つわり症状は一週間ほどがピークで、その後、ある朝目覚めたら、すっきりと気分は治っていた。その間、おばあちゃんはもとより、公男も、本心なのか疑ってしまうくらい私に対して気を使い、親切だった。
いったいどういう意図なんだろう? とぼんやりと気分の悪さを常に引きずったまま私は考えた。
おばあちゃんを喜ばせたい?
まぁ、それが皆無ではないにしろ、結果的におばあちゃんが喜んでいるに過ぎない。彼は、初めから私の妊娠が目的だった感があった。本人もそう言っていたではないか。
何故?
それが分からない。家庭を持ちたかったとか、そんなベタな理由ではないだろう。だいたい、あいつの今回の仕事が、‘後始末’だとか言っていた。私の失敗の。
そうだ、まずは私は何をしたんだろう?
それを知る必要があると思った。恩着せがましく後始末をしてやった、なんていつまでも言われたくない。
食べれば吐いていたのに、体重はそれほど変わらず、食べられるようになったらむしろ少し増えた気がする。
「赤ん坊がいるんだから、ダイエットなんてするなよ」
私が、体重が増えそうだからもう良い、と途中で食事をやめようとすると公男はムッとする。
「放っておいてよ」
私も思わずムッとして言い返す。
「だいたい、産婦人科も受診してないのに、本当かどうかなんて分かんないわよ」
「じゃ、行ってこようか」
「イヤよ」
反射的に私はそう答えた。単に病院なんて行くのが面倒だと感じたのと…どこかで、何かが引っ掛かっていたからだ。
「じゃ、家で大人しくしてな」
公男は言って最後のご飯を口の中にかき込み、食卓を立った。なんだろう、その言い草。どこかムッとしたまま、私もお茶を淹れるために席を立つ。おばあちゃんが食後に必ずお茶を欲しがることを知っていた。彼女も元気だとはいえ、やはり足腰が弱くなっていて、立ったり座ったりが段々きつそうだった。つわりの間、おばあちゃんは私を気遣って、家事をほとんど一人でやってくれたのだ。
「はい、おばあちゃん」
私は丁寧に煎茶を蒸しておばあちゃんの湯のみにお茶を注いでテーブルに置く。
「ああ、ありがとうね」
するとおばあちゃんはいつもにこにこしてお礼を言う。
「俺は要らない」
公男は食器を流しに片付けて、出かける為に着替えに部屋に戻るようだ。もともと淹れてあげる気なんてないから、と私は自分の分はお湯で大分薄めてカップに注ぐ。
なんだかんだ思ってはいても、やはり胎児にカフェインは良くないだろうか、とか気を使ってしまうところが、自分でよく分からない。なんだろう? おばあちゃんがあまりに喜んでくれるので、せめて、彼女に赤ん坊を無事に産んであげたくなってきたのだ。
いったいどういう意図なんだろう? とぼんやりと気分の悪さを常に引きずったまま私は考えた。
おばあちゃんを喜ばせたい?
まぁ、それが皆無ではないにしろ、結果的におばあちゃんが喜んでいるに過ぎない。彼は、初めから私の妊娠が目的だった感があった。本人もそう言っていたではないか。
何故?
それが分からない。家庭を持ちたかったとか、そんなベタな理由ではないだろう。だいたい、あいつの今回の仕事が、‘後始末’だとか言っていた。私の失敗の。
そうだ、まずは私は何をしたんだろう?
それを知る必要があると思った。恩着せがましく後始末をしてやった、なんていつまでも言われたくない。
食べれば吐いていたのに、体重はそれほど変わらず、食べられるようになったらむしろ少し増えた気がする。
「赤ん坊がいるんだから、ダイエットなんてするなよ」
私が、体重が増えそうだからもう良い、と途中で食事をやめようとすると公男はムッとする。
「放っておいてよ」
私も思わずムッとして言い返す。
「だいたい、産婦人科も受診してないのに、本当かどうかなんて分かんないわよ」
「じゃ、行ってこようか」
「イヤよ」
反射的に私はそう答えた。単に病院なんて行くのが面倒だと感じたのと…どこかで、何かが引っ掛かっていたからだ。
「じゃ、家で大人しくしてな」
公男は言って最後のご飯を口の中にかき込み、食卓を立った。なんだろう、その言い草。どこかムッとしたまま、私もお茶を淹れるために席を立つ。おばあちゃんが食後に必ずお茶を欲しがることを知っていた。彼女も元気だとはいえ、やはり足腰が弱くなっていて、立ったり座ったりが段々きつそうだった。つわりの間、おばあちゃんは私を気遣って、家事をほとんど一人でやってくれたのだ。
「はい、おばあちゃん」
私は丁寧に煎茶を蒸しておばあちゃんの湯のみにお茶を注いでテーブルに置く。
「ああ、ありがとうね」
するとおばあちゃんはいつもにこにこしてお礼を言う。
「俺は要らない」
公男は食器を流しに片付けて、出かける為に着替えに部屋に戻るようだ。もともと淹れてあげる気なんてないから、と私は自分の分はお湯で大分薄めてカップに注ぐ。
なんだかんだ思ってはいても、やはり胎児にカフェインは良くないだろうか、とか気を使ってしまうところが、自分でよく分からない。なんだろう? おばあちゃんがあまりに喜んでくれるので、せめて、彼女に赤ん坊を無事に産んであげたくなってきたのだ。
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