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Stories of fate


光と闇の巣窟(R-18)

光と闇の巣窟 (光を失った日) 23

 何も出来ないまま、屋敷の中の様子も皆目分からないまま、時間だけが流れる。彼の家に居候させてもらいながら、ただじりじりと過ごす俺とは対照的に、医師は連日のようにあちこちに往診に呼ばれ、遅くまで帰らない。何か話したくても、なかなかゆっくりと会える時間すら取れない状況だ。

 疲れて帰ってくる彼に、俺も自分のことばかりで時間を割いてもらう訳にはいかない。一人暮らしの医師の家のことを手伝いながら、俺は俺でなんとか高篠の屋敷の情報を得ようと画策していた。

 しかし、人の出入りもほとんどない屋敷の様子は皆目分からず、茉莉のことを考えると気が狂いそうだった。

 そして。
 一月経たない間に、医者は屋敷に呼ばれた。

 俺は、手はずどおり彼の助手として白衣に身を包み、マスクをして、眼鏡を掛けて一緒にその屋敷に入った。三島さんだけが俺に気付き、何か言いたげな表情をした。

 あの家庭教師の男の姿は見えず、俺はただ拳を握り締めた。

 茉莉の部屋に通され、その濃密な‘死’の気配に俺は心底ぞっとした。夫人が、いつもの表情のない顔で茉莉の部屋に立っていた。

 やせおとろえた茉莉の青白い生気のない顔。別れたときの面影はもはやなかった。素人目にも、彼女はもう助からないだろうと感じた。

 一通りの診察をして、医者は言った。

「今晩辺りが峠でしょう。」
「・・・そうですか。」

 夫人の声に感情は伴っていなかった。もう少し生かしておくつもりだったのに、というため息ともつかない忌々しそうな視線で茉莉を一瞥し、あとはよろしくお願いします、と出て行く。

「先生、茉莉は・・・」

 医者は、厳しい表情をしたまま、茉莉の脈を取っている。

「京介くん、覚悟は・・・あるかね?」

 その静かな言葉に、俺は全身の血の気が引いた。
 後悔が怒涛のように押し寄せた。

「茉莉・・・!茉莉ちゃん・・・?」

 俺は、茉莉が横たわるベッドの脇に跪いて彼女の細い手にそっと触れた。
 冷たい手。もはや、血の気の通った人間のものではない温度だ。

「茉莉ちゃんっ?」

 手を握っても、もう、何の反応も示さなかった。

 ああ、何故もっと早く、この子をここから連れ出さなかったのか!機会はいくらでもあったのに。解雇を言い渡されるよりも早く、俺がこの子をさらって逃げるべきだったのだ。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ミステリ

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