FC2ブログ

Stories of fate


陰影 2

陰影 第二部 (交わらない軌跡) 15

<さら>

 マスター…慶一さんがいなくなってから、10日ほどが過ぎて、私もようやく「もういない」ことを身体が理解した。というより。否応なく受け入れざるを得なかった。

 通学の途上で、笑って挨拶してくれる彼の幻を毎朝のように求め、無意識に探してしまっている。認めたくない。信じたくない。

 そして、それは私だけじゃない。
 薫だって、他の学生たちだって、そして、周囲の町の人たちだって。
 誰も彼もが慶一さんの行方を心配し、彼の無事を祈っている。
 …私だけじゃない。

「薫、ありがとう。…私、もう大丈夫だから」

 その日の帰り、一緒に帰ろう、という薫に私は微笑んだ。

「サークル、行ってきて。私、今日は図書館で調べたいことあるし」
「…本当?」

 疑い深そうな彼女に、うん、と精いっぱい笑ってみせた。

「バカ」

 と薫の方が泣きそうな表情をした。
 ありがとう、薫。そして、ごめんなさい。
 ごめんなさい。

 誰に謝っているんだろう?

 最初、分からなかった。
 でも、この頃、ようやく頭がはっきりしてきて、私は分かった。

 ずっとずっと守られてばかりだった私。

 姉に、母に、薫に。そして、慶一さん。私は、貴方にこんなにも守られて包まれていたのだ、と。貴方は、そこにいるだけで私を支えてくれた。こんな風に誰かを想う温かい気持ちを教えてくれて、こんな風に至福の瞬間を教えてくれた。人を想う気持ちの温かさを、優しさを、同時にその残酷さを。生きていることの意味を、苦しみも悲しみもひっくるめて、だけどそれ以上に幸せの幻想を見せてくれた。

 泣いてばっかりだったこの10日余り。

 でも、信じることが出来る。
 貴方は、きっとどこかで生きている。
 死んじゃった訳じゃない。
 絶対に、ない。

 いつかきっと会える。もう一度。だから、私も、前を見て生きていく。今、一人でも歩いていく。歩く方法を貴方が教えてくれたから。生きることを、その喜びを、教えてくれたから。

 生きて、いく。

 
<慶一>

 このままここで暮らす訳じゃない。いや、むしろ、今、一緒に過ごす時間がきっと最後ではないかと思うと、俺もほんの少しだけ父を見ていたいと思った。ここにいる間だけでも。

 秘書の助手、とまではいかないし、むしろ言葉が分からない分、ただ単に邪魔になるだけだったが、俺は父の傍で彼の仕事を見て過ごした。彼が、どんな風にこの国に生きていたのかを。そして、彼の血のつながらない娘、ジェシーとも、お互い、カタコトの英語と日本語を交えながら話すようになった。

 初対面でものすごく緊張していたのは、やはり母親から俺が婚約者となるかも知れないとプレッシャーを掛けられていたからだったそうだ。義理とはいえ、兄なのに。

 俺は彼女には兄として接して、妹という存在を噛み締めてみた。この子とも、ここで別れたら生涯会うこともないかも知れない。縁あって「家族」という存在になったのだから、そこに意味はなくても、理解し合おうという努力はしたって良い。

 彼女はハイスクールの生徒で、義父に息子がいると知って、そして当の俺に会って、日本という国に興味が湧いたと言った。大学へ進んだら日本文化を勉強して、日本へ行ってみたいと。そのときは案内してくれる? とキラキラした瞳で覗きこまれた。

 良いよ、と答えて、俺はふとその光景を夢見た。
 さらと二人で、妹に東京見物をさせて、ちょっと京都にも足を伸ばして。着物を着せてみたりして。

 思わず笑みが零れる。
 そして、俺は知った。彼女が出て行った兄を心配していることを。会いたがっていることを。考えてみれば当然の感情だろう。共に育ってきた血を分けた兄妹だ。

 何故、彼は出て行ったのか?

