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Stories of fate


光と闇の巣窟(Another story)

光と闇の巣窟(Another story) ‘復讐’ 4

 車の中に写真のプリンターがある。充電式のそれは一気にそれほど多くの写真をプリントアウトは出来ない。しかし、今、必要なのは数枚だ。

 俺はたった今撮影した彼の写真を印画紙に落とし込む。縛られた少年の顔が少し判別しにくいかも知れない。しかし、まぁ、気にすることはない。母親には分かるだろう。

 準備してあった高篠家の住所の記された封筒にそれを入れると、俺はポストに投函するために車で一旦山を下りた。

 町の小さな郵便局の前のポストにそれを投函し、俺はふと気配に気付いて振り返った。するとそこには三島さんが立っていた。

 茉莉の世話をしてくれていた高篠家の使用人だった彼女。最後に会ったのは、やはり茉莉を失ったあの日だった。

「先生・・・、お久しぶりです。」

 三島さんはスーツ姿でにこりと笑った。

「三島さん。どうして、ここに?」
「・・・私、あのお屋敷は辞めたんです。お嬢さんが亡くなって間もなく。今は、父の会社で営業をしています。今日は営業周りでこちらまで。」
「そうか。・・・そうだったんだ。」

 ええ、と彼女は再度微笑んだ。

「先生は、・・・今、どうされていらっしゃるんですか?」

 彼女の声を聞き、彼女の笑顔を見ると、どうしてもそこに一緒にいた筈の茉莉の姿を思い出す。
あの日、三島さんと一緒に祝ってあげた茉莉の誕生日。大きな丸いケーキを見つめて頬を紅潮させた茉莉の子どもらしい笑顔。プレートに可愛い文字で書かれた茉莉の名前。それを見つめて初めて茉莉は小さな歓声をあげた。願い事を決めてローソクを吹き消すんだよ、と言ったら、あの子は俺をきょとん、と見上げてしばらく無言だった。明かりを消した部屋の中で、16本のローソクに照らされて、茉莉の顔は怪しくも美しくオレンジの光に包まれていた。

 あのとき、茉莉は何を願い、何を祈ったのだろうか?

 頑張っても全部を一気に消せなくて、消え残った数本のローソクを見て、三島さんは思わず残りを吹き消していた。

「大丈夫、ほら、全部消えましたよ。お願い事は叶います!」

 彼女の言い草に俺は笑ってしまった。

 後に彼女は照れて笑っていた。彼女の家族は、子ども達が吹き消しそびれたローソクを上の子やお母さんが手伝う習慣があって、消え残ったローソクを見て、茫然とした茉莉の顔を見て、思わずやってしまった・・・と。

 それでも、何もかも初めての茉莉には信じるに値する行為だったらしい。

 パッと明かりを点けて、見下ろした茉莉の顔は嬉しそうにほころんでいた。きっと願いは叶うのだと、彼女は信じていた。

 叶えてやりたかった。
 彼女が人生で願った唯一の夢を。希望を。その命の灯火を。

「先生?」

 三島さんの声に我に返った。

「大丈夫ですか?」
「ああ、うん。ごめん。・・・三島さんが元気そうで、本当に良かった。」

 心からそう思って、俺は言った。何より、もうあの屋敷に関わっていなくて安心した。これから起こる悲劇に彼女はもう関わることはないのだ。

「先生、・・・まだ一月しか経っていませんから、お辛いのは分かります。でも、・・・先生、茉莉お嬢さんは、先生がそんなにやつれて痩せてしまった姿を見たらきっと悲しみます。どうか、先生もお元気を出されて・・・」
「ありがとう。」

 俺は心配そうに俺を見上げる彼女の横に茉莉の幻を見ながら微笑んだ。
 
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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ミステリ

~ Comment ~


痛いほどにやるせなくて

Another はどんなストーリィかと思っていましたら、こうなったもうひとつの「光と闇の巣窟」だったのですね。

単なる復讐話ではないのだろうとは思いますが、読ませていただいているとなぜか左手が冷たくなってくる。しびれるようになってくる。
それほどに如月さんの心が伝わってくるからなのでしょう。

如月さんがこの三島さんと恋をして、茉莉ちゃんは忘れられないにしても別の幸せを手に入れるなんて、まだ無理でしょうね。永遠に無理なのかな。

そういえば、私は二股男なんてのをよく描きますが、fateさんの描く男性はこうと決めたら命がけ、彼女一筋の一途な方が多いですよね。
そうじゃない男性っていましたっけ?

時にはその一途さが悲劇を呼ぶ。
切ないなぁ。

#2460[2012/09/26 00:43]  あかね  URL 

Re: 痛いほどにやるせなくて

あかねさん、

> Another はどんなストーリィかと思っていましたら、こうなったもうひとつの「光と闇の巣窟」だったのですね。

↑↑↑はい~。本当はこういうハナシにする予定だった世界です。
ここまで徹底させないと‘復讐’の炎は浄化されません。
とことんこうやって突き詰める筈が、茉莉を殺し切れなくて、何を描きたかったのか分からん物語で終わってしまった訳です(^^;
人物に感情移入し過ぎるって物書きとしては致命的かも~

> 如月さんがこの三島さんと恋をして、茉莉ちゃんは忘れられないにしても別の幸せを手に入れるなんて、まだ無理でしょうね。永遠に無理なのかな。

↑↑↑fateにすれば、情けない男でイラつきますが、こんな京介の未来を考えてくださってありがとうございます!!

> そういえば、私は二股男なんてのをよく描きますが、fateさんの描く男性はこうと決めたら命がけ、彼女一筋の一途な方が多いですよね。

↑↑↑こいつの場合、恋愛感情が冷める前に奪われてしまっているから、ある意味、永遠に茉莉は至上の女の子なんすよ。
それに、何かで区切り、つまり自身が納得する何かを経ないと、次のことが考えられないんだろうな、とか。
むしろ、切り替えの遅いやつだから、茉莉ちゃんを「敵(かたき)の娘」だとぐずぐずしてた訳で。
結局、すべての悲劇はこいつが自身で招いている!

などと、厳しいことを言ってるが、これは読み返すと実はfateも辛い。
恐らく、fateと似ている部分があるからこそ腹が立つ訳で・・・(^^;

あれです。
二股とか三角関係とか描けないのは、fateが恋愛欠陥人間だからです、きっと(^^;
そういうのって、よく分からないんだもん。
#2462[2012/09/26 07:23]  fate  URL 














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