一般常識を、茉莉があまりに知らないので、俺は保健体育の教科書を手に入れて、女の子の月のもの、つまり月経に関する知識とか、雌雄の成り立ち、生殖の仕組みなどの講義を試みてみようと考えた。
いずれ、どうしたって知ることになるものだし、理科学の基礎でもある。
まぁ・・・スケベ心がまったくないといったらそれは嘘になるが。
もう、冬も明ける頃だった。
その頃になると、茉莉の体重はぐんと増えたのではないだろうか。見た目の身体つきも少し丸みを帯びてきたように思う。もっとも、俺は毎日見ているのであまり変化は分からない。
しかし、何かの拍子に抱き上げたとき、今まで本当に人間か?仔猫じゃないのか?という軽さだったのに対し、少し出応えを感じた。つまり、胸や尻の辺りにだ。
ふうん、と俺はしばしその手に受けた感触に感慨を抱く。
少しは‘成長’したらしい。
その日の午後、生物の進化とか発生の仕組みと共に、植物から始まり、動物の生殖を講義する。卵生生物から胎生生物に至る進化など。
生命の始まりが、雌雄の交わりから発生すること。
「人間も同じなんだよ?」
と、最後に言うと、茉莉はきょとん、と俺を見上げ、不思議そうに呟く。
「にんげん・・・」
彼女の口から発声されたそれは、何か別の生物のように感じられるくらい、茉莉は、自分もその一員であるとは信じていないことが明らかだった。
「君も、そうやって、お父さんとお母さんの遺伝子を半分もらって生まれてきた。分かる?」
「遺伝子?」
「そう。雄の精子と雌の卵子が融合して、一個の人間が出来上がる。」
茉莉はぼうっと俺を見上げたままだ。
「魚は、雌が卵を産んだ瞬間に精子を撒いて受精させる。鳥や牛・馬なんかになれば、雄が直接自分の精子を雌の胎内に送り込む。高等動物になればなるほど、自分の子孫を確実に残せる確率があがるのさ。」
「直接・・・?」
「そうだよ。鳥だって動物だって、交尾をするだろ?」
言ってから、そうか、この子はそういう光景を一切見たことがないんだと思い出す。テレビすら、見せてもらったことがあるのだろか?この高度に経済の発展した日本国内で、文明の恩恵を受けていないのはむしろこの子だけではないか、と思う。
「今度、写真でも見つけて見せてあげる。」
茉莉は、いつまでも不思議そうに俺を見上げていた。その純粋な興味の光が、どこか恍惚とした色を帯びたように見えて、俺は初めて彼女を異性なんだと認識する。
「・・・試してみるかい?」
思わず俺は、からかい半分でそう口にする。
「え?」
茉莉は、当然、その意味など分からない。俺は、こちらを見つめている茉莉の頬にそっと触れて、ちょっと意地悪く微笑む。
「生殖の仕組みを、教えてあげようか?君のその・・・」
すうっと、首に手を滑らせて俺はもう片方の手で彼女の背中を抱き寄せる。
「そう、この身体に。」
茉莉の顔にさあっと恐怖ともとれる色が浮かんだ。そういうことは本能的に何かを感じるらしい。
一瞬、身を固くした茉莉は、しかし逃げようとはしなかった。継母の言葉が、彼女の身体の奥深くまで支配しているのだろう。生きていくためには、彼女の言葉に従わざるを得なかったから。
「写真なんかで見るより、よく分かるよ?」
尚も追いつめてみると、泣き出すかと思いきや、茉莉の瞳は不意に揺れた。
あれ?と思った。
微かに震えてはいたが、拒絶の空気はなかった。
「茉莉ちゃん?・・・君、言われてる意味分かってる?」
俺は、表情を緩めて彼女の顔を覗き込んだ。
潤んだ瞳のまま、彼女はちょっと首を傾げ、小さく首を振った。
まあ、それはそうだろう。
もうすぐ、夕食だし、と俺は彼女の身体を抱いたまま考えた。ふざけるのもいい加減にしておくか。
俯き加減の茉莉の顎をくい、と持ち上げてその唇に軽くキスを落とし、俺は彼女の身体を解放した。
「さて、じゃあ、今日はここまでにしておくか。もうすぐ、夕食の時間だし、片付けてね。」