 聞いてみたが、ジェシーの英語での答えは半分以上分からなかった。ただ、感じたのは、彼の大切なモノを母に奪われたからだ、というぼんやりした空気のみ。

 大切なモノ。
 ふと、俺は分かったような気がした。

 ジェシーの兄は、もしかして恋人を奪われたのでは? つまり、彼が愛した相手との交際を母は認めず、その女性に身を引くように迫ったのではないかと思った。もっとも卑劣な手段を使って。

 兄に、会いたいのか?
 ジェシーは瞳に涙を溜めて頷いた。

 一緒に、探しに行ってみよう、と俺は言った。彼女が一人で出かけるよりも、俺が一緒の方が疑われないだろう、と思ったのだ。

 しかし、そんな俺たちの打ち解けた様子は周囲に誤解を与えた。

 もともとその思惑に意欲的だった義母が、婚約の話を進めようとしていたのだ。夫の息子と我が娘の婚姻が成立すれば、彼女の地位はとりあえず安泰となる。野望のためなら、娘ですら生贄に差し出しそうな女だった。役に立たない息子を放って、使えるコマを最大限利用しようとしているのだろう。


☆☆☆

 ようやく支度を整えた花嫁の気配を背後に感じる。
 慶一は、ゆっくりと振り返った。

 結婚はゴールではない。ここからが始まりだ。覚悟を決めたのは、選んだのは俺だ。後悔はしない。
 何度も繰り返し、心に刻む。

 彼女はエスコート役の男性の腕を取って、ゆっくりと歩いてくる。小柄な彼女の背後に長いヴェールがふわりとなびいている。

 人生の道行き。
 それを共に歩くということ。

 それまで別々に生きてきた二人が、ここで手を取り合って、お互いの違いを認め合って、いろんな壁を共に越えていく努力をするということ。

 慶一は言葉にして思った。
 そして、俺は、そうと決めた人生を、その人生の伴侶として横に立つ女性(ひと)を、きっと守る。

 後悔は、しない。
 


関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←陰影 第二部 (交わらない軌跡) 14    →光と闇の童話~sound horizon~
*Edit TB(0) | CO(2)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

~ Comment ~


こんにちは~。
手を変え品を変えの”再訪”ネタも尽きてきたので、続きを読んだところにてお邪魔します^^

まずは感想から。
あああfateさんやめてください!!こんなところで終わられたら気になるじゃないですか、慶一の結婚相手!
三人称のパートは、ふたり視点で語られる部分よりだいぶ先の未来のようですが……花嫁候補が2人いると分かってしまったからには、どっちなのか気になりますよぉ。
fateさんならきっと、慶一が最終的にさらちゃんのもとに戻せるようにやってくれると思っていますが、悲恋バージョンにも興味がわいてたりして。
優ちゃんと樹のときは、優ちゃんが不憫すぎて、何より人間としてきちんと育ってほしくて悲恋なんてめっそうもなかったのですが、さらちゃんにはまだ仲間がいるから、悲恋バージョンもちょっと見たい。
と、先も分からないまま訳のわからないことを喚いてスミマセン(>_<)

自分本位な義母はさておき、義理の妹のほうは、心優しい子なんだろうなぁと。親に利用される子供は本当に可哀そうなので、彼女は報われてほしい。
そして、慶一の父親が無理強いをせず、たったひとりの息子と分かりあえる日がくることを祈ります。


