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Stories of fate


光と闇の巣窟(Another story)

光と闇の巣窟(Another story) ‘復讐’ 2

 翌朝、俺は学校へ向かう高篠家の息子を待ち伏せていた。

 男の遺体は、まだ見つかっていないのか、見つかっても身元が確認できていないのだろう。テレビであの男の名前はまだ報道されていなかった。

 息子の一日の行動は確認済みだった。

 校門前は生徒で込み合うため、送迎は学校の裏手に設けられた駐車場までと決まっていて、運転手付きの子ども達はそこから歩いて正門へ向かう。引っ切り無しにそこへ車が出入りしている訳ではなく、送迎付きの子ども達がそれほど多い訳ではないので、比較的その駐車場は静かだ。しかも、学校の敷地であるということで、塀がめぐらされ、道路から中は見えない造りになっている。

 俺は、車を乗り入れてその駐車場で彼が来るのを待った。
 何台か車がやって来ては児童が降りて運転手に手を振って車の出入り口とは別の歩行者用の通学路へ歩き去る。

 そんな光景を何度か見送った。贅沢なこった、と俺は苦々しく思う。
 茉莉は、屋敷に閉じ込められ、マトモな教育も受けさえてもらえず、挙句にあんな男の生贄に与えられ、殺された。

 少女らしい夢を抱くことも知らず、恋も知らず、人生の喜びを何も与えられずに。

 やがて、車が2台続けて入って来た。初めの車はすぐに子どもが降りてこなかった。手荷物が多く、運転席から降りた中年の男性が小さな女の子に手提げ袋をいくつか渡していた。

 やっとそれを抱えて少女は歩き始める。それを心配そうに見送った後、車が出て行く。そして、俺は彼女の後ろを歩いていく男の子の姿に「しまった!」と声をあげそうになる。

 高篠卓也。茉莉の弟だ。女の子の様子を見るとはなしに見つめてしまっている内に、肝心のターゲットを見逃していた。

 高篠家の車はまだ出て行かない。
 少女が道路へ消え、少年ももうすぐ通学路へ消えてしまう。

「さっさと帰りやがれっ」

 少年の背中を見送っているらしい運転手へ、俺はイラついて叫びそうになる。
 少年が通学路へさしかかろうとする刹那、車は出て行った。このままでは彼も歩道へ消えてしまう。

「卓也くん!」

 俺は車で近づきながら窓を開け、声を掛ける。彼は、名前を呼ばれて、不思議そうに振り返った。そして、俺の顔をじっと見つめて立ち止まる。

「俺を覚えている?」

 俺は、彼の脇に車を停めて、ドアを開けた。

「はい・・・。家庭教師の先生でしたね。」

 怪訝そうに少年は俺を見上げた。

「そうだよ。」

 言って、俺はあっという間に彼の腕を掴んでみぞおちに拳を入れ、苦痛に顔を歪めた彼を後部座席のドアを開けて素早く放り込んだ。

 辺りを見回したが、他に人の気配はない。

 俺は、慌てて運転席に乗り込むと、目立たないようにそうっと車を出す。入れ違いにまた一台車が入ってきた。ちらりと相手の運転手が俺を一瞥した。見たことのない車だと思っているのだろうか。

 間一髪だった。
 そのまま俺は郊外へ向かってひたすら車を走らせる。

 顔を見せたのは、もちろん、最終的に、彼を生かしておくつもりなどなかったからだ。
 まずは、夫人にこの子の写真でも送ってやろう。
 愛しい者を理不尽に奪われる痛みを、もう一度ゆっくり味わうが良い。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ミステリ

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