Stories of fate


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業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

業火 futari 41

「も―基?」

 扉を叩いても、中から返答はなかった。

「基、どうしたの?」

 階下の母に聞こえないような小さな声で、葵は呼びかける。一見、彼はごく普通に振舞っていたし、笑顔も見せていたから、恐らく母は基の様子の変化には気付かなかっただろうと思う。いや、母には母親の勘で何かを察していただろうか。

 扉の向こうの姉の気配を、基は感じていた。心配そうな声色も。もっと言えば、食事をしている最中にすら、葵が彼に気遣わしそうな視線を送ることにも気付いていた。

 どんなに具合が悪くても、或いは悲しいことが起こった日も、基の両親は彼の様子を気に掛けることもなければ、話を積極的に聞いてくれることもなかった。だから、彼は体調の管理は薬の服用も含めて自分で行っていたし、辛いことも楽しかったことも、誰かと分かち合うということを知らなかった。

 母と姉の家庭を壊してやろうと周到に計画してきたことだった筈なのに、苦労も悲しみも知らない幸せの中で生きてきた姉をズタズタに切り裂いて、笑ってやろうと思っていた筈なのに、基は、今、どうして良いのか分からなくなっていた。どれだけ貶めても、虐げても、葵が彼を見る瞳の温かさは変わらなかった。

 基、と。初めから変わらぬ柔らかい声で彼の名を呼び、微笑み、憎まれ口をたたき、寄り添おうとしてくれる。それを言葉では分からなくても、包まれているような、守られているような奇妙な感触を消せずにいた。

 そして、あれほど憎んだ彼を生んだ母親は。明らかにどこか疑っているのに、決して問いただしも責めもせずに基の存在を無条件で受け入れ、分け隔てせずに‘きょうだい’として、我が子として笑いかけてくれている。相応の対価を要求することもなく。

 やがて、諦めて葵が彼女の部屋の扉の向こうへ消えていったことが分かった。その途端、基の心にすう、と冷たい風が吹いた。

「やっぱりね」と彼は呟くように、嘲るように声にした。「結局は、その程度か」

 心配されても、どう振舞って良いのか分からない。むしろ、もっと相手を傷つけたい衝動に駆られる。愛情の示し方も確かめ方も彼は知らない。―だから、傷つけることでしか、愛情を図る術を知らない。

「見せ掛けの同情で近づいたらどうなるか思い知らせてやるよ」

 歪んだ欲望をその瞳に浮かべ、基は扉をそっと開き一歩を踏み出そうとして、思わずぎょっとしてその場に立ち竦んだ。

「あ、なんだ。基、大丈夫?」

 彼の部屋の扉の前に、葵が枕を抱えて座り込んでいたのだ。部屋から出て来た弟を見上げて、葵はほっとしたように笑みを見せた。

「な―」基は声が上擦りそうになり、一旦、ごくりと唾を飲み込んだ。
「何、やってんだよ、ここで」
「だって、基が出て来ないから」
「だからって、なんで…」

 声が震えた気がして、基は口を閉じた。

「ねぇ、基」葵は立ち上がって扉に掛けていた弟の手を取った。
「もっとちゃんと話して。話したいことがあったら、言いたいことがあったら、ちゃんと話して。お母さんも私も基の話を聞きたい」
「話すことなんかないよ」

 それでも、いつもの凍りつきそうな冷たい声ではなかった。どこか弱々しく、手負いの獣が痛みに呻くような力ない声色だった。

 拒絶の空気がなかったことで、葵は見上げた弟の目を覗き込む。そして、冷静さを装った表情の下の、まるで触れれば悲鳴をあげそうな傷が見える気がして、彼女は必死に言葉を選んでそっと言った。

「基。私は、基が好きなものを知りたい。好きな映画について語り合いたいし、どんなゲームが好きなのか、どんな音楽が聴きたいのか。そういうことを話したいし、聞きたい。それから、イヤなことはイヤだって教えて?」
「ふん」と基はどこか泣きそうな、それでいて嘲るような笑顔を見せた。
「俺のことを知って、どうするつもりさ?」
「どうもしないよ」葵は言った。「知りたいだけ」
「それなら―」基はまるで抑揚のない口調で葵を見下ろし、腕を振り払った。
「俺が望むように、葵、俺のものになれよ」
「基」葵は振り払われた手で、再度彼の腕を掴んだ。「そうやって逃げないでよ」
「誰が逃げてるのさ」

 基の声は恐ろしく低く静かだった。自分の手首を掴んでいる葵の小さな手をじっと見つめて彼は不意に冷笑を浮かべた。

「逃げようとしているのはそっちだろ? 話をはぐらかして、優位な立場に持っていこうとしているようだけどね」

 掴んだ手から冷気が伝わってくるような気がするほど、基は、その瞳にぞっとするような冷たい光を湛える。

「思い出したよ、俺がここで何をしたかったのかを」

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

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