‐‐‐ここから前回の続き‐‐‐

>ダメだこりゃ、って事態に、陥ったとき。ただひたすら立ち向かったり戦ったりするのは無駄なばかりか、どんどん自身を追い込むだけのことがあります。
ここからの情熱的なコメント、何度もうなずきながら読みました。
いじめの部分は、ほんっとにそうですね。
あの中学生の事件以来、叩けば出てくるホコリでニュース欄が埋め尽くされていて、げんなりするやら、もっと隠された真実を明るみに出してほしいと思うやら……です。
私の場合、一度は立ち向かってみるべきだけど、心が壊れたり命の危険を感じたりした場合は、そこを去る、というのが一番よいと思います。
そこから去ることは、”逃避”ではなく”避難””危険回避”ですよねえ……。
>転校したって良い。学校なんか行かなくたって今はいろんな道が用意されているし、その方が、将来的に深みのある人間に育つかも知れない。物理的に、どこかへ逃げるべき。
実は私、この意見は、オトナになった今頷けるようになりました。子供の頃は、登校拒否になってるクラスメイトが理解できなかったんです。
でもオトナになった今、子供の頃学校で教育された「集団生活のオキテ」「相手の話をよく聞く」「互いを認め合う」とか、学んだはずだったコトがどっかに行ってしまった。
fateさんの言うところの
>魂レベルの低いやつと関わり続ける必要なんてないんだから。
こういう、本来なら”先生”に怒られたり社会的になんらかの制裁を受けるはずのひとたちが野放しになっていて、多くのマトモなひとたちがそれに合わせて我慢しているような現実を見て余計に。
今の学校教育の学力向上以外の部分って、ホントに実社会に出て役に立つかなぁって。
私自身がつらいイジメを受けたり登校拒否だったりはなかったけど、ほんとに今の学校の仕組みが合わない子供は、別の形の教育を”堂々と(ここポイントっ!)”受ける権利があっていいんじゃないって思いました。
……と、同じく横道にそれた上に、なんだかまとまってないコメントですみません。

>ヒトって、関わるヒトに寄ってレベルもころころ変わりますから、自分が一段高い位置に登れれば、周囲の人にも良い影響を与え、それについて来られない程度の人は、去っていくらしいです。
これもわかりますーーー。
下手すると「自分と違う価値観を認めないの?」って言われそうですが、価値観とかじゃないんですよね。受けた教育の程度とかでもなくて。言葉ではうまく言えないのですが……。
fateさんのおっしゃっていること、コワいくらい共感できます(笑
#2396[2012/09/10 18:00]  たつひこ  URL 

たつひこさまへ♪

たつひこさん、

おおぅ、進んでいただきましたかっ
っていうか、fateは本来、執筆しながらのupってしない主義だったので、早速綻びが随所に表れてしまい、すでに焦ってあちこち加筆しまくっておりまして(^^;
この記事も先ほど、ちょっくら肉付けというかちょびっと加筆いたしました~~
他サイトに掲載していた分はこちらより大分進んでいたので、お蔭で収拾つかなくなって、一旦、公開停止する有様です(ーー;
描き上げて、何度か推敲しないと最終的な辻褄合わせが成立しないんすよね、ほら、描いている間って何にも考えていないからぁ(^^;
ということで、昨夜ようやく描きあがっていた部分については加筆作業が終了したので、公開停止したやつを先にupします。
(って、裏事情をこんなところでバラす・・・(・・;)

> あああfateさんやめてください!!こんなところで終わられたら気になるじゃないですか、慶一の結婚相手!

↑↑↑なんとなく、fateのお気に入りの女の子を二人並べてみました。
はははは~っ

> 優ちゃんと樹のときは、優ちゃんが不憫すぎて、何より人間としてきちんと育ってほしくて悲恋なんてめっそうもなかったのですが、さらちゃんにはまだ仲間がいるから、悲恋バージョンもちょっと見たい。

↑↑↑うう、そ、そうっすよねぇ。
優ちゃんくらいヒドイ目に遭っている人物ってあんまりいないかも・・・(^^;
他の子は、まぁ、なんというか、「誰か」がいるんですよ。
ああ、悲恋バージョン!
恋愛自体をあんまり描けないから、失恋・悲恋って難しい~
でも、もっと難しいのは三角関係とか横恋慕とか女の闘い。恋の駆け引きってやつ。
バカくさっ
とかって醒めてしまうんで~(^^;
挙げ句、どこが良いの? こんなバカ男!
などと、チガウ方向に思考が走る・・・
じゃあ、男二人に女一人は?
それこそ、バカみたいだぁぁぁっ
男なら、もっと別なことに情熱燃やせや!! とキレるかも知れん(ーー;

