季節は巡り、秋の風が空気を冷やし、夏の気配の中に冬の息吹が立ち上ってきた。さすがに、柊は、澪に服と下着を買い与えた。避妊はしていなかったが、その月、澪の月のものは正常に訪れた。
彼女の周期はもともと不安定で、遅れたり、一月飛ばしたりはしょっちゅうだったので、彼女もまだそれほど神経質に気にしてはいなかったようだ。
生理用品を量販店で買い求め、柊は、これからどうしようか?と考える。
その頃には、はっきりとした意識として、柊は時々彼女を愛しい想いで見つめてしまうことに気付いていた。それは、妹を想う気持ちとは違う。高慢だった澪の態度はすっかり影を潜め、もう何も取り繕う必要を見出せなくなった彼女にも、緩やかな変化が訪れていた。
自分を飾る必要がない。鎧を身に付け、仮面をかぶる必要がない。良家のお嬢様として、完璧な日常を演出し、自身も役を演じる必要がなくなった。
それを言葉で思った訳ではない。ただ、澪は意識を保てない時間を何度も経験するうちに、男の腕の中で眠りに堕ちる刹那の危うい無防備さを知る。恥も外聞もない、親にすら見せたことのない姿。自分ですら知らなかった性感帯。むしろ、何の予備知識もなく、素直に官能を身体に教え込まれ、赤ん坊が言葉を吸収していくように教師としての柊に従順に従った。
生きていくために、それは無意識の本能だった。
質の良い家庭に育った、澪の本来の素直な性質。すさんでもスレてもいないたおやかな心根。そして感度の良い若い身体。柊はそれを愛するようになった。
しかし、警察の捜査の手が、いずれ自分にも伸びるかもしれないと柊は考えた。
偶然に手に入れた獲物だっただけに、家族も警察も苦労しているだろうが、いずれは病院の過去にまで遡って、恨みを抱く人物として候補にあがるだろう。
あの日、やる気のまったく出ないまま、以前、彼の仕事を評価してくれた依頼主が、別の顧客を紹介してくれて、彼はそこに注文を受けに出かけた帰りに、ふと見つけた喫茶店にちょっと立ち寄った。初めて訪れた喫茶店。居合わせた他の客も常連というわけでもない、たまたまそこに居合わせた人々だった。皆、自分の世界に忙しくて、他に誰がいたかなんてまったく気にしていなかった。
マスターはおぼろげながら澪を覚えているかも知れない。しかし、取り立てて目立たなかった他の3人を覚えているかどうか怪しい。あの喫茶店の照明はひどく薄暗かった。
それでも、いつか。
いつか、澪は自分の世界から迎えが来るだろう。
澪が見つかってしまったら、彼女は家族に保護され、自分は逮捕されるだろう。
澪をこの手から失って、果たして自分は‘復讐’を遂げたことに満足するだろうか。
彼女の周期はもともと不安定で、遅れたり、一月飛ばしたりはしょっちゅうだったので、彼女もまだそれほど神経質に気にしてはいなかったようだ。
生理用品を量販店で買い求め、柊は、これからどうしようか?と考える。
その頃には、はっきりとした意識として、柊は時々彼女を愛しい想いで見つめてしまうことに気付いていた。それは、妹を想う気持ちとは違う。高慢だった澪の態度はすっかり影を潜め、もう何も取り繕う必要を見出せなくなった彼女にも、緩やかな変化が訪れていた。
自分を飾る必要がない。鎧を身に付け、仮面をかぶる必要がない。良家のお嬢様として、完璧な日常を演出し、自身も役を演じる必要がなくなった。
それを言葉で思った訳ではない。ただ、澪は意識を保てない時間を何度も経験するうちに、男の腕の中で眠りに堕ちる刹那の危うい無防備さを知る。恥も外聞もない、親にすら見せたことのない姿。自分ですら知らなかった性感帯。むしろ、何の予備知識もなく、素直に官能を身体に教え込まれ、赤ん坊が言葉を吸収していくように教師としての柊に従順に従った。
生きていくために、それは無意識の本能だった。
質の良い家庭に育った、澪の本来の素直な性質。すさんでもスレてもいないたおやかな心根。そして感度の良い若い身体。柊はそれを愛するようになった。
しかし、警察の捜査の手が、いずれ自分にも伸びるかもしれないと柊は考えた。
偶然に手に入れた獲物だっただけに、家族も警察も苦労しているだろうが、いずれは病院の過去にまで遡って、恨みを抱く人物として候補にあがるだろう。
あの日、やる気のまったく出ないまま、以前、彼の仕事を評価してくれた依頼主が、別の顧客を紹介してくれて、彼はそこに注文を受けに出かけた帰りに、ふと見つけた喫茶店にちょっと立ち寄った。初めて訪れた喫茶店。居合わせた他の客も常連というわけでもない、たまたまそこに居合わせた人々だった。皆、自分の世界に忙しくて、他に誰がいたかなんてまったく気にしていなかった。
マスターはおぼろげながら澪を覚えているかも知れない。しかし、取り立てて目立たなかった他の3人を覚えているかどうか怪しい。あの喫茶店の照明はひどく薄暗かった。
それでも、いつか。
いつか、澪は自分の世界から迎えが来るだろう。
澪が見つかってしまったら、彼女は家族に保護され、自分は逮捕されるだろう。
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