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Stories of fate


虚空の果ての青 第三部

虚空の果ての青 (異母兄) 19

 その夜遅く、優が眠ってしまってから、美也子はようやくレオを捕まえた。

 レオは、美也子を訪ねてホテルのバーにやってきた。SPを二人優の守りに置いて、樹と美也子は彼に会いに行った。初めて会った異母兄弟。レオは樹が想像していたような父親似の豪快な男ではなく、一見するとモデルか何かのような繊細で柔らかな外見をしていた。後ろ姿では、そして、相応の格好をすると女性にも見えるような線の細さだ。そういえば、母がちらりと洩らしたことがあった。先妻は女優だったと。そして、彼女の両親はラテン系の母親と白人の父との混血らしい。その美しい顔立ちは間違いなく母親譲りだ。つまり、樹とはまったくと言っていいほど、似ていなかった。

「How do you do…」

 樹が手を出すと、レオは弟を見つめてにやりとする。

「噂通り、MIYAKOにそっくりだね、ITSUKI」

 その瞳の光の鋭さが、柔らかい顔立ちに合わずに樹はぞっとする。声は高いテノールで、染めているらしい明るい色の髪の毛が深い緑の瞳を一段柔らかく見せている。しっかりと樹の手を握って、レオはどこか怪しい笑みを見せる。

 テーブル席に就いて、3人はぎこちなく乾杯した。

「今まで、どこにいたの? レオ」

 美也子が少し詰問調に彼を見つめると、レオは涼しげな顔で答える。

「俺は今、ここにいるんだから、詮索はなしだよ」

 分かったわ、とため息を吐く美也子に、レオはいたずらな笑顔を見せる。

「情人(こいびと)に会いに行ってたのさ」
「…そんな女性がここに?」
「世界中どこにでも」
「それは恋人と言えるの?」

 ふふふ、と甘い笑顔を作ってレオは樹に視線を送る。

「俺は、ITSUKIのように育ちが良くないからね」
「分かったわ。それは別に良いんだけど、やっぱりレオ、考え直して欲しいのよ。貴方以外に組織を託せる人間なんていないわ」

 声を潜める美也子に、レオは真顔になる。

「MIYAKO、あまりそういう話を不用意にしない方が良い。日本語の分かる人間は山ほどいる」
「ここは、大丈夫でしょう?」

 言いながらも、美也子はふと周囲に視線を走らせ、樹もグラスを持ったまま神経を尖らせた。そこは照明を少し落とした静かで品の良いバーで、客は当然、宿泊客のみ。それも身元は確認済みだった。ここは宿泊客と一緒に、或いは招待されたことを証明出来なければ入れない店だった。

「ここだけは安全なんて場所は、世界中どこにもないと思った方が良いよ、MIYAKO」
「…受けてくださる気はないということですか?」

 樹は、静かに兄の横顔を見据える。レオはくすくす笑い出した。

「猪突猛進…?ああ、違う、単刀直入だったっけ? そんなツマラナイことより、その前に少しは色っぽい話しはないのかな?」
「日本語、お上手ですね」

 明らかにはぐらかしているだけの兄に樹は呆れて彼を見つめる。

「その辺の日本人より、言葉が巧みでいらっしゃる。…ところで、お兄さん、日本人美容師が殺されたことをご存知ですよね?」

 レオはその美しい顔に微笑を浮かべたまま、樹へ視線を移した。

「俺が殺ったとでも?」
「そんなことは言ってません。それについて、何か情報を得ていないかと思っただけです」
「…そんなことを聞いてどうするつもり?」
「新年のパーティで、優ちゃん…俺の伴侶たる女性が襲われかけました。そのことについても、何かご存知では?」

 レオの笑顔が消えた。

「ITSHUKI、誤解のないように。俺はMIYAKOを義母として愛している。そして、君のことも。それから父や兄のこともね。彼らを陥れる気はないし、また庇う気も、ない。だから、俺が言わないことは聞かないで欲しい」
「それは、質問に対する肯定ということですね」

 レオは、無言でグラスを傾ける。

「貴方は、人を統べる器を持っている。そういう気がしますが―」
「おお、ITSUKI、あまり難しい日本語は分かりません」

 樹の言葉を遮り、レオはおどける。

「いずれ、俺は組織を逃げ出した人間です。もう、戻ることは出来ない。そして、一度外へ出た人間を受け入れる組織などない」
「でも、組織に戻る必要はない。そうじゃないですか? 貴方は、結局、どこにいても何もかも知っている。渦中にいなくても、貴方は組織を動かせる。これは推測ですが、貴方がここに現れたことで、撤退を余儀なくされた連中がいるんじゃありませんか?」

 レオはにやりと微笑む。

「それは、MIYAKOだって同じでしょう。義母に手を出すバカ息子はいない。そんなことをしたら父がどれだけ怒り狂うか分かっている」
「レオ、いい加減はぐらかすのはお仕舞いにしてください。良い返事が欲しい。貴方は本当は戻りたい、そうじゃありませんか?」
「言葉の選び方には気をつける方が良いね、ITSUKI、俺がもし引き受けたら、