> 自分本位な義母はさておき、義理の妹のほうは、心優しい子なんだろうなぁと。親に利用される子供は本当に可哀そうなので、彼女は報われてほしい。

↑↑↑このご感想を受けて、そうだ、この子の一番の望みはなんだ? とはたと考えるに至り・・・
それもあって、最後はあのように(どのように(ーー;?)締めくくりました。
まぁ、fateが聞かんでも、彼女はそう行動したかも知れんが。
でも、たつひこさんのご感想にふと立ち止まったことは確かでした。ありがとうございました(^^)

> ‐‐‐ここから前回の続き‐‐‐

> そこから去ることは、”逃避”ではなく”避難””危険回避”ですよねえ……。

↑↑↑はい、そう思います。単なる選択のひとつです。
親や親友などが全面協力して、学校を巻き込んでイジメの根を根絶する、という図式ももうひとつの理想ですが。そうすると、イジメていた子の闇(つまりその親)も明らかになって、その子すら救われます。
イジメや虐待って、本来、fateはテーマとして物語を描くことが出来ないほど苦しい闇です。優ちゃんの場合は、その過程を描写する必要性があんまりなかったので、過去として流して読者さまのご想像に任せられたのでテーマとして語ることが出来ました。
それ(虐待)が、リアルタイムで進む世界は無理です。
そして、イジメも、無理です。
慶一がかつて受けた程度のイジメもどき程度なら、実は、本人が屁とも思ってないからこそfateも大丈夫だったけど、本格的なイジメは読むのも辛い。
かつて、イジメられた女の子の回想シーンを盛り込んだ物語を他作家さま宅で拝読いたしましたが、痛くて読むのがすごく苦しかった!
しかも、それ、死ぬ瞬間の走馬灯的な回想だったので、余計に。まぁ、むしろ、そのとき親切にしてくれた男の子へ、という想いがテーマだったので、読破出来たというか。
子どもの心の悲鳴って、ものすごくダイレクトにfateには伝わります。
fateが未だに(?)成長し切っていないガキだから、近いモノを感じるせいであろうか。

> 私自身がつらいイジメを受けたり登校拒否だったりはなかったけど、ほんとに今の学校の仕組みが合わない子供は、別の形の教育を”堂々と(ここポイントっ!)”受ける権利があっていいんじゃないって思いました。

↑↑↑そうなんですっ
そういう、フツウに成長した大人が「オカシイ」と感じる教育現場。
教師がサラリーマン化した辺りから、すでに学校という場は、人生の基礎を学ぶ場ではなくなったんでしょう。
「先生」と呼ばれる職業は聖職だと思います。
子ども、病める人など社会的弱者に関わる仕事は。
サラリーマン気分の人間には就いて欲しくないですな。金が欲しいだけなら、別の仕事をしろ!
結局はそういう様々な社会の歪が一番弱い立場の子ども達へしわ寄せとしてやってくる。
そういう構図は今後も一朝一夕では変われんだろうから、せめてそういう子たちがつかの間くつろげる空間を提供する、それが物書きさんの使命かな、と(^^;
(fateの場合はとてもくつろげる空間にはなってないので、それはその他の皆様にお願いします)
(ただ、基本的に、最終的に反吐の出るハナシは描かないようにしているが・・・(^^;)

> fateさんのおっしゃっていること、コワいくらい共感できます(笑

↑↑↑えへへヾ(´▽`)
それは、なんか嬉しい~

・・・ということで(?)「陰影」自体はfateの中ではほぼ大詰めです(ーー;
少し気合入れてさっさと完成させる予定! です~
#2398[2012/09/11 08:06]  fate  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←陰影 第二部 (交わらない軌跡) 14    →光と闇の童話~sound horizon~