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Stories of fate


アダムの息子たち(R-18)

アダムの息子たち (桜) 80

「奈々子さん、ちょっと聞きたいんだけど。」

 春休みに入って間もなく、隆一が、喫茶店で彼氏―透夜―と一緒にランチをしている奈々子を見つけて声を掛ける。

「はい、ええと・・・桜庭さん、でしたっけ?大学部の。」
「そうそう。たまに飲み会で顔を合わせるよね。」

 隆一は透夜に向かって、丁寧に会釈して、微笑む。学部が違う彼らは、お互いにあまり面識はないらしい。特に、アルバイトに忙しい透夜は、講義にも最低限しか出ていない。彼には夢があって、その実現のための資金集めが忙しいのだ。奈々子と正反対で、物静かでこつこつモノゴトを積み重ねていくタイプの透夜は、奈々子の交友関係にも口を出したりしない。

 奈々子と彼はそろそろ食べ終えて、飲み物をゆっくり味わっていたところだった。

「何か?」
「あ、そうそう。」

 テーブル脇に立ったまま、隆一は言う。

「最近、金城さんを見かけないけど、どうしたのかな?と思って。」
「ああ、小枝子なら、彼氏と旅行中です。」
「・・・え?聖凛と?・・・どこに?」

 隆一は、それほど驚かなかった。なんとなく予想はしていたのだろうか。

「さあ・・・?なんだか、桜を観に行くようなことを言ってたから・・・京都とかどこか名所に向かったんじゃないですか?」
「どの辺に行くとかっていう話は?」
「う~ん・・・、名所巡りをしようかな、と聖凛は言ってたような・・・。」
「そうか、ありがとう。」

 隆一はお礼を言って、そのまま立ち去ろうとした。

「あの!」

 奈々子は、立ち上がって隆一を呼び止めた。彼女は、学食での騒ぎをたまたまその場にいた友人から聞いていた。二人の様子を近くで見ている奈々子にしてみれば、今回のことはすべて隆一の横恋慕にしか感じられない。

 隆一は立ち止まって振り返る。

「小枝子を、・・・二人を、そっとしておいてください。」
「どういう意味?」
「いえ、ただ、それだけです。」

 やや不快そうに、隆一は奈々子を見つめた。

「あなたは、何か誤解してますよ。」

 彼は、そう言って、そのまま歩き去っていく。その後ろ姿を見送って、奈々子はふと不安になる。自分が不用意に教えてしまった情報に寄って、小枝子と聖凛に、何か迷惑が掛からなければ良いんだけど、と。

 奈々子は小枝子と特に親しい訳ではない。しかし、小枝子に他に親しい友人がいないお陰で、恐らく彼女が唯一の心許せる友人ということになるだろう。

 部屋が隣ということもあり、奈々子も彼女の部屋にはよくノートや資料を借りに行く。そして、近頃、聖凛とも顔を合わせる機会が多くなり、今ではずっと落ち着いた様子の二人を見てどこか微笑ましくくら感じていた。

「桜庭くんは、・・・あれかい?小枝子さんが好きなのかい?」

 二人のやり取りを黙って聞いていた透夜は最後の一滴を飲み終えたカップをテーブルに置いて、奈々子の不安そうな顔を覗き込んだ。

「うん、そうだと思う。」
「まぁ・・・彼の悪い噂は聞かないから、良いやつなんだろうけどね。」
「あら、だって、透夜は誰の噂も聞いてないでしょ?だいたい、同じ学部に誰がいるのか把握してる?」

 透夜は奈々子の皮肉に特に腹を立てる様子もなく微笑んだ。

「俺だってそういう情報は得ているよ。まぁ、一番聞くのは聖凛のことだけどね。彼もなかなか変わった男らしいね。」

 奈々子はどこか考え込んだまま手の中のカップを見つめている。

「どうしたの?」
「あたし、小枝子が聖凛と付き合うようになったこと、初めから全然不思議に感じなかったんだよね。なんでだろ?最初、小枝子は彼のことどこか怖がっていたし、聖凛もものすごく冷たかったんだけど、今、二人はすごく良い感じでしっくりいってるんだ。・・・あんまり邪魔して欲しくないなぁ。」
「友達思いじゃない。」

 透夜は微笑む。

「そういうんじゃないのよ。なんか、小枝子ってどこか透明過ぎて、このままだったら消えてしまいそうな気がして。恋でもしていれば、どうしたって、ここにしっかり留まれるでしょ?聖凛もどこか空気の色が一段研ぎ澄まされているじゃない?まるで生きている時代がズレているみたいに。あの二人を見ていると・・・ちょっと泣きそうになるんだ。」
「・・・うん、言ってる意味、ちょっと分かるよ。」
「ありがとう。」

 奈々子は少し照れて笑った。



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~ Comment ~


まだまだこれから

まだきっと物語は中盤だし、大きな展開に差し掛かってはいないけれど、なんとも嵐の前の静けさを感じますね。
聖凛が、なんだか人間らしい体温を感じさせてくれて、ドキドキします。
小枝子~~、もう怯えないでよ!って、つい言ってしまいそうになる^^;(女に厳しい私)

前話で、小枝子の何かが目覚めかけたんでしょうか。
聖凛は、それを待ってるのか、怯えてるのか。
分かりそうでわからないムズムズがいいですね。

奈々子、いい奴ですね。すごくホッとします。
問題は隆一ですね。
聖凛にとって、すごく嫌な存在になりそう。
でも・・・ちょっと困った顔の聖凛も見たい・・・って思うのは、やっぱり私がイジワルだからでしょうね^^

小説を書き始めて、改めて自分が「悪い奴だ」と気付きました・笑
#529[2011/11/15 19:14]  lime  URL  [Edit]

Re: まだまだこれから

limeさん、素敵なコメントありがとうございます。
limeさんのブログで、高丘明さんがコメントしていた記事を拝見いたしまして、高丘さんのコメントを読ませていただき、おお! そうなのか!!! すごいなぁ!!! と感嘆してきたので、プロットも構成も設定もなしで描き始めるfateは、ちょっと「ううむ…」となっておりました。
ですので、あんまり人物も背景設定も深みがないですよ、fate worldは。
そして、人物をあまり生かせていないので、実は悪役があんまりいない、というか。

奈々子役はけっこうあちこちに出没します。
好きなんです、彼女のタイプの人間(^^)
一番、理解し易い。

『小説を書き始めて、改めて自分が「悪い奴だ」と気付きました・笑』
↑こちらには、fateも笑いました!
いやいやいや、そんなことないですって!
一番、変なのは恐らくこんな世界を描いている作者です(--;

#532[2011/11/15 20:08]  fate  URL 

隆一は熱いですねw

でも、キライですw
#2450[2012/09/24 15:38]  blackout  URL 

blackoutさまへ

blackoutさん、

おおおおおっ
それは、なんか、新鮮なご意見で、嬉しいです!
そうかそうか、隆一ってウザイかもな~♪
#2457[2012/09/24 21:47]  fate  URL 














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