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Stories of fate


アハンカーラ ~エゴ・自我意識~ (R-18)

アハンカーラ (芽吹き) 15

 つわり症状は一週間ほどがピークで、その後、ある朝目覚めたら、すっきりと気分は治っていた。その間、おばあちゃんはもとより、公男も、本心なのか疑ってしまうくらい私に対して気を使い、親切だった。

 いったいどういう意図なんだろう? とぼんやりと気分の悪さを常に引きずったまま私は考えた。

 おばあちゃんを喜ばせたい?

 まぁ、それが皆無ではないにしろ、結果的におばあちゃんが喜んでいるに過ぎない。彼は、初めから私の妊娠が目的だった感があった。本人もそう言っていたではないか。

 何故?
 それが分からない。家庭を持ちたかったとか、そんなベタな理由ではないだろう。だいたい、あいつの今回の仕事が、‘後始末’だとか言っていた。私の失敗の。

 そうだ、まずは私は何をしたんだろう?

 それを知る必要があると思った。恩着せがましく後始末をしてやった、なんていつまでも言われたくない。
 食べれば吐いていたのに、体重はそれほど変わらず、食べられるようになったらむしろ少し増えた気がする。

「赤ん坊がいるんだから、ダイエットなんてするなよ」

 私が、体重が増えそうだからもう良い、と途中で食事をやめようとすると公男はムッとする。

「放っておいてよ」

 私も思わずムッとして言い返す。

「だいたい、産婦人科も受診してないのに、本当かどうかなんて分かんないわよ」
「じゃ、行ってこようか」
「イヤよ」

 反射的に私はそう答えた。単に病院なんて行くのが面倒だと感じたのと…どこかで、何かが引っ掛かっていたからだ。

「じゃ、家で大人しくしてな」

 公男は言って最後のご飯を口の中にかき込み、食卓を立った。なんだろう、その言い草。どこかムッとしたまま、私もお茶を淹れるために席を立つ。おばあちゃんが食後に必ずお茶を欲しがることを知っていた。彼女も元気だとはいえ、やはり足腰が弱くなっていて、立ったり座ったりが段々きつそうだった。つわりの間、おばあちゃんは私を気遣って、家事をほとんど一人でやってくれたのだ。

「はい、おばあちゃん」

 私は丁寧に煎茶を蒸しておばあちゃんの湯のみにお茶を注いでテーブルに置く。

「ああ、ありがとうね」

 するとおばあちゃんはいつもにこにこしてお礼を言う。

「俺は要らない」

 公男は食器を流しに片付けて、出かける為に着替えに部屋に戻るようだ。もともと淹れてあげる気なんてないから、と私は自分の分はお湯で大分薄めてカップに注ぐ。

 なんだかんだ思ってはいても、やはり胎児にカフェインは良くないだろうか、とか気を使ってしまうところが、自分でよく分からない。なんだろう? おばあちゃんがあまりに喜んでくれるので、せめて、彼女に赤ん坊を無事に産んであげたくなってきたのだ。



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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