いずれ、どうしたって知ることになるものだし、理科学の基礎でもある。
まぁ・・・スケベ心がまったくないといったらそれは嘘になるが。
もう、冬も明ける頃だった。
その頃になると、茉莉の体重はぐんと増えたのではないだろうか。見た目の身体つきも少し丸みを帯びてきたように思う。もっとも、俺は毎日見ているのであまり変化は分からない。
しかし、何かの拍子に抱き上げたとき、今まで本当に人間か?仔猫じゃないのか?という軽さだったのに対し、少し出応えを感じた。つまり、胸や尻の辺りにだ。
ふうん、と俺はしばしその手に受けた感触に感慨を抱く。
少しは‘成長’したらしい。
その日の午後、生物の進化とか発生の仕組みと共に、植物から始まり、動物の生殖を講義する。卵生生物から胎生生物に至る進化など。
生命の始まりが、雌雄の交わりから発生すること。
「人間も同じなんだよ?」
と、最後に言うと、茉莉はきょとん、と俺を見上げ、不思議そうに呟く。
「にんげん・・・」
彼女の口から発声されたそれは、何か別の生物のように感じられるくらい、茉莉は、自分もその一員であるとは信じていないことが明らかだった。
「君も、そうやって、お父さんとお母さんの遺伝子を半分もらって生まれてきた。分かる?」
「遺伝子?」
「そう。雄の精子と雌の卵子が融合して、一個の人間が出来上がる。」
茉莉はぼうっと俺を見上げたままだ。
「魚は、雌が卵を産んだ瞬間に精子を撒いて受精させる。鳥や牛・馬なんかになれば、雄が直接自分の精子を雌の胎内に送り込む。高等動物になればなるほど、自分の子孫を確実に残せる確率があがるのさ。」
「直接・・・?」
「そうだよ。鳥だって動物だって、交尾をするだろ?」
言ってから、そうか、この子はそういう光景を一切見たことがないんだと思い出す。テレビすら、見せてもらったことがあるのだろか?この高度に経済の発展した日本国内で、文明の恩恵を受けていないのはむしろこの子だけではないか、と思う。
「今度、写真でも見つけて見せてあげる。」
茉莉は、いつまでも不思議そうに俺を見上げていた。その純粋な興味の光が、どこか恍惚とした色を帯びたように見えて、俺は初めて彼女を異性なんだと認識する。
「・・・試してみるかい?」
思わず俺は、からかい半分でそう口にする。
「え?」
茉莉は、当然、その意味など分からない。俺は、こちらを見つめている茉莉の頬にそっと触れて、ちょっと意地悪く微笑む。
「生殖の仕組みを、教えてあげようか?君のその・・・」
すうっと、首に手を滑らせて俺はもう片方の手で彼女の背中を抱き寄せる。
「そう、この身体に。」
茉莉の顔にさあっと恐怖ともとれる色が浮かんだ。そういうことは本能的に何かを感じるらしい。
一瞬、身を固くした茉莉は、しかし逃げようとはしなかった。継母の言葉が、彼女の身体の奥深くまで支配しているのだろう。生きていくためには、彼女の言葉に従わざるを得なかったから。
「写真なんかで見るより、よく分かるよ?」
尚も追いつめてみると、泣き出すかと思いきや、茉莉の瞳は不意に揺れた。
あれ?と思った。
微かに震えてはいたが、拒絶の空気はなかった。
「茉莉ちゃん?・・・君、言われてる意味分かってる?」
俺は、表情を緩めて彼女の顔を覗き込んだ。
潤んだ瞳のまま、彼女はちょっと首を傾げ、小さく首を振った。
まあ、それはそうだろう。
もうすぐ、夕食だし、と俺は彼女の身体を抱いたまま考えた。ふざけるのもいい加減にしておくか。
俯き加減の茉莉の顎をくい、と持ち上げてその唇に軽くキスを落とし、俺は彼女の身体を解放した。
「さて、じゃあ、今日はここまでにしておくか。もうすぐ、夕食の時間だし、片付けてね。」
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