Stories of fate


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業火 ~fell fire~(Rewrite編)(R-18)

業火 futari 30

 基、と名前を呼ばれたことが、彼はなかった。母親も父親も、「おい」とか「お前」と彼に話しかけた。名前の持つ意味を、基は知らなかった。

 だから、幼稚園や学校で点呼を取られるのが、彼は好きだった。名前を呼ばれる瞬間、彼は自分がここに存在していることを確認出来た気がして安堵する。ここにいても良いのだ、と。わざと素っ気なく返事をして煩わしそうな表情を浮かべては見せても、彼の心は躍っていた。名前を呼ばれるとは、彼にとっては愛情を示されることだった。

 しかし、次第に基の心は身体から遊離していく。傷つかないようにするには、心を麻痺させるしかない。幾重にもバリアを張って、内側に踏み込まれないようにしなければならない。望みを悟られてはいけない。絶望を見せてはいけない。

 親に名前を呼んでもらえないとは、自分の存在が日々薄くなり、消えていってしまうことだった。

「会いたかったわ、基! ああ、大きくなったのね。顔をよく見せて? 基ってば、本当にあなたのお父さんによく似てきたわね」

 母親に再会した途端、彼女は泣きそうな愛情溢れる目をして、彼の名前を何度も呼んだ。しかし、そのときにはもう彼の心は内側からしっかりと鍵が掛かっていた。誰もその開け方を知らない、彼自身ですら鍵の在り処を覚えていない程頑丈な鍵だった。

 葵、という名の姉がいると知って、父宛に送られてくるその成長記録を見つめ続け、一緒に写っている家族を眺め、基は内側から湧き起こってくるバケモノのような感情を制御する術を見失っていく。その正体が何なのかも知らずに、幸せそうな家族をズタズタに切り裂く夢をみる。

 どうすれば、この写真の家族が一番深い切望を味わい、嘆き苦しむのか、それを考えるときだけ、基は孤独を忘れ、怒りや憎しみを忘れることが出来た。知らなければ、きっと憎むことも呪うこともなかった。他の「家族」が本当はどんなものかを知っても、基は羨望と孤独を知っただけで、きっと呪うのは我が身だけであっただろう。

 しかし、姉が、いた。同じ日に生まれ、同じ祝福を受け、同じ愛情を受けて母親に抱かれた筈の、双子の片割れが。引き裂かれた双子が、まったく逆の人生を辿ってそこに、いる。

 葵が彼の腕の中で苦しげに喘ぐ姿を、羞恥に身を震わせ、彼に許しを請う切ない顔を見るとき、心の底からぞくぞくとした快感が湧き起こり、それまで彼が味わった地獄の時間が帳消しになっていく、―筈だった。

 初めの内はそうだった。いや、今でもそれは味わえる快楽であり嗜虐欲でもあった。
 しかし、葵の目が、彼の心に小さな楔を打ち続ける。
 不幸など何も知らない筈の姉の目が、どれだけ虐げられ、貶められても、彼女の目の光は彼に何かを訴え続けていた。

「基」と彼女の口が彼の名を呼ぶ。
「基」その唇の動きで、彼の心の氷が不意に氷解を始める気配がする。
「俺の名を、呼ぶな」

 あれほど呼んで欲しかったのに。家族に名前を呼ばれることが彼の夢であったのに、基は、混乱して呻いた。そんな目で俺を、見るな。

 何を、望んでいるのか。
 本当に望んでいることが何なのか。
 自らの闇も、心の叫びにも聞く術を持たず、彼は彷徨い続ける。

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛:エロス:官能小説

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