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Stories of fate


光と闇の巣窟(R-18)

光と闇の巣窟 (生贄) 6

「いつもは何時くらいに眠ってるの?」

 彼女をベッドに座らせて、俺は聞いてみた。

「9時・・・。」
「早いね。」

 俺は呆れる。そうすると、もうそろそろこの子は眠る時間だ。

「じゃ、先に休みな。俺のベッドで良いから。」

 さすがに、俺はまだ眠れない。今日買ってきた教材に一通り目を通して、内容を把握しておこうと思っていたのだ。それに、階下の応接間にテレビがあることを知っていたので、後で、ちょっと観に行こうと考えていた。

 茉莉は、しばらくどこか落ち着かない様子だったが、やがて、ベッドにもぐり込んで丸くなると、そっと目を閉じた。

 俺が立ち上がって本を開いたりパソコンに戻ったりする度に、茉莉ははっと目を開けていたが、その内、俺がまったく彼女に対して関心を示さずにいると、やがてすうすうと寝息が聞こえ出した。

 その無邪気な寝顔を見ていると、とても15歳とは思えない。そして、あの男の血が流れているということも何かの間違いではないかという気すらしてくる。あの夫人と同じく、先妻も、元の恋人(いたのかどうかは知らないが)の子どもを身ごもったまま嫁いできたんじゃないか?などと思いたくなった。

 教科書に目を通すだけのつもりが、教え方をいろいろ考えている内に、思ったより時間を喰ってしまった。
 もう11時を回り、俺も眠くなってきた。

「教えながら遣り方を検討していくか。」

 寝ようと思ってベッドを振り返り、ああ、この子がいたんだ、と思い出す。

「いくら継子でも、あんまりじゃないか?」

 しかし、彼女の気持ちも分からなくもなかった。

 俺も思い出していた。彼女の悲恋物語を。夫人の恋人だった男は、最後には、自分のせいで会社に迷惑が及ぶのを恐れて、知り合いや友人がどんなにこっそり雇ってくれようとしても、自分から断って、自分と関わりを持ったばかりに潰された会社に保険金が下りるように契約書を書き換えて、自ら命を絶ったのだ。

 遺書は、なかったそうだ。
 そのとき、あの夫人は復讐を誓ったのだろう。彼女は、初めから復讐のためにこの家にやってきたのだ。

 そして、あの男の血が流れている。それだけで、もうこの子は許し難い存在なのだ。
 殺された方がマシだと思わせながら、生きたまま心を殺していくつもりなのだろう。
 その同志として、同じように家族を殺された俺が選ばれたのだろうか。

 すうすうと寝息を立てる少女を見下ろし、無防備なその白い肌に紅い花を散らす瞬間の欲望を考える。ただ、怯えて毎日を暮らす憐れな生贄。飢えた狼に与えられた子ウサギの運命など知れている。

 しかし、その夜は、何故か俺はその気にならなかった。あまりに陳腐な筋書きに、バカみたいに乗りたくなかったというのだろうか。

 いや。それでも、この子には人を狂わせる魅力が確かにあると思う。儚げに美しい、ガラス細工のように完璧な人形を、この手で壊してみたくなる。この腕に鳴かせ、狂わせてみたい。そんな欲望が首をもたげる。

 別に急ぐ必要はない。この子はもう俺に与えられた獲物だ。
 茉莉の隣にそっと横になると、彼女は軽く身動ぎした。

 幼い顔。やせた白い手足。まだ充分ではない胸のふくらみ。細い足首。・・・少女だ、と思った。清らかで、まだ男を知らない、この世に男女がいることの意味すら知らない娘。

 おやすみ、と額に口付けて、俺も眠りに落ちた。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ミステリ

~ Comment ~


わからなくもないですけどね

この、茉莉ちゃんのお義母さんの気持ち。
そりゃあ茉莉ちゃんの父親は憎いでしょう。
そいつが死んでしまって、娘に憎しみが向かうっていうのも、わからなくはないんですけどね。

復讐、憎しみ、そのために生きてるってのは……ああ、ため息。

如月さんはむしろ茉莉ちゃんを救ってくれるのかな。
どんなふうにであっても、たぶん、ですよね。
如月さんの複雑な心境の中には、サディスティックな感情も含まれているのでしょうけど。

#2345[2012/08/28 01:07]  あかね  URL 

Re: わからなくもないですけどね

あかねさん、

彼女の境遇をもっと詳しく描いたら、復讐に向かうのも仕方ないかなぁ、と思える展開だったのかな。
fateは、それでも、復習は虚しいと思う。
『紺碧の蒼』は、それを描いた世界でしたから。
いや、この辺りを描いていた頃って、サンホラの「メルヒェン」一色っだった時期だから、ものすごく‘復讐’を突き詰めて考えておりました、たぶん。
だから、描く作業よりも自身を真っ暗闇に落とし込み続ける時間に疲弊したくらい。
ハリー・ポッターシリーズで、最後に、ハーマイオニーがヴォルデモードについて言及していたことに共感を得たこと等で、fateの持論(現在の)は完成したから、それを伝えたくて「紺碧の蒼」「光と闇の巣窟」更に「another story」が生まれました。

> 如月さんの複雑な心境の中には、サディスティックな感情も含まれているのでしょうけど。

↑↑↑関係ないけど、前回コメいただいてこれを読み返して、おお、こいつの苗字って一応設定していたんだ!
と驚愕しました。
なので、今、如月さんって誰だ? にならずに済んでおります。たまに名前のみの(主要)人物もチラホラ~なので(^^;

で、はい、まったくその通り。
そういう部分のない男なんて、fate worldにはあんまり出現しないのサ~
たまに、振り回されるだけのバカもいるけどな。

#2348[2012/08/28 07:30]  fate  URL 














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