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Stories of fate


アハンカーラ ~エゴ・自我意識~ (R-18)

アハンカーラ (黒い影) 13

 検査薬ではばっちりと陽性反応が出た。
 何故か嬉しそうな公男の様子茫然と眺め、私は、四方がまったく見えない霧の中に放り込まれたような心細さを感じる。

 子ども? 赤ん坊? …こんなときに? しかも、素性の知れない男の?
 …いや、一番素性が知れないのは自分だ。

「不満そうだね」

 公男は結果の出た検査薬を机の上にとん、と置く。ここで、それをゴミ箱に捨てるような男だったら、どんなことをしてもこの赤ん坊は堕胎しようと思っただろうが、そういう最低限のデリカシーはあるらしい。あのおばあちゃんは、本当に公男の身内なんだろうか。もし、そうなら彼の時折見せる素朴さのような、普段の冷ややかな態度とは不釣合いな優しい眼差しのルーツが理解出来るというものだ。

 だけど、私は何か違和感をおぼえる。
 彼は、私を愛している訳じゃない、いや、違う。私は彼を愛していない。

「堕ろす?」

 不意に、ベッドに私を押し倒して彼はどこか冷徹な光を帯びた目で私を見下ろす。

「…堕ろしたら、また妊娠させるつもりなんでしょう?」
「正解」

 にやりと彼は笑う。そして、否応なしに私を抱こうとする。

「や…めて!」

 本気で、本当に気分が悪い。あらゆる匂いに敏感になり、男の体臭に我慢がならなかった。

「いやっ…」

 いつもは決して手を緩めない彼が、しかしその夜は、そのままふっと私の身体を解放した。

「堕ろすも堕ろさないも、君が決めて良いよ。生んでくれるなら、俺も君のことは何があっても守る」

 不意に真剣な眼差しでそんなことを言われ、私はぽかんと彼を見上げた。

「セックスはつわり明けまで待つか。それに…」

 公男は、ベッドから足を下ろしてちょっと息をついた。

「ここを動けなくなったな…」


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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