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Stories of fate


光と闇の巣窟(R-18)

光と闇の巣窟 (生命) 15

「すみません、今日は、夕食はけっこうです。」

 俺が振り返ってそう言うと、一瞬、息を呑んで彼女は、分かりました、とそのまま出て行った。

 俺は、何も言わずに、ただ、茉莉の身体を抱きしめて、彼女が諦めて身体を預けるのを待っていた。使用人の登場にも一切関心を示さず、泣き続けていた茉莉は、ようやく疲れてとろとろと眠りに落ちた。

 ぐったりと俺に身体を預けて、すうすうと寝息を立ててている茉莉を腕に抱いたまま、俺はゆっくりと立ち上がり、ベッドへ腰を下ろす。

 改めて部屋の中を見回すと、今まで描いたらしい人物画がバラバラに引き裂かれて散乱していて、そして、それを見るともなしに見てみると、俺は何やら違和感を覚えた。

 茉莉はひたすら母親の肖像を描いていたので、人物画はすべて母親の顔だと思っていた。しかし、今、床に散らばっていたのは男の顔だった。

「・・・俺?」

 思わず呟いた声に、俺も驚いた。
 そうだ、この絵は俺の顔だ・・・。
 どういうことだろう?
 俺は、腕の中の少女の顔を見下ろし、まさか?と思う。

 今まで、一日たりとも休まなかった勉強を今日はしないと言われ、俺は彼女の手の届かない‘外’の世界に出かけてしまった。それが、俺に見捨てられたという風に感じさせてしまったのだろうか。

 この屋敷の中で、唯一、茉莉に関心を持ち、彼女のために心を砕いていたのがここ数ヶ月、恐らく俺だけで、・・・いや、父親が死に、彼女を気に掛けてくれていた使用人が死に、その後は誰も彼女を人として扱ってはくれなかったのだろう。

 そんな孤独の中、家庭教師としての役目でしかなったが、それでも彼女に寄り添っていたのは俺だけだった。

 それを失うかもしれないというのは、茉莉にとって、・・・狭いこの部屋が彼女の世界のすべてであるこの子にとって、そこから俺がいなくなるかも知れない、というのは気が狂うほどの恐怖と孤独だったのかも知れない。

 感情表現もうまく出来ない、思いを伝える術も持たない茉莉は、「行かないで」と言えない。
 恐らく、一日、泣くことすら出来ずに、自らの闇と対峙してきたのだろう。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ミステリ

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