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Stories of fate


アダムの息子たち(R-18)

アダムの息子たち (記憶の雫) 107

「どうして、桜庭さんの挑発に乗ったりしたの?」

 透夜の運転する車に乗り込んで、助手席の奈々子は、小枝子を抱いたままの後部座席の聖凛に話しかける。

「いや。・・・俺としては敬意を表したつもりだったんだけど。」
「は?どういう敬意よ、それ?」
「・・・俺に、あそこまで真剣に関わろうとしてくれた男(やつ)はそうはいなかったからね。」

 聖凛は、流れる車窓の闇を見つめて呟く。長い孤独だった日々を思い返すような遠い目で。

「二人とも、ただ決着を付けたかったんだろ。お互いに、それぞれの思いに。」

 透夜が静かに言った。彼をちらりと一瞥し、奈々子は「男って分からないわ。」という表情で振り返った。

「小枝子を巻き込んで泣かせないでよ。」
「・・・ありがとう。」

 聖凛は奈々子を見つめて微笑む。

 隆一は聖凛を確かに追いつめようとはしていたが、そのやり方はフェアなものだった。影でこそこそと画策を廻らし、誰か権力者を巻き込んだり、大学側に密告したりせずに、堂々と聖凛自身と渡り合うことを選んだ。その潔さに、聖凛は応えたかったのだろうか。

 小枝子を挟まなければ、もしかして二人は良い友人になれたかも知れない。
 だけど、もう長くはここにいられない・・・。

「聖凛って、小枝子をいつから知ってたの?」
「だから、400年前から。」
「はいはい。あなたがどうでも、小枝子は400年前はいないから。」

 不敵な笑みの聖凛をまったく相手にせず、奈々子は意図せずに真実を衝く。

「そうだね。俺が小枝子を見つけたのは、入試の直前くらいかな。それで、俺もいろいろ手をまわして大学部の学生になって潜り込んだから。」
「すごいね、筋が通ってて一見本当のことみたいに聞こえる。」

 聖凛はまったく信じない奈々子の健全さに思わず笑った。

「入学式後、間もなく学食で見かけたんだよ。理想の女性像をね。」
「でも、そんな素振り、全然見せなかったじゃない?なんとなく、あれ?とは感じても、あたしもしばらく気付かなかったもの。」
「いや、君はやたらと鋭かったよ。」
「そりゃ、女は誰でもそうよ。」

 黙って二人の会話を聞いていた透夜が、アパートの近くまで辿り着いたことを告げる。

「ありがとう。透夜も、今夜はウチ泊まってけば?」
「いや、大丈夫だよ。」

 彼は言いながら、奈々子の部屋の下にゆっくり車を停める。このアパートでは車を持っている子が少ないので、駐車場はいつも半分は空いていた。

「でも、もう遅いよ?透夜ん家の周りって、寝静まるの早いじゃない。」
「そうか・・・。そうだね、今、帰ったら迷惑かな。」
「そうだよ、ここからの方が大学近いし。」

 恋人たちの会話を邪魔しないように、聖凛は、静かにお礼を言って車を下りる。小枝子が微かに意識を取り戻し、聖凛の腕にしがみついた。

「小枝子?歩けるかい?」

 ぼうっとした表情で聖凛を見上げた小枝子は、小さく頷く。夢と現の狭間で、小枝子は聖凛と奈々子の会話を子守唄のように聞いていた。まだ、彼女の中は混沌としていた。400年前の巫女と、幼い小枝子の記憶とを行ったり来たりしていたのだ。

「ここに、戻ってきた?」

 聖凛は半分眠ったような状態の小枝子の身体を支えながら階段を一歩一歩上る。

 小枝子は、一気に蘇った記憶と時間の洪水に翻弄され、ひどく疲労していた。しかし一方で、それは精神(こころ)の安定をもたらした。分からなかったことが、もどかしかったことが綺麗な一本の線となってつながった瞬間でもあった。

 すべては複雑に絡み合ってここに在る。
 どれが欠けても今に辿り着けはしない。どんなに悲しいことも辛いことも、今を構成するために用意された布石だったのだと。

「・・・戻ってきた。」

 小枝子はゆっくりと頷いた。見上げた横顔は、永い彷徨いの果ての辿り着いた‘愛しい男(ひと)’のものだった。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

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今日はここまで

こんばんは!

この雰囲気…何かと似てると思っていたのですが、遠野物語のオシラ様の伝説ですね。

いや、お話の筋自体は全く違いますが、この「異形婚の悲恋、悲運…」というのが…。

直観的に思ったのですが、fate様はもしかして「イーハトーブ国」の方ですか?
もし、そうでしたら、大変な中、連日めいっぱいサイトを更新されていてすごい事だなあと心から讃嘆、そして労い申し上げます。
#621[2011/11/21 23:48]  有村司  URL 

Re: 今日はここまで

有村司さん、おお! ちょっとびっくりコメントありがとうございます。

> この雰囲気…何かと似てると思っていたのですが、遠野物語のオシラ様の伝説ですね。
> いや、お話の筋自体は全く違いますが、この「異形婚の悲恋、悲運…」というのが…。

↑↑↑そ、そうですか??? そういう意識はなかったですが、その土地って棲むモノにやはり影響を与え得るのでしょうな。
はい~ fateは被災地・沿岸部ではないですが、被災県内陸部です。
たまに沿岸部にも赴きます。
実際、初めてあの光景を見た時は、涙が出ました。

いや、被災地の皆様の焦燥と憤りと悲しみなどをよそに、のほほんとネットで遊んでいるfateもどうかと思いますが、出来ることをするしかない、というしょーもない事実を最近噛みしめております。
手が届くことしか影響を及ぼしえないのだ、ということを。

ご心配・お心遣い、心よりお礼お申し上げます!!!

#627[2011/11/22 12:14]  fate  URL 














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