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Stories of fate


アダムの息子たち(R-18)

アダムの息子たち (永遠を抱いて) 126

 しばらく茫然としていた小枝子は、半月以上経ってから、ようやく少しずつ現実に戻ってきた。

「あら、暁・・・?帰ってたの?」

 ある朝、小枝子は長男が朝食の支度をしている姿を見て、驚いたように言う。そして、一瞬ののち、小枝子は、思い出す。何故、息子がいるのかを。

「・・・おはよう、母さん。今朝は気分どう?」

 彼は、努めて平静を装う。
 母は、まだ現実と過去の幻影との狭間を行ったり来たりの状態だった。

「気分?大丈夫よ?それより、聖凛は?」

 言ってから、はっとする小枝子の表情に、暁は気付かない振りをして、母がよく作ってくれる野菜スープを器に盛りつけながら言った。

「外で作業しているから、聖耶と飛龍を呼んで来てよ。もう、朝飯出来たから。」
「・・・ありがとう。」

 小枝子の笑顔は痛々しかった。

 一秒ごとに、戦っているようだった。過去の幸せな時間に逃げ込んで狂ってしまいたい衝動との。

 夢の中で永遠に聖凛の腕に抱かれていたい甘い誘惑を蹴って、一日が始まる。目覚めて、自分のいる場所を確認して、隣に眠るはずの夫の姿がないことにすとんと心は闇に冷える、その瞬間の恐怖。

 そのまま闇に引き込まれてしまわないのは、ひとえに子ども達の存在だった。
 起き出して、着替えて、聖凛がいつもいたはずの空間に彼を探してしまう。
 何度でも、心は幸せだった世界に帰還する。姿の見えない夫を呼んでしまう。

 そして、子ども達の切ない瞳に出会って、ああ、彼はもういないんだった・・・と思い知るのだ。



 
「大丈夫だよ、母さん。」

 ある夜、花火を買ってきた、と飛龍が言い、夕暮れを見ながら4人で浜辺に出てで花火をした。半月が海の上でぼうっと光っている。ぱちぱちと花火の音が可愛らしく響き、聖耶と飛龍は、打ち上げの大きな花火に大騒ぎをして点火している。

 線香花火を持って砂浜に座り込んでいる小枝子の傍に、暁がやってきて一緒に座る。

「父さんは、あんなこと言ってたけど、俺たちにすら焼きもち焼くような人が、絶対に白龍に母さんを譲って黙っているわけないよ。白龍じいちゃんは、ただ優しい人だったみたいだから、きっと彼を押しのけても母さんと同じ時代に生まれてくると思うよ。」

 小枝子は、息子のそのむちゃくちゃな慰め方に笑った。
 ぱーん、と打ち上げ花火の大きな音が海に響いて吸い込まれていく。

「・・・うん、ありがとう。私も、もう大丈夫よ。生まれ変わる前に、あっちの世界できっと二人に会えるだろうし・・・。」

 小枝子は、年齢的には50歳になっている。

 巫女だった曾祖母は長命だったが、それでもあと数十年だ。息子たちがこれから先も途方もない年月を生き続けていかなければならないのに比べたら、ほんの僅かに思える。

 聖凛と暮らした30年ほどの年月を、その幸せだった時間をそっと胸に抱いて、それを反芻して生きるにはちょうど良いかもしれない。

 そして。
 小枝子は彼を失ってから今までの時間を経て、分かったことがある。

 これは、白龍が、そして幼い聖凛が過ごした苦しみの時間なのだ、ということだ。

 自らの‘死’が、こんなにも愛する人々を苦しめたのだということを、彼女はようやく知ったのだ。白龍がその悲しみの余り、もう、生きていけなくなったその闇の深さを。

 これは、罰だと、小枝子は思ったのだ。
 かつて、自分が愛する人々に与えた苦しみを、今、耐えることが。

「大丈夫。・・・だって、聖凛には誰もいなかったのに、私にはあなた達がいるもの。」

 小枝子は微笑んだ。
 その笑顔を、花火の明かりが美しく照らした。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

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