Stories of fate


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業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

業火 futari 43

「もう、良いよ」

 基は大きなため息を吐いて身体を起こし、そのまま葵に背を向けてベッドの端に座った。

 まるで初めて見るように、部屋の中をゆっくりと眺めて、基は僅かに息苦しさをおぼえた。思考を遮断し、それまで何度もそうしてきたように、静かにすべての思いを凍らせる。

 ドウスレバ、良イノ?
 ―ドウシテ良イノカ、分カラナイ。

「約束の一週間は終わった。葵、お前はもう自分の世界に帰れよ。もう、俺に構うな」
「…基? 何、言ってんの?」

 心配そうな目をして彼を見上げているだろうことが背中の気配だけで分かる。基は決して葵を見なかった。

「受験が終わったら俺はこの家を出る。そしたらお前たちには二度と会わない。俺のことは忘れて良いよ、葵」
「待っ…」

 ゆっくりと立ち上がった基は一人淡々と衣服を身につけ、振り返ったときの彼の眼に、葵はぞっとした。

「さよならだ、姉さん」

 それは、他人を見る目だった。それまで狂気とともに彼の内側にあった愛憎はすっかり消えうせ、彼の瞳の中に、もはや葵の存在はなかった。

「も―、基?」
「ごめん、自分で着てくれる?」

 差し出された服を茫然と受け取りながら、葵はまるですがるように弟を見上げた。彼の言葉は柔らかいのに、その声は冷たいというより、むしろ一切の感情が見えなかった。

「基!」
「飲み物でも取ってくるよ」

 部屋を出ていこうとする基の背中に葵は悲鳴のような声を掛ける。

「待って、基。置いていかないで」

 しかし、ドアに手を掛けた基は一瞬のためらいもなく、彼女を振り返ることもなく、扉の向こうに消えて行った。パタン、と彼の背後で扉が閉まる音が響き、その瞬間、葵は恐ろしいほどの絶望の淵に突き落とされた気がした。

 そして、知った。基が、それまで付き合ってきた女性たちを最後に容赦なく裏切るときの瞳の冷たさを。ある瞬間、彼がそう決めたなら、もう基の心は一切動かないのだろう。

「もと…い?」

 たった今までここにいた基の気配はまるで吸い込まれるように消えてしまい、基がもう本当に何もかもを終わりにしようとしていることを全身で感じた。ぞっとするような寒さに、葵は身震いをする。

 こんな風に身体の芯が冷えるような恐怖を味わったことが、彼女はなかった。こんな風に、まるで人格が切り替わるように空気が変わる人間を彼女は知らなかった。機械じゃないのに、スイッチが切れるように心が変わってしまうことなどあり得るのだろうか。

 やがて、コーヒーカップを手に戻ってきた基の顔はもうすっかり他人行儀で、憎しみもなければ愛情のカケラも見当たらなかった。

「なんだ、まだ服を着てないの? 風邪ひくよ」

 ここで何を言っても、もう基の心には届かないだろうことが葵には分かった。半ば茫然としたまま、のろのろとシャツに袖を通し、ストッキングを穿き、スカートを身につけた。その様子に基は一切関心を示さず、机に向かったままゆっくりとコーヒーカップを傾けている。

 葵はベッドをおりて基の背中をじっと見つめる。漂う空気の静けさに涙が出そうになった。

「どうして?」思わず、声が漏れた。「基…」
「母さんが淹れてくれたコーヒー、飲む?」

 ようやく振り返って差し出された見慣れたカップに、葵は唇を噛んだ。つい昨日まで、一緒に飲んだカップだった。その映像が鮮やかに蘇ってきて、葵は泣きそうだった。

「…要らない」
「そう」

 穏やかに基は笑い、「じゃ、俺がいただくよ」と彼女に背を向けた。

 さよならだ、と再び言われた気がした。葵は軽い眩暈を感じてその場にへたり込む。大丈夫? と差し出された手を振り払って、葵はよろよろと立ち上がり、やっとの思いで彼女の部屋へ戻った。

 扉の内側に背をあずけて顔をあげ、葵は奇妙に視界が歪むことを不思議に感じた。そして、頬を伝い落ちる熱いものの存在に気付いたとき、膝ががくがくと震えて身体を支えて立っていることが難しいことに愕然とする。ふらふらと床の上に座り込んで、葵は声を殺して泣いた。

 基、いったい何を言ってるの?
 もう二度と会わないって、どうして?
 さよなら、ってどういうこと?
 何を言ってるのか分かんないよ。

 身体に力が入らなかった。崩れるように床に倒れこみ、葵は軽い吐き気をおぼえる。目に映る部屋の壁がぐるぐると回っていた。

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