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Stories of fate


月の軌跡(R-18)

月の軌跡 (捕われて) 7

 仕事を再開していた柊は、澪の泣き声を聞いてふと手を止めた。

 彼の仕事は、ある意味芸術のようなもので、木工製品に対する彫りの仕事だ。素材が木材でありさえすれば、いかなる模様、絵など何でも注文通りに仕上げる。それが家の壁などの大きなものでも、装飾品などの小さなものでも構わない。一個単位から注文を受け付け、ほぼ、期日までに納品する腕の良い職人だった。

 その作業をするための、ここは倉庫でもあり、仕事場でもあった。

 澪が閉じ込められている部屋は、期日が迫っている仕事の最中に、ほんの数時間仮眠を取るための密室的な空間だった。柊が、一切の音と刺激から隔離され、ほんの少し熟睡するための。

 澪の声が聞こえたのは、彼が扉を少し開けておいたからだ。目覚めた澪の様子が分かるように。
何のために?

 逃げ出そうとするのではないかということと共に、パニックに陥った彼女が自殺などの自傷行為をしないように、と柊は考えたのだ。

 泣き声を聞いて、柊は作業の手を止めて立ち上がった。

 扉を開けると、澪はびくり、と身を震わせて顔をあげた。その顔は青ざめて涙に濡れ、彼の姿を確認した途端、彼女はその恐怖に悲鳴をあげる。

「きゃあぁぁっ」

 毛布を抱きしめて、澪は逃げることも出来ずにベッドの上に縮こまる。

 作業着を着て、木屑だらけで、彼が部屋に入ってきた途端、材木の乾いた甘い匂いが立ち込めた。そういう、下請け作業をする人間を、澪はどこか蔑視していた。それは、父親の影響であろう。

「い・・・やっ、・・・いや!」

 近づく彼の姿を凝視したまま、澪はそれ以上下がったらベッドから落ちそうなほどじりじりと後退する。
 もう、一瞬でも触られたくなかった。

「・・・お、お願い・・・、家に・・・帰して?・・・もう、やめて・・・」
「家に?」

 柊は、ぐい、と澪の首を後ろから掴み、動けないように固定して笑う。

「帰れると思うのかい?」

 その冷たい言葉に、澪は顔色をなくす。澪を捕える手は、情け容赦のない乱暴なものだった。

「当分はここで生活してもらうよ。たまには庶民の生活も体験してみた方が良いよ?お嬢様?」

 男の声は明らかに澪を蔑んでいる声色だった。

 澪は誰かにそんな扱いを受けたことはない。もともと、彼女は望むことはすべて叶えられて生きてきた。何かにひどく執着してどうしても、と望んだこともなければ、そうする必要もなかった。毎日、普通に生活しているだけで、彼女は必要なものをすべて手にしていた。だから、澪は自分で何かを成し遂げるための行動の仕方を知らない。

 彼女が望まないことを強制する者はいなかったし、泣き叫ぶような目に遭ったこともない。つまり、そういう場合どうやって切り抜けて良いのか分からないのだ。使用人も、それから学校の先生も、彼女たち階級の生徒には気を使っていた。高い授業料を払ってもらっている、彼女のたちの家は学校の運営にはお得意様になるのだ。

 それまで、澪の周りに、彼女に対してひどいことをする人間は、皆無に等しかった。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


今度は澪ちゃんと

澪ちゃんにはなんの罪もない、のではないのですね。
知らないということは罪。
この前のところにあったコメントを読ませていただいて、ああ、そうなんだと思いました。

私なんかなんにも知らないから、あっちこっちで罪つくりをしているのでしょうね。
これからゆっくりじっくり、月の世界に浸らせていただきます。

#2008[2012/04/12 01:45]  あかね  URL 

Re: 今度は澪ちゃんと

あかねさん、

「家族が何をしているのかを知らない…ということは、‘罪’の一つですね。」
なんて、確かに書いてましたが、…実は、未だにfateには分からない。
知らなかったことは‘罪’なのか?
これは、逆恨み的なモノのような気がするので、っていうか、解決の方法が他になかったんかい?
って言ったら、絶対あったと思うから、こいつがやったことこそ単なる犯罪です。
これも、医療事故とかそんな背景をちょっくら考えて、医者へというより、現代社会の不条理に個人がこういう形で対抗すること、その制裁の被害者、を描いて、そういう状況で一番酷いことをされた女の子がどうなっていくのか…
実は、何にも考えずに突っ走り、あれ…? と進んだものです。
コロす(命を奪う)、ということに対する躊躇が、結局は慮辱ということになってしまうんだけど、まぁ、それ自体が病んでいる証拠なんだけど(あ、これはfateがってこってす)、極限! なんです、そこが。
そして、それを一旦超えたときの人間って、どうなるんだろう?
そんな物語ですかね~

> 私なんかなんにも知らないから、あっちこっちで罪つくりをしているのでしょうね。

↑↑↑いえいえいえいえっ!
そんなことはないっすよ。だいたい、それが罪か?
実は違うと思う。

> これからゆっくりじっくり、月の世界に浸らせていただきます。

↑↑↑月イコール女。
そして、これは、澪ちゃんの変化を綴ったものです。
満ちたり欠けたりする月。
それを女性と捉えて、満ち欠けの内面と外側の相対性を表したかった。そんな感じです。
まぁ、キレイゴト↑ですが~~~(^^;
#2010[2012/04/12 07:29]  fate  URL 














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