「金城さん、久しぶり。」
小枝子がたまたま一人で図書館にいる姿を見つけて、すかさず隆一は近づいて来て声を掛けた。その日、午後から講義がなくて、小枝子は課題を仕上げるために図書館にこもっていた。
「あ、・・・こんにちは。」
小枝子は机上に本を積み上げたまま、軽く会釈する。彼女は隆一を特に嫌っているわけではない。ただ、必ず聖凛とのことが絡むので避けたいだけなのだ。
「ここ、良い?」
何か適当な本を抱えて、彼は小枝子の返事を待たずに向かいに腰を下ろす。小枝子はちょっと困ったような表情を浮かべたが、それどころではないことを思い出して本の中身に集中する。彼女は講義を休んだりレポート提出が遅れたりしているので、追いつくのが大変だった。
「・・・そういえば、金城さん、何月生まれだっけ?」
「9月です。」
「ふうん、秋かあ。空が綺麗な頃だね。月初めの頃?」
「・・・どうしてですか?」
小枝子は資料から顔をあげる。
「いや、名月の頃かなあ、と思って。」
「20日です。」
「そうかあ、今年は満月と当たってる?」
「・・・分からないですけど。」
「今度、調べておいてあげるよ。」
「・・・。」
隆一の意図が分からず、小枝子はぽかんとする。そして、はっと我に返り、調べものを再開する。隆一もしばらく手元の本を眺めていたが、ふと、図書館の入り口に聖凛の姿を確認し、席を立った。
「じゃ、またね。」
隆一は無言で聖凛の脇をすり抜けて図書館を出て行く。それと入れ替わりに聖凛が、小枝子に声を掛けた。
「あいつと、何を話してた?」
その声に顔をあげて、小枝子は一瞬怯えた瞳をする。
「・・・あの、誕生日はいつか?って聞かれて・・・。」
「誕生日?」
聖凛の瞳が光る。どういうことだろう?もうすでにそこまで調べが進んだのだろうか?
聖凛は、小枝子の生まれた日を知っている。というより、小枝子の一族の、巫女の生まれる日は決まっているのだ。
そう。
満月の日、ちょうど月が満ちる時間に、彼女達は決まって生まれる。特に中秋の名月の日、完全なる満月の日に生まれる巫女は力が強いといわれる。
古代邪馬台国の巫女、日巫女が太陽の巫女なら、小枝子の一族は月の巫女である。
小枝子は、20年前の秋の月の満ちた瞬間に生まれている。
「それで?」
「・・・それだけ。」
隆一の前では平気で自分の勉強を続けていたのに、聖凛が現れた途端、小枝子はおどおどとして、彼の反応をうかがっているだけだ。
「・・・目を離した俺が悪いね。良いよ、今日はもう、やつも近づいてこないだろう。夕方、迎えに来るよ。」
聖凛はそうため息をついてその場を去っていった。
小枝子は、それを見送ってほっとする。小枝子を挟んでいると、聖凛と隆一は一触即発の状態になる。それを見るのは怖かった。誰かが傷つくのは。
聖凛を好きなのか分からない。だけど、隆一に対する好意とは違うものを抱いていることだけは確かだ。それは、とても深く重いものだ。隆一の存在は例えて言うなら、奈々子に対するものと変わりがない。位置付けはあくまで『友人』なのだ。
では、聖凛は・・・?
ふと彷徨って小枝子ははっとする。
いけない、いけない。こういうことを考えることを、聖凛はひどくイヤがる。それに、今は、本当にそれどころではない。明日までにレポートを二つ仕上げなければ単位がもらえない!
聖凛はあまり勉強しているようには見えないのに、妙に知識が豊富で頭が良い。最終的にどうにもならなくなって、最近では小枝子は結局、レポートでも何でも聖凛に頼ることが多かった。
彼は、そういう、他人の面倒見は良い方だった。以前から、よくいろんな人に頼られて勉強をみている姿を見かけていた。
小枝子がたまたま一人で図書館にいる姿を見つけて、すかさず隆一は近づいて来て声を掛けた。その日、午後から講義がなくて、小枝子は課題を仕上げるために図書館にこもっていた。
「あ、・・・こんにちは。」
小枝子は机上に本を積み上げたまま、軽く会釈する。彼女は隆一を特に嫌っているわけではない。ただ、必ず聖凛とのことが絡むので避けたいだけなのだ。
「ここ、良い?」
何か適当な本を抱えて、彼は小枝子の返事を待たずに向かいに腰を下ろす。小枝子はちょっと困ったような表情を浮かべたが、それどころではないことを思い出して本の中身に集中する。彼女は講義を休んだりレポート提出が遅れたりしているので、追いつくのが大変だった。
「・・・そういえば、金城さん、何月生まれだっけ?」
「9月です。」
「ふうん、秋かあ。空が綺麗な頃だね。月初めの頃?」
「・・・どうしてですか?」
小枝子は資料から顔をあげる。
「いや、名月の頃かなあ、と思って。」
「20日です。」
「そうかあ、今年は満月と当たってる?」
「・・・分からないですけど。」
「今度、調べておいてあげるよ。」
「・・・。」
隆一の意図が分からず、小枝子はぽかんとする。そして、はっと我に返り、調べものを再開する。隆一もしばらく手元の本を眺めていたが、ふと、図書館の入り口に聖凛の姿を確認し、席を立った。
「じゃ、またね。」
隆一は無言で聖凛の脇をすり抜けて図書館を出て行く。それと入れ替わりに聖凛が、小枝子に声を掛けた。
「あいつと、何を話してた?」
その声に顔をあげて、小枝子は一瞬怯えた瞳をする。
「・・・あの、誕生日はいつか?って聞かれて・・・。」
「誕生日?」
聖凛の瞳が光る。どういうことだろう?もうすでにそこまで調べが進んだのだろうか?
聖凛は、小枝子の生まれた日を知っている。というより、小枝子の一族の、巫女の生まれる日は決まっているのだ。
そう。
満月の日、ちょうど月が満ちる時間に、彼女達は決まって生まれる。特に中秋の名月の日、完全なる満月の日に生まれる巫女は力が強いといわれる。
古代邪馬台国の巫女、日巫女が太陽の巫女なら、小枝子の一族は月の巫女である。
小枝子は、20年前の秋の月の満ちた瞬間に生まれている。
「それで?」
「・・・それだけ。」
隆一の前では平気で自分の勉強を続けていたのに、聖凛が現れた途端、小枝子はおどおどとして、彼の反応をうかがっているだけだ。
「・・・目を離した俺が悪いね。良いよ、今日はもう、やつも近づいてこないだろう。夕方、迎えに来るよ。」
聖凛はそうため息をついてその場を去っていった。
小枝子は、それを見送ってほっとする。小枝子を挟んでいると、聖凛と隆一は一触即発の状態になる。それを見るのは怖かった。誰かが傷つくのは。
聖凛を好きなのか分からない。だけど、隆一に対する好意とは違うものを抱いていることだけは確かだ。それは、とても深く重いものだ。隆一の存在は例えて言うなら、奈々子に対するものと変わりがない。位置付けはあくまで『友人』なのだ。
では、聖凛は・・・?
ふと彷徨って小枝子ははっとする。
いけない、いけない。こういうことを考えることを、聖凛はひどくイヤがる。それに、今は、本当にそれどころではない。明日までにレポートを二つ仕上げなければ単位がもらえない!
聖凛はあまり勉強しているようには見えないのに、妙に知識が豊富で頭が良い。最終的にどうにもならなくなって、最近では小枝子は結局、レポートでも何でも聖凛に頼ることが多かった。
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