FC2ブログ

Stories of fate


光と闇の巣窟(R-18)

光と闇の巣窟 (生贄) 5

 その夜、町で調達してきた教科書や問題集などを抱えて俺は屋敷に戻って来た。
 夕食は、食欲を失うほど静かだった。

 最低限、食事のマナーだけは躾けられているようで、茉莉も静かに食事を進行させていたが、それでも絶えずおどおどと継母の顔色を窺っていた。

 彼女の息子は、利発そうで、凛とした綺麗な瞳をした男の子だった。茉莉より4歳下ということは、今年、小学校5年生くらいだろうか。母親に何か言われているのか、姉に対して、何の関心も払わない。まるでそこには誰もいないように振舞う。母親から恨みつらみを聞かされて育ってきたのだろう。

 それはそれで、気の毒な気がした。

 恨みや憎しみからは、‘何も’生まれないのだ。しかし、そう思えたのは俺もごく最近のことだ。5年前にあの男が死んで茫然とし、たっぷり数年間、俺は生きなければならない理由を見失ったままだったのだから。

 食事を終えて、それぞれが席を立ったとき、夫人は茉莉を呼び止めた。

 俺は、先に失礼させてもらって、さっさと浴室でシャワーを浴びて、部屋に戻った。インターネットで、何かもっと良い教材を探してみようと思ったのだ。言葉すらろくに教えてもらっていないのでは?という状態の子に、どの程度までレベルを落として進めて良いやら・・・。

 教材の検索に飽きて、ニュースなどを動画で観ているとき、ふと、ドアをノックする音が聞こえたような気がして振り返る。ドアを凝視したが、その後、何の音もしない。

 気のせいか・・・?
 また画面に視線を戻すと、やはり微かにドアを叩く音が聞こえる。

「どうぞ?」

 振り返って答えてもドアは開く気配はない。
 俺は立ち上がってドアまで行き、扉を開けた。そこには茉莉がパジャマ姿で所在無く立っている。

「・・・茉莉ちゃん?」

 俺が声を掛けると、彼女はびくりと震える。

「どうしたの?何か用?」

 茉莉は両手を握り締めて震えている。

「怖い夢でもみた?」

 まだ寝る時間でもないのに俺は他に思いつかずにそんなことを聞いてみる。しかし、彼女は小さく首を振った。

「・・・部屋へ戻って休みなさい。話なら、明日聞いてあげるし、明日から勉強を始めるから、今日は休んでおいた方が良いよ。」

 しかし、茉莉は目に涙をいっぱいためて首を振り続けた。

「・・・もしかして、誰かに何か言われてきた?」

 茉莉は、小さく頷く。
 誰に何を言われたかは聞かなくても分かった。
 俺はため息をつく。

「君、夜中にそんな格好で男の寝室を訪ねる意味、分かってるの?」

 茉莉は、怯えきった目で俺をそっと見上げる。ある程度の知識を与えられてきたか、或いはまったく何も知らされずに送り込まれたか、どっちかだろう。

「分かった、まず、入りなさい。」

 俺は、茉莉を部屋の中に引き入れた。



関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←光と闇の巣窟 (生贄) 4    →光と闇の巣窟 (生贄) 6
*Edit TB(0) | CO(0)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ミステリ

~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←光と闇の巣窟 (生贄) 4    →光と闇の巣窟 (生贄) 6