を守り、家族を守る。女は、家の中を整え、男の狩猟を支え、子どもを育てるのだ。

 男が、自分を大切にしてくれていることを肌で感じられるならば、女は多少の不自由もそれほど不満には感じないように自らを調整してしまうのだ。

 特に、澪の家庭はそうやって維持されていた。
 父の仕事を全面的に信じる母親に寄って。




 人の肌は、どうしてこんなに温かいのだろう?と二人は同時に思う。
 肌を合わせると安心するのはどうしてなのだろう?と。

 二人の間に憎しみが消えたとき、残ったものは儚い幻想のようなものだった。危ういバランスで保たれているガラスのカケラ。ほんの一押し、隙間風が舞い込んで起こしたそよぎですら、嵐と同じ打撃を与えうる。

 ひと時の夢だとお互いに分かっている。

 もう、その夢も覚める・・・。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


これで平和に収まってくれればいいのですが、

まだ五分の一程度ですから、これからひと波乱もふた波乱もあるのでしょうなあ……。

どうなるんだろう。



それと、なにか御腹立ちになることをコメしておりましたらお詫びいたします。お伝えしたいことはただ、「この小説面白い!」ということだけなのですが……。
#1393[2012/01/23 07:12]  ポール・ブリッツ  URL  [Edit]

ポール・ブリッツさまへ

ポール・ブリッツさん、

> これで平和に収まってくれればいいのですが、
> まだ五分の一程度ですから、これからひと波乱もふた波乱もあるのでしょうなあ……。

↑↑↑ふふふふ。さすが鋭くていらっしゃる!
あれだけの大作を描かれた方ですからなぁ。
なんつって。これは、そんな大きな展開はないっすよ(^^;
途中で収拾がつかなくなって、無駄に長くなっただけです…

> それと、なにか御腹立ちになることをコメしておりましたらお詫びいたします。お伝えしたいことはただ、「この小説面白い!」ということだけなのですが……。

↑↑↑ほええ?
いや、何にも気に触ってなどおりませんよ?
っていうか、こちらこそ、好き勝手なことを描いて、好き勝手な返信をさせていただいてますので~
こちらこそ、変な返信をしてたらすみません(^^;
#1397[2012/01/23 08:16]  fate  URL 














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