FC2ブログ

Stories of fate


光と闇の巣窟(R-18)

光と闇の巣窟 (生命) 13

 その夜、茉莉は俺の部屋に来なかった。
 う~ん、さすがに身の危険を感じたか。

 自分の仕事を終え、さて、俺も寝るか・・・と思った頃、不意に扉の外に人の気配がした。
 そんなこと分かるもんか!と俺も思うのだが、なんだか、そんな気がしたのだ。

 気になって扉を開けて見ると、そこには茉莉がいた。相変わらず裸足でまったくの寝巻きのままで。身体を丸めてドアの前にうずくまっていた。

「何してるの?茉莉ちゃん、いったいいつからここにいたの?」

 俺は呆れて彼女の身体を抱き上げる。すっかり冷え切って、彼女は震えていた。

「バカだね、入ってくれば良かったのに。俺が気付かなかったら、このまま朝までいるつもりだったのかい?」

 いつもならもうとっくに眠っている時間なのに、茉莉はしっかりと目を見開いていた。

 小さな身体をすっぽりと包むように胸に抱いて、俺は一緒にベッドにもぐりこむ。茉莉は何も言わなかった。もともと口数は少ないし、感情表現すらほとんど出来ない子だが、その夜は、なんだかいつもと様子が違っていた。

「先生・・・」

 細い声が聞こえた。

「どうした?」

 きゅっと小さな手が俺の胸元にすがりつく。
 その震える背中を抱いてやると、茉莉は安心したようにすうすうと眠りに落ちていった。
 自分でも、よく分からなくて、分からないことに混乱していたのだろう。
 茉莉は、それまで、‘恐怖’以外の感情を抱く機会すら与えられてこなかったのだから。




 ‘血’とは、なんだろう?

 その身体に流れる赤い液体。それが巡って生命が始動する。生物の発生学的には、心臓よりもまず始めに血管が出来て、血液成分がすでにその中を満たしているという。次第に血管の一部が膨れて筋肉が発達し、心臓が形成される。

 だけど、それは親から与えられるものではなく、作り出すのは新たなそれぞれの命独自のものだ。遺伝情報、設計図だけが親から子へと伝わる。交じり合うことはないのに、同じものを作り出すようになっている。

 同じ過程で出来たものは、同じ道を辿ることが多い。それだけのことだろうか。それとも、呪いのような、病んだ形質はそのまま受け継がれるのだろうか。

 この小さな身体の中に、あの男に通じる‘絆’が潜んでいるのだろうか?
 腕の中の少女を抱いたまま俺はそんなことを思う。

 いつか、この子を憎み、呪い、めちゃくちゃにしてやりたいと思うのだろうか?
 この屋敷全体を覆う黒い歪みのようなもの。
 それが、悲しみから派生していることが辛い。

 誰も彼もが悲しみ、苦しんだ結果が恨みとなり、呪いとなってじわじわとこの空間を侵食している。いつか、俺もその闇に呑みこまれ、この子は、最後の救いを失うのだろうか。
 


(※最初から読む:光と闇の巣窟 1


関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←光と闇の巣窟 (生命) 12    →光と闇の巣窟 (生命) 14
*Edit TB(0) | CO(0)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ミステリ

~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←光と闇の巣窟 (生命) 12    →光と闇の巣窟 (生命) 14