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Stories of fate


アダムの息子たち(R-18)

アダムの息子たち (デート) 49

 食事の最中に、小枝子は不意にそれを思い出した。

 ただ、切なく喘ぎ声をあげ続け、彼の腕に溺れた月夜を。柔らかく強く彼女の官能を揺さぶり続けた彼の舌を、唇を、手を。
 彼とつながりたいと感じてしまった自分の身体を。

 かああっと、顔がほてり、小枝子は慌てて俯く。

「・・・どうしたの?何か、食べられないものがあった?」

 聖凛が怪訝そうに小枝子の顔を覗き込む。

「な、なんでも・・・。」

 小枝子は俯いたまま首を振る。耳まで真っ赤になっている彼女の様子にようやく気付いて、聖凛は、ふと意地悪な笑みをもらした。

「大丈夫。今夜は、しっかり奥まで抱いてあげるよ。」

 聖凛の言葉に、小枝子はもう顔を上げられなかった。



「・・・どうして・・・その、誘ってくれたの?」

 帰り道で、小枝子は、そっと彼を見上げる。

「喜ぶ顔が見てみたかったから、かな。」

 聖凛は、普通にそう答えながら夕闇を見上げた。そんな答えが返ってくるとは思っていなかった彼女は、本当に驚いてぽかんと彼の横顔を見つめる。そもそも、答えてくれるとは考えていなかったのかもしれない。

「君が、欲しいからだよ。」

 不意に小枝子にまっすぐ視線を落として彼は言う。怖いくらい真剣な瞳で。
 言葉を失って小枝子はその視線から逃れて俯く。

「・・・でも、私は・・・」

 どうせ、もう、あなたから逃げられはしない。
 心がそう言葉にしてささやく。

 それに対しての自分の感情が把握できない。例えば、泣き叫びたいくらいイヤなのか、もう、諦め切っているのか、それとも・・・。

「年末年始は家に帰るんだろ?帰省から戻った年明けに旅行でも行こうか。」

 小枝子の戸惑いや躊躇いを気にも留めず、聖凛は握っていた彼女の手にきゅっと力を込める。

「えっ?」

 本当に驚いて、小枝子は立ち止まってしまった。

「り・・・旅行?」
「そうだよ。まあ、そんなに遠くには行けないけどね。温泉とか、南の島とか。」
「・・・ええ???」

 温泉も南の島も、あまりに聖凛に似合わなくて、小枝子は声をあげる。

「・・・せ・・・聖・・・凛と?」
「そうだよ。今さら、泊まりはイヤだとか言うの?」

 小枝子は、あまりの展開に思考がうまくついていかなかった。この半年以上、彼はただ小枝子を抱くだけだった。いつも、彼女の部屋で。どこにも出かけたりせず、外で会うこともなく、そして、恋人同士らしい会話の一つもなく。

 だから、小枝子には、奈々子に何を聞かれても答えようがなかったのだ。自分の心も相手の考えていることも、何一つ把握できていなかったから。

 そもそも、小枝子は男とプライベートでマトモに会話を交わしたということが、あまり多くない。友人はそれなりにいたが、深い付き合いに発展することがなかった。だから、恋人とか、付き合うとか、そういうことがどういうことなのかよく分かっていない。

 また、聖凛は、小枝子が誰かに助言を求めたり、彼に黙って何か行動を起こしたりすることをとにかく制限し、縛ってきた。恐怖に寄って支配し、逆らうことを決して許さず、身動きの取れない状態で小枝子はただ彼の一挙手一動に怯えて過ごしてきたのだ。

 しかし、それを振り切って逃れようという気も、小枝子にはそれほど起こらないのだ。幼い頃から、彼女は、欲の薄い子だった。そして何より、彼女自身、聖凛をどう思っているのか、それが分からないのだ。
ただ、怖いだけなのか。

 彼の身体に溺れているだけなのか。

「・・・あ、あの・・・」
「何?」

 聖凛の声は優しかった。立ち止まったままおろおろしている小枝子の身体をそっと抱き寄せて、その胸に抱く。

「あの・・・、でも・・・その・・・」

 小枝子自身、混乱してしまって、自分が何を言いたいのかさっぱり分からない。聖凛の腕に抱かれたまま、ただどきどきと心臓が鳴っていた。

「諦めた方が良いよ、小枝子。君に拒否権はないんだから。」

 聖凛は笑い、すっと彼女の身体を解放する。

「行ってみたいところだけ、考えておいて。」

 どうしてか、彼の笑顔はどこまでも優しい気がした。今まで小枝子が見たことのない、いや、恐らく誰にも見せたことのない、優しい瞳をしていた。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[ファンタジー小説

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