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Stories of fate


アダムの息子たち(R-18)

アダムの息子たち (記憶の雫) 106

「ちょっと、聖凛、そのまま小枝子を抱いて帰る気?どんだけ歩くつもり?」

 髪の毛からまだ雫を滴らせたまま、聖凛はぐったりしたままの小枝子の身体を抱き上げて歩き始めた。

「いつか、辿り着くだろ?」
「バッカねえ!無理に決まってるでしょ?今、透夜を呼ぶから待ってて。」
「・・・君の彼氏?」
「そうよ!」

 携帯電話を取り出して電話をかけ始める奈々子を見つめる聖凛の瞳は優しかった。それは、小枝子の関わる世界を愛しむような、そんな神の眼差しだった。

 透夜。
 その名を彼も知っていた。お互いにお互いに対する関心が薄かったせいで、関わりを持ったことはない。ただ、お互いに悪い印象を抱いていない。そんな関係だ。

 隆一は、どこか毒気を抜かれたような茫然とした表情で二人の会話を背後で眺めている。一瞬意識を失い、目を開けた小枝子が呼びかけた名前。

 その意味するところを探ろうという気は、もう起きなかった。
 聖凛を見上げる小枝子の瞳が、彼女を心配そうに見つめた聖凛の瞳が、恋する者同士の切ない色を帯びていることを、隆一は気付いた。

 その途端、何もかもがバカバカしくなって、彼は苦笑する。

 初めは、確かに小枝子のためだった。彼女が不本意な関係を強要されていると彼は感じていたからこそ、聖凛を社会的に破滅させようと思った。もう、彼女に手出し出来ないように。

 だけど、小枝子と聖凛の結びつきは目に見えるモノよりずっと奥深く、見えない絆に結ばれていたものなのだと隆一は感じた。いや、とっくに分かっていたのに、認めたくなかったのだ。

 願ったのは・・・そうだ。小枝子の幸せだ。
 何故なら、彼女を好きだから。

「良いよ、こんな状態だし、汚れるよ。」
「大丈夫、座席にレジャーシートを敷いてきてもらうから。」
「・・・それも何気にひどくないかい?」

 メンバーは、二人が落ち着いたのを見て、また店に戻っていく。先輩が、ぽん、と隆一の肩を叩いて去っていった。

 結局・・・そうだ。いつでも小枝子の視線の先にいる聖凛に、嫉妬していただけだったのか。

「聖凛。」

 隆一は、突っ立ったまま、暗い瞳をして彼に呼びかける。
 聖凛は答えなかったが、動きを止めて聞く態勢に入る。それに気付いた奈々子が眉をひそめて二人を見守る。

「金城さんを、・・・愛しているのか?」
「400年前から。」

 聖凛は振り返らずにそう言った。

 もしかして、また喧嘩を始めるんじゃないかとハラハラしていた奈々子は呆れた表情をして聖凛を見つめる。彼女とは裏腹に、隆一は大きなため息をついた。

「だったら、もう少し優しくしてやったらどうだ。」
「余計なお世話だよ。」

 ずぶ濡れのまま、隆一は自分の額にかかる髪をかき上げて言った。

「僕は、本当に金城さんを好きだった。でも、それは、金城さんの幸せを願うことと同じだ。彼女が、お前を選ぶなら、・・・僕は、彼女の悲しむ顔を見たくない。それだけだ。」
 



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