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Stories of fate


アダムの息子たち(R-18)

アダムの息子たち (桜) 81

 桜名所巡り。
 とは言っても、一般的に有名な場所ではなく、聖凛の知っている隠れた名所、のような山奥や何気ない公園の桜並木など、二人はガイドブックにも載らないような地元の人だけが知る桜を訪ね歩いていた。

 お陰で、その間、二人は隆一の追跡の目に捕まることはなかった。

 桜の開花前線を追いながら、二人はただ、桜を観るためだけに歩き回る。そして、天気の悪い日は桜の見える喫茶店で時間をつぶす。露店で適当に食事を済ませ、ホテルへ戻る。そんな気楽な旅を続けていた。

 ある日、月夜の桜が観たい、と小枝子が言い、聖凛は、良いよ、と二人で夜桜見物に出かけた。
 その辺の地元の神社の桜が、夕方遅くからライトアップされていた。

「明かりに照らされていない桜の木って・・・ないのかな。」

 その、人工的な明かりにかすむ桜を見上げて、小枝子が、少し残念そうに言う。

「何が何でも、月光の桜が見たいんだね。」

 聖凛が、複雑そうな笑みを見せる。

「あ、・・・ごめんなさい。ううん、良いの。」
「良いよ。君は月光に浮かぶ桜が好きだ。探してみよう。」

 え?と小枝子は思う。何かが心の奥底で蠢く。しかし、それをゆっくり反芻する間もなく、聖凛はさっさと歩き始め、小枝子は慌てて後を追う。

 神社から続く田舎のあぜ道をひたすら歩くと、やがて、道端に一本の、大きな桜の木が堂々と佇んでいた。樹齢数百年はありそうな立派な木だ。周りに民家はなく、ただ、そよそよと田んぼに風が吹き渡り、月明かり以外に明かりは差さない場所だった。

 思わず小枝子は感嘆の声をあげる。
 半月が東の空に昇り始め、薄い月明かりがそうっと桜の薄桃色を照らして浮かび上がらせる。それは、とても幻想的な光景だった。

 感動、というよりも、なんだか懐かしさがこみ上げてきた。
 懐かしい?
 昔、あの祖母の実家の神社で観た桜の記憶だろうか?

 聖凛の存在も忘れて、ただひたすら桜を見上げて、その黒いごつごつした幹を愛しそうに撫でる小枝子。彼女の寄り添う桜に、その熱い想いを注ぐその様子に、聖凛は軽い嫉妬をおぼえる。

 二人がそこに辿り着いてから、その道を通った人は数人のみだった。ここは神社と集落をつなぐ一本道なのだろう。夜桜見物をした人々が僅かに通行するのみの、静かなあぜ道なのだ。

 月が半分しかその光を地上に降り注がない半月の夜は、大分近くに来ても相手の顔をはっきり見ることは難しい。そんな中、視覚に頼れない分、他の感覚が冴えてくる。

 まだ視覚的には分からなくても、人が近づいてくると、先にその気配を感じる。

 再び数人の村人が何か話しながら賑やかに木の脇を通り過ぎ、桜の下に人がいることに気付いてぎょっとしている気配が伝わってくる。挨拶すべきか迷って、小枝子は結局、ただ会釈をするのだが、きっと相手には分からない。

 聖凛は、帰ろう、とは言い出さなかった。小枝子の気の済むまで付き合ってくれる気なのだろう。
 背後で、彼女の身体を抱いていた聖凛が、ふとその手に力をこめた。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

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