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Stories of fate


光と闇の巣窟(R-18)

光と闇の巣窟 (暗転) 22

「茉莉ちゃん、支度して!」

 蒼白な顔で彼女の部屋に飛び込んだ俺を、茉莉はきょとん、と見上げる。

「早く!・・・ここを出るんだ。今すぐ!」
「・・・ここを?」
「そうだよ、一緒に行こう。」

 あたふたと彼女の服や荷物をまとめようとしている俺の様子に、茉莉は、一瞬動きを止め、そして言った。

「一緒に?」
「そうだよ。」

 すると、茉莉は無言で画集と色鉛筆とを袋に詰め込んで、あとは首を振った。

「他には何も要らない。」

 茉莉は、一瞬たりとも俺を疑わず、迷わず、惑うことなく俺を選んだのだ。その静かな決意の浮かんだ彼女の綺麗な瞳。それを見つめて、俺はたまらなくなって小さな茉莉の身体を抱きしめた。

 細い、温かい茉莉の身体。離したくないと、幸せにしたいと、その生きている証を抱いて俺は強く心に思った。こんなに、この子を愛していたのだと。

 茉莉は必死に、すがりつくように俺の胸に抱きつき、よく分からないが、何か微かな恐ろしい予感に怯えていた。俺の様子に何かを察したのだろう。

「行こう、茉莉ちゃん。」

 彼女の手を引いてその部屋を出ようとしたとき、夫人とさきほどの男が連れ立ってやってくるのが廊下の端に見えた。

 走り出した俺を、夫人が何か大声で叫んで指さす。すかさず隣にいたあの男が俺たちに向かって走ってきた。茉莉を連れているので、どうしてもそんなに早くは走れない。階段へ続く廊下の端で、遂に追いつめられ、男は茉莉の腕に手を掛けた。

「いやあああああああっ」

 悲鳴をあげて泣き叫ぶ茉莉を、俺はなんとか奪い返そうと男の腕にかじりつく。俺に向かって手を伸ばそうとする茉莉のみぞおちを殴りつけ、男はまるで荷物のように彼女の身体を彼の背後に放り投げた。茉莉は気を失ってそのまま倒れてしまい、俺が彼女の名を叫んで駆け寄ろうとしたところを、男は前に立ちふさがる。

「あんたの役目は終わった。後は俺が引き継いでやるから安心しな。二度とあんたのことを思い出せないように、身体の隅々まで俺が可愛がってやるよ。」

 血が逆流するかという勢いでかあっと頭に血が上った。つかみかかった俺を、男はあっさりと殴り倒す。急所をよく知っている。大分ケンカ慣れしているらしい。相手が女性でも、こいつはきっと容赦などしない。

 呻き声をあげるだけで、動けなくなった俺の目の前から、男は笑いながら茉莉を抱き上げて連れ去ってしまった。

「・・・茉・・・莉・・・っ」

 そのまま、俺は屋敷から引きずり出され、門の外に放り投げられた。
 どこをどう殴られたのかよく分からない。ただ、ほとんど動けなかった。

 通りかかった人に助けられ、俺は病院に運ばれたが、俺は茉莉の身が心配でいてもたってもいられなかった。何度も起き上がって外へ出ようとして、医者に止められた。

「京介くん、無理じゃな。もうあの屋敷に関わっちゃいけません。」

 聞き覚えのある声に正気に返って顔をあげると、そこにはあの屋敷に呼ばれてたまに診察に訪れていた医者が俺を心配そうに見下ろしていた。

「ここは・・・先生の病院だったんですか。」
「儂のじゃない。ここは町立の市民病院じゃ。儂は勤務医にすぎんよ。」
「先生、・・・先生、茉莉を助けてください。」
「・・・事情はよく分からんが、儂は呼ばれん限りあそこへ行くことはないからの。まぁ、儂が呼ばれない限りは中の住人は無事でいるってことじゃよ。」
「呼ばれてからでは遅いんです!」

 叫ぶ俺を、彼は穏やかに見下ろす。70を過ぎた老医師は、皺の寄った白衣に身を包んで、俺のベッドの傍らに静に腰を下ろしていた。

「何があったのか儂には分からんし、今すぐ殺人事件が起こる訳ではないじゃろ。京介くんがお嬢さんを守りたいのなら、・・・いずれ、方法は見つかるじゃろ。」
「・・・先生も、高篠家を・・・恨んでいるんですか?」
「儂に個人的な恨みはない。そして、お嬢さんにも儂は何の恨みもない。だから、往診に応じてあの屋敷へは赴く。しかし、それだけさな。」

 冬の最中、何度か茉莉が体調を崩して彼が診療に訪れていた。

 それで、俺も少しずつ彼と個人的な話しをするようになっていた。ほとんど病院に掛かったことのない俺は、医者と面識などなく、茉莉に付き添っていたお陰で、年に一度の健康診断が義務付けられているから、とついでに血液検査なども一緒にやってもらったようなものだ。

 そのとき、彼は複雑な表情で俺たちを見つめていた。
 あのとき既に、彼には見えていたのだろうか。やってくる結末が。

「先生・・・お願いがあります。」

 俺は言った。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ミステリ

~ Comment ~


どんな「お願い」なんだろう?

どうかふたりとも幸せをつかめますように。
#889[2011/12/12 07:50]  ポール・ブリッツ  URL  [Edit]

ポール・ブリッツさまへ

ポール・ブリッツさん、

コブラは来ません(--;
そんなモノ来られたら、屋敷が破壊されます。(しかもfateが描ききらん!)

それから、「お願い」はですね~
とかって、ここでネタバレしたくなるわ~

#893[2011/12/12 08:25]  fate  URL 

うおーっ!
何だかとてもやばい展開になってきましたな。
途中の官能パートと同じくらい鼻息が荒くなってきました(おい! おい!)

コブラって、サイコガンのコブラ?
#1069[2011/12/24 14:51]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ヒロハルさん、

なんか、笑えるコメントをありがとうございます(^^)

> コブラって、サイコガンのコブラ?

↑↑↑んんんっ???
恐らく、アニメのあの、無敵っぽい男性のことだとfateは解釈しておりましたが、あれ? よく分かりません。
何ページか前のポールさんのコメントへの返信でした(^^;

#1077[2011/12/24 18:12]  fate  URL 

確かにあのコブラなのかわからなかった! 笑。

多分、あのコブラなら、新しく来た男にこう言うと思います。

「あんたをパーティに招待した覚えはないんだがね」

参考までに(もう、意味わからなくなってきちゃった)。
#1079[2011/12/24 21:43]  ヒロハル  URL 

ヒロハルさまへ

ヒロハルさん、

朝から笑わせていただきました(^^)
なるほど~!!!
素晴らしいです、コブラさん、あ、いや、ヒロハルさん。
そうだったら(来てくれたら、そして、そう言いながらお呼びじゃない男はさっさと退治してくれれば)良かったのにね~、まったく(^^;

#1084[2011/12/25 08:32]  fate  URL 














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