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Stories of fate


アダムの息子たち(R-18)

アダムの息子たち (時を越えて) 104

 鬼が棲むという山に入っていく年若い巫女。
 祖母から受け継いだその力を、村のために使うべく使命を帯びて。
 村長の家に女の子が誕生し、その子を守るために、巫女に指令がくだったのだ。

 しかし、伝承の‘鬼’を彼女は見たことがない。そして、それは伝承でしかなく、すでに祖母の昔話でしかないその頃には、もはや‘鬼’はいないのでは?と彼女は思う。

 深い山奥に入り、険しい山道を辿るうち、巫女は誤って崖から足を踏み外してしまう。
 あっと思ったときには、切り立った谷底に向かって彼女の身体は落ちていった。

 絶対に助からないと思ったのに、巫女は、はっと目を開けて驚く。
 逞しい男の腕に抱きかかえられ、彼女は粉々に砕け散る寸前で助けられたのだ。

 美しい青年だった。
 彼は‘白龍’と名乗った。

 彼は、本当はその時点で分かっていた。巫女の装束をつけた彼女が、何のためにその山へ踏み入ったのか。
このまま彼の住む山里に連れ帰れば、まだ満足に動けない彼女は彼ら一族の者たちに殺されるか、慰み者にされてしまうだろう。

 白龍は、突然目の前に現れたまだ幼さの残る少女を、たとえ敵でも殺してしまえるような残忍さは持ち合わせていなかった。彼は、一族の中でも気弱で、だけど清い心を持った優しい男だった。



 白龍は時々山里を抜け出し、山を放浪して山の獣と過ごす変わり者だった。
 そのときに寝床として使う洞窟に、彼は巫女を連れて行く。そして、食べ物を集め、谷の水を汲み、彼女に生活の場を与えた。

 間もなく怪我が回復した巫女は、初めて会った、自分を巫女としてではなく、ただの友人として扱ってくれた優しい彼に恋をする。共に山の食料を集め、獣たちと関わって平和に暮らすそこでの生活は楽しかった。男ばかりの中で暮らしてきた白龍にとっても、それは初めての‘恋’だっただろう。それは、二人にとって至福の時間だった。

 その夏の終わり、巫女は彼の子どもを身ごもったことを知る。
 冬の間を、山で過ごすことは難しい。
 巫女は村へ帰ることにした。

 白龍が出かけている間に、巫女は一人山を下りて行ってしまった。春になったら、当然彼女は戻ってくるつもりだった。しかし、村へ戻った彼女は、白龍の正体を知ることになる。
お腹の子を殺せ、と言われ、巫女は村を逃げ出した。 

 一人、吹雪の山へ入り込んだ彼女は、行き倒れる寸前に白龍に拾われる。
 もう、帰る場所はないと、巫女は彼にすがりついた。



 翌年の春、巫女は白龍の山里で男児を出産する。
 しかし、彼女が巫女であることは一族の者たちに知られている。力は失っているとはいえ、彼女はやはり敵であった。人々の視線は冷たかった。彼女がそばにいる限り、白龍も、そして我が子聖凛も、冷たい視線にさらされ続けることになる。

 そして、何より、巫女の村に、彼らの存在を知らしめてしまった。巫女は彼女だけではない。山に入れる夏を待って、村の巫女がこの山里を訪れるだろうことは容易に想像できた。

 今の彼女に、愛しい人と我が子を守る力はなかった。
 巫女の力は女児にのみ、受け継がれる。
 巫女は禁断の秘術にすべてを託す覚悟を決めた。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

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