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Stories of fate


光と闇の巣窟(R-18)

光と闇の巣窟 (生贄) 2

 が、結局、俺は引き受けざるを得なくなる。

 その噂はあっと言う間にこの小さな町には広がっていて、すでに俺はその屋敷に雇い入れられてことになっていて、塾の講師の仕事はなくなっていたのだ。

「まだ、引き受けちゃいませんよ!」

 と言ってはみたものの、せっかく俺の代わりに仕事にありつけた若い青年のがっかりした顔を見たら、仕事を取り返す気も失せてしまった。

 俺は、もう今年で30になる。しかし、その若者はまだまだこれからなのだ。可愛い彼女と就職祝いをしていた、という話に、もう何も言えなかった。

 生活に関わるものは全て用意してあるので、と言われ、俺はアパートの家財道具すら彼らに譲って、身一つでその屋敷へ向かった。

 確かに憎い男の娘ではある。
 しかし、彼女自身に俺は恨みはない。

 それでも、その子の中にあの男の面影を見て、俺は憎むだろうか。・・・分からなかった。それでも、引き受けただけのことはしよう、そう、決めた。

「俺の前は誰が彼女に・・・?」

 その日、継娘の部屋を自ら案内する夫人に聞くと、彼女は言った。

「夫が生きている間は、僅か数年でしたが相応の家庭教師をつけておりました。夫の死後、彼女には辞めてもらい、その後はまったく何も。先日、やっと夫の幼い頃からの使用人だった男が亡くなりました。その男は、やはり夫の子どもが主人となりますから、いろいろ手を尽くして教育を受けさせようとしておりましたが、私がすべて断っておりました。ですから、あの子は小学生程度の知識しかないと思います。本は少しは読みますが、何しろ、生まれてから一度もこの屋敷から出ておりませんから。」
「・・・どこが、どう身体が悪いのですか?」
「どこも。」
「・・・は?」
「いたって健康です。」
「では、何故、病弱などと・・・」
「あの子が外へ出て無事に生きていけると思いますか?父親が、財力にものを言わせて悪徳三昧をしているのに、その子が攻撃を受けないとでも?誘拐や強姦、そういう事件に巻き込まれることを夫は心配したようです。」

 聞けば聞くほど反吐が出そうだった。

「俺に、何をしろと?」
「ですから、それはまったくお任せいたします。ただ、生かしておいてください。一応、あの子は、この家の当主ですから。」
「あなたの傀儡の?」
「ええ。」

 悪びれる様子は一切なく、彼女は頷いた。

「夫の残した家も会社も、私の息子が綺麗に引き継いで、この町に貢献していきます。この町はあの子の本当の父親が生まれ育った町。この町を恨んではおりませんから。」
「なるほど。お姫様のお守りを任せてくださる訳か。」
「姫なのか、奴隷なのか、それはあなた次第です。」

 にこりともせずに彼女はそう言って、継娘の部屋の扉の前に立つとノックもせずにドアを開ける。

「茉莉さん、今日からあなたに勉強を教えてくださる京介先生です。」

 ベッドに腰かけていたその少女は、突然部屋に現れた継母の言葉に、そして、見知らぬ男の姿にぎょっとしたようにこちらを凝視する。

 その部屋は、10畳ほどの広さだろうか。窓際に書斎机があり、数冊の本が乱雑に置かれている。そして、ベッドと反対側の壁際に飾り棚のようなものがあり、そこにぬいぐるみだとか人形だとかが並べて置かれてある。テレビやオーディオのようなものはなく、床に散らかっているのはいくつかの書き殴ったような絵とも呼べない代物が描かれた画用紙と色鉛筆だった。

 15歳?これで?

 見かけは、まったく、まだ幼い少女のようだった。飾りのほとんどないすとんとした桃色のワンピースを着せられ、この寒いのに素足のままだ。

 そして、あれほど憎んだあの男の面影はほとんどない。恐らく、母親の血が濃いのだろう。肖像画(今どき、写真ではなく肖像画を描かせているのだ!)を見た限り、この子の母親は儚げな美人だった。

 透き通るほどの白い肌に、くっきりとした黒い目。小さく整った目鼻。肖像画の母親にそっくりだった。

「茉莉さん、こちらに来てご挨拶なさって。」

 言葉は丁寧だが、その口調は冷たく威圧的だ。



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~ Comment ~


うわー

えーと、次はこちらを読ませていただきますね。

のっけから息苦しくなるような設定で、うわー、このお母さん……なんというか、そんなにも恨みが深いんだ、と。

だけど、茉莉さんを外には出さないようにしようとしていた亡夫の遺志を継いでいるということは、どこかしら義理の娘を守りたい気持ちもあるのかと思わなくもなく。

そのあたりは読み進めていけばわかってきますよね。

そして、主人公の彼。
「不幸になりたがっている男」なんですね。

なにからなにまで読んでいて苦しくなりそうなストーリィですけれど、まだはじまったばかりですし、これからじーっくり読ませていただきます。
#2333[2012/08/24 01:05]  あかね  URL 

Re: うわー

あかねさん、

> のっけから息苦しくなるような設定で、うわー、このお母さん……なんというか、そんなにも恨みが深いんだ、と。

↑↑↑なんだか、昼ドラのような安っぽい世界観っすね~
ううむ、もう少しなんとかならんかったのか、fate!
結局、悲劇の中身を語らんから、感情移入しにくいし、淡々と流されてしまって、は? って感じですな(^^;
そういう悲惨なハナシって実は描くのが辛いんですよねぇ。
あまりにリアルに描けない。でも、描かないと物語が薄っぺらくなる。
うおおおおぅ、ジレンマじゃあ!
と、ここで絶叫しとらんで、少しはドキュメンタリーを観るとか読むとか勉強するとかして、世界に責任を持たんとなぁ。
と、久しぶりに自身、読み直してしみじみいたしやした。
時間が経ってから読み直すとアラが目立ちますなぁ(^^;
いつも、どの作を読み返しても、こんなん読んでいただいて恐縮です~
という気分になる。

> だけど、茉莉さんを外には出さないようにしようとしていた亡夫の遺志を継いでいるということは、どこかしら義理の娘を守りたい気持ちもあるのかと思わなくもなく。

↑↑↑ヒトコト。
ああ、そんな優しさは一切ありません、とだけ(^^;
彼女は徹底的な悪役です。(いや、そうでもないか???)

> 「不幸になりたがっている男」なんですね。

↑↑↑わはははは~
いやいや、単にふと浮かんだそのフレーズが気に入っただけっす。深い意味はありません~(^^;

これ、R指定ですので~
お気を付けください~
(今更、何を?(ーー;)
#2336[2012/08/24 10:13]  fate  URL 














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