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Stories of fate


虚空の果ての青 第三部

虚空の果ての青 (異母兄) 20

「Mrs.ユウ。はじめまして。ITSHUKIの兄です。」

 柔らかい物腰で優雅に一礼した背の高い、どこか樹に空気の似た男。

 樹の傍らにそっと立ち、優は彼を黙って見上げた。樹の兄と名乗る人間は二人目だ。

 優が、怯えない…、と樹は思った。清琳に対してはあれだけ明確な拒絶反応が出たのに。この兄だって、どこか後ろ暗いものを抱き、大きな野望をその瞳の奥に秘めているのに。

「こんにちは」

 心得たもので、レオは必要以上に優には近づかない。

「いつきの…お兄さん」
「yes, lady。貴女にとっても義理の兄になります。以後、お見知りおきを」
「いったいそんな言い回しをどこで覚えたんですか」

 どこか呆れたような樹の言葉に、レオは、おや? という表情を浮かべる。

「MIYAKOに聞いていませんでしたか? 俺は、しばらく日本に住んでいたんです」
「初耳です」

 ホテルのロビーでの会合で、三人はコーヒーを頼んだだけでテーブルに向かい合い、レオは二人の顔を見たら、そのまま米国本土へ渡るつもりだという。

「父に会われるんですか?」

 くすりと鼻で笑い、レオはふと窓の外へ視線を移した。

「残念ながら、俺の目的は別でね。身内には会いませんよ。…ああ、迎えが来ました。では」
「レオ」
「また、お会いしましょう」

 取り付く島もない。
 エントランスに現れた恐らくレオよりも背の高い白人男性が、二人に向かって軽く会釈し、レオは彼と一緒に迎えの車に乗り込んであっという間に去って行ってしまった。

 美也子がロビーに下りてきたときには、すでに樹と優が、朝食を取るためにレストランへ向かうところだった。

「あら、レオは」
「もう帰ったよ」
「帰った?」
「うん、迎えが来たとかで」
「誰?」
「さあ。俺は知らない。部下なのか友人なのか。レオに負けず劣らずの美形だったけどね」

 あ~あ、と額を押えて考え込んだ美也子は、ふと顔をあげて樹を見つめた。

「…どうかした?」
「思い出した!」
「…何を?」
「レオってゲイだったわ」

 

「いつき…私、ちゃんと勉強する」

 帰りの飛行機で、今にも眠りに落ちそうなまどろみの中で、優は言った。

「え? …優ちゃんは、今でもちゃんとやってるだろ? ばらつきは多少あるけど、君、成績は悪くないよ」

 優は小さく首を振る。

「違う。今までは私、何も見てなかった。何も要らなかった。だけど、私も何か出来るようになりたい。…もう、誰も私のために傷つかないようにしたい」

 樹は驚いて彼の腕にもたれかかっている小さな顔を覗き込んだ。

「…そうか」

 眠っていた幼い雛鳥。世の中をうまく生きていけなくて、何もかもから目をそらしてうずくまっていた、生まれたばかりだった女の子は、今、ようやく彼の腕の中から外をしっかりと見つめ、一人で立とうとしている。

 自分の足で。
 初めて大地の感触を味わい、風を感じ、光の色を知ろうとしているのだ。

「ゆっくりで良いからね」

 樹は優の髪をそっと撫でる。

「でも、あんまり俺から離れないで」

 優は、樹の腕にきゅっとしがみつく。

「イヤだ」
「何が?」
「離れるのは、イヤ」

 くすくす笑って、樹は優の肩を抱き寄せた。

「そうか、君が離れたいって言っても、もう離さないよ」


 
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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


こんにちはー、お邪魔します^^

電子郵便のほうではお世話になりました!あちらもまたポツポツ推敲中です。

別のところでお伝えしていましたが、美容師さんの死がショックでコメントできずにいた私です。
とはいえ続きは楽しみにしていて、今日時間ができたのでここまで読みました。
彼女の死が無駄にならず、月並みですが本当によかった!
美也子さんが優ちゃんに言い聞かせたのと同じことを想い、優ちゃんがようやく自分の力で二足歩行(変な言い方ですが)しようと一歩踏み出した瞬間に立ち会えて安心しました。
それにしても、優ちゃん短命説が覆されることになるとは!
彼女はたしかに凄惨な過去を持っていて、そこは考慮しなければいけないのだろうけど、でも本当にたくさんの人に支えられて助けられてここまで来ることができたんですよね。
どん底から救い出してくれる人がいたとしても、どんなに劇的な事件があったとしても、結局そのあとの人生を前向きに生きられるかどうかは本人次第なわけで、自分の意識を自ら変えることができた優ちゃんはもう無敵なんじゃないでしょうか。ってポジティブすぎるかしら私^^

はぁ、とりあえずここまでで安心した。
#2273[2012/07/23 15:32]  たつひこ  URL 

たつひこさまへ

たつひこさん、

へい、らっしゃいっ!

> 電子郵便のほうではお世話になりました!あちらもまたポツポツ推敲中です。

↑↑↑おおお、そうっすかぁ。
フフフフ。どう変わるのか大変楽しみです!

> 別のところでお伝えしていましたが、美容師さんの死がショックでコメントできずにいた私です。

↑↑↑なんというか。
fateはもう、優ちゃんのためなら最近は犠牲を厭わなくなってしまった感があり(ーー;
なかなか非情に徹しているようだす~
深く考えるとツライ事件を、なるべくさらりと流そうとしてるというのか。
けっこう、描いてる本人も辛かったりするのに、見ない振りしとります(^^;
(じゃあ、殺すなよ!)

> 美也子さんが優ちゃんに言い聞かせたのと同じことを想い、優ちゃんがようやく自分の力で二足歩行(変な言い方ですが)しようと一歩踏み出した瞬間に立ち会えて安心しました。

↑↑↑おおおおおっ
そうっすか?
ですよね??
間違ってないっすよね???
っていうか。美也子さんに言わせたあれは、ほんとにその通りだと思うんです。
優ちゃんは、それまでほんとにただ必死に「生きてきた」。
文字通り、死なない程度に、という意味で。
流れを変えるひとつの出会いがあって、しっかりと安定した居場所を得てから、彼女の運命は大きく動き出して、たくさんの出会いと守りと愛に寄って、消えそうだった焔が、風避けを得て輝きだした。そんな感じ。
たっさんの考察には感動いたしました。
ありがとうございます!
優ちゃんは、何げにたくさんの人に愛されているから、きっと大丈夫でしょう!!

> それにしても、優ちゃん短命説が覆されることになるとは!

↑↑↑ふふふふ・・・
(何の笑い?)

#2275[2012/07/24 07:49]  fate  URL 














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