翌日、図書館で勉強をしていた小枝子は、お昼になって、慌てて学食へ向かう。
休み中の図書館も学食もけっこう空いていて、彼女は隆一の姿をすぐに見つけた。
そっと辺りを見回し、なんとなく聖凛の姿を探してしまう。
小枝子は、紅茶だけを買って、ためらいながら彼の座るテーブルへ向かう。
「明けましておめでとう、金城さん。」
学食に入ってくる小枝子の姿をずっと目で追っていた隆一はにこにこしてそう声を掛ける。
「・・・おめでとうございます。」
「どうぞ、座って。」
立ったままカップを抱えている小枝子に、隆一は向かいの席を勧める。そして、小枝子が椅子を引いてゆっくり座る姿をじっと見つめていた。
人の姿がまばらな学食は、小枝子にとっては居心地が悪かった。
「家に帰ってきたの?」
「え?・・・あ、はい。」
なんとなく落ち着かない小枝子を少し心配そうに見つめながら、隆一はメニューを彼女の前に広げた。
「なんでも好きなものを教えて。ごちそうしてあげるから。」
「あ、いいえ。今日は飲み物だけで・・・。」
「食欲、ないの?」
「・・・朝食が遅かったので・・・。」
俯く小枝子をそれ以上追及せずに、隆一は、分かった、と頷いた。
「話しというのはさ、聖凛のことなんだけど。」
彼は少し声をひそめた。
「ちょっと調べただけなんだけど、あいつは素性が知れないというのか・・・おかしなことがあるんだよね。だからって彼が悪いやつだなんては言わないけど、得体の知れない男っていうのは確かだよ。」
小枝子は返答のしようがなくて、ただ、はあ・・・という感じに頷く。
聖凛の得体が知れないことは小枝子が一番よく分かっている。だいたい、彼はあまりに神出鬼没だ。小枝子の実家の近くに何故現れたのかすら未だに分からない。
分かっているのは、彼は小枝子に会うことが目的だったわけではないらしいということだ。真冬の夜中に、彼は何か用があって、そこに出向き、たまたま小枝子の実家に寄った・・・、そんな感じだった。
「それでね、君のおばあさん・・・に当たるんだろうね、そこの実家とつながりがあるんだよ。どうも、聖凛の出身は、そっちの方らしいんだ。らしい、というのは、記録が曖昧だからなんだけどね。もしかして、彼が君に近づいたのは、その辺と関係があるんじゃないかな、と思って。・・・何か心当たり、ある?」
「・・・祖母の実家が神社だったそうです。でも、もうそこも他に管理を任せるようになっていて、実質、もう関係ないみたいですけど。」
小枝子は、明らかなる事実だけを告げる。
「神社?・・・ああ、だからか。似た空気を持っていると感じたのは。僕も親父が神主なんだ。まあ、僕も兄がいるから実家は継がないんだけどね。金城さんは?そういう仕事に、興味はない?」
「ありません。」
巫女という仕事。そこからすべてが始まっていた。それさえなければ、今、こんな目には遭わないはずなのだ。
休み中の図書館も学食もけっこう空いていて、彼女は隆一の姿をすぐに見つけた。
そっと辺りを見回し、なんとなく聖凛の姿を探してしまう。
小枝子は、紅茶だけを買って、ためらいながら彼の座るテーブルへ向かう。
「明けましておめでとう、金城さん。」
学食に入ってくる小枝子の姿をずっと目で追っていた隆一はにこにこしてそう声を掛ける。
「・・・おめでとうございます。」
「どうぞ、座って。」
立ったままカップを抱えている小枝子に、隆一は向かいの席を勧める。そして、小枝子が椅子を引いてゆっくり座る姿をじっと見つめていた。
人の姿がまばらな学食は、小枝子にとっては居心地が悪かった。
「家に帰ってきたの?」
「え?・・・あ、はい。」
なんとなく落ち着かない小枝子を少し心配そうに見つめながら、隆一はメニューを彼女の前に広げた。
「なんでも好きなものを教えて。ごちそうしてあげるから。」
「あ、いいえ。今日は飲み物だけで・・・。」
「食欲、ないの?」
「・・・朝食が遅かったので・・・。」
俯く小枝子をそれ以上追及せずに、隆一は、分かった、と頷いた。
「話しというのはさ、聖凛のことなんだけど。」
彼は少し声をひそめた。
「ちょっと調べただけなんだけど、あいつは素性が知れないというのか・・・おかしなことがあるんだよね。だからって彼が悪いやつだなんては言わないけど、得体の知れない男っていうのは確かだよ。」
小枝子は返答のしようがなくて、ただ、はあ・・・という感じに頷く。
聖凛の得体が知れないことは小枝子が一番よく分かっている。だいたい、彼はあまりに神出鬼没だ。小枝子の実家の近くに何故現れたのかすら未だに分からない。
分かっているのは、彼は小枝子に会うことが目的だったわけではないらしいということだ。真冬の夜中に、彼は何か用があって、そこに出向き、たまたま小枝子の実家に寄った・・・、そんな感じだった。
「それでね、君のおばあさん・・・に当たるんだろうね、そこの実家とつながりがあるんだよ。どうも、聖凛の出身は、そっちの方らしいんだ。らしい、というのは、記録が曖昧だからなんだけどね。もしかして、彼が君に近づいたのは、その辺と関係があるんじゃないかな、と思って。・・・何か心当たり、ある?」
「・・・祖母の実家が神社だったそうです。でも、もうそこも他に管理を任せるようになっていて、実質、もう関係ないみたいですけど。」
小枝子は、明らかなる事実だけを告げる。
「神社?・・・ああ、だからか。似た空気を持っていると感じたのは。僕も親父が神主なんだ。まあ、僕も兄がいるから実家は継がないんだけどね。金城さんは?そういう仕事に、興味はない?」
「ありません。」
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