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Stories of fate


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儘 (『花籠』外伝)

儘 第二部 3

 若、と松守の声が聞こえた気がした。

「若、逃げなさい」

 もう、逃げるのはイヤだと思った。俺の存在を消したいのなら、もう、消えてしまいたい、と。その僅かな躊躇のせいで、龍一を庇った松守は、深手を負う羽目に陥った。

 死ぬつもりだったのなら、死ねば良かったのだ。しかし、結局、殺される前に逃げ出していた。彼を逃がすために残った松守がどうなったのか、まったく分からない。

 生への執着が薄い龍一は、いつも迷ってばかりだ。
 結局、追っ手に捕まり、繋がれ、罰を受けた。



「若―」と目の前に松守の顔があった。心配そうな表情で彼を見下ろしている。うっすらと数日前の傷が顔に残っていた。
「松…怪我は? 大丈夫なのか…?」
「若、私の心配は要りません。貴方の方が重傷です」
「椿は?」
「今、外へ出かけております」

「…ああ、じゃ、無事なんだね」ホッと息を吐いて龍一は目を閉じる。
 では、もう思い残すことはない。

 幼少の頃より仕えている松守がいて、一年前に椿に出会い、二人が必死に龍一を守ろうとするから、生きてきた。だけど、これ以上足手まといになるなら、消えてしまった方が良いかも知れない。

 もう、目覚めない眠りに―。

「龍ちゃん」

 突然、耳元で椿の声が聞こえた。まったく気配に気付かなかった龍一は思わずぎょっとして目を開ける。

「…椿」
「ようやく意識が戻ったのか」
「ようやく…? あれからどのくらい経ったんだい?」

 掠れた声で、龍一は不思議そうに聞く。

「一週間…まではいってないか。5日くらいじゃないか?」
「―冗談、だろ?」
「どこに冗談を言う要素がある」

 憮然と椿は彼の傍らに座った。畳敷きのお座敷のようなそこは、天井が高い古い日本家屋だった。そういえば、逃げる直前までいた家とは違う。

「ここはどこだ?」
「今更かよ」
「…気付かなかった」

 椿は立ち上がって、彼の布団の脇の襖をすうと開けた。そこには仏壇が置かれ、遺影がいくつか飾られた間だった。その遺影がどことなく椿に似ていた。

「俺の母方の実家だった」
「…だった?」
「絶えたのさ」

 椿はそれ以上のことは言いたくなさそうだった。

「お前、3日目までは生死の境を彷徨ってたよ」
「そうか」
「おい、龍一」椿はぼんやりと天井を見上げる龍一の顔を覗き込んだ。「そのまま死んでしまえば良かったなんて思ってるんだろ」
「え」驚いて龍一は視界をふさいだ椿の顔を見つめる。「そんなことは―」

「お前に助けられた借りをようやく返したんだ。今度はこっちに支払ってもらうぞ」
「…貸しだなんて思ったことはない」
「そんなことは分かってる。俺の問題だ」椿はふふんと笑う。「だけど、俺にとって貸しは貸しだ。払うまで逃がさないよ」
「…どうすれば良いんだ」
「だから、俺の言うことを聞け」
「ああ」と龍一は笑みを見せた。「そういえば、抱いてくれるって言ったんだよな」
「言っただろ、俺は男は抱かない」
「約束が違う」
「やかましい! なんでお前が決めるんだ」
「俺じゃない。君がそう言ったんだよ」
「却下だ」どこか憤然と椿は言う。
「だって、約束―」
「そんな約束をした覚えはない。しかも、俺はもう女がいる」
「…へえ。それはまた―」

 不意に龍一は身体の底でちろちろと炎が燃え出すのを感じた。なんだろう。そういうごく普通のことに龍一はあまりに飢えていた。自らの命の在り様をただ見つめ続けて生きてきた彼に、周囲の人間の存在など考える隙間がなかったのだろう。

 椿に好きな人がいる。
 それが意外でもあり、考えてみるとごく当たり前のことであり、そして、「幸せ」を見たことがなかった龍一にはそれは太陽を直視するのに等しい眩しさだった。

 その熱はお腹の底から燃え上がり、冷えていた手足を温め、ぼんやりとしか見えていなかった世界を明るく照らすほどの威力を発揮し出した。心の底からわくわくする光を感じる。

「俺にも会わせろよ」
「イヤだ」
「絶対に手は出さない。約束する」
「当たり前だ!」
「だから、紹介しろよ」
「イヤだ」
「椿」
「うるさい」
「会いたい」
「ダメだ」

 薬湯を運んできた松守は、龍一の楽しそうな声にしばし中へ入るのを躊躇ってその場に佇んだ。龍一がこんな風にごく普通の少年のように話すのを彼は一度も聞いたことがなかった。

「なんでだよ、椿。俺の恋敵だ、会わせてくれって」
「気持ち悪いことを言うな!」

 どうも本気で怒っているらしい椿を、龍一が明らかにからかってることが手に取るように分かる。松守の目には、熱く光るものがあった。

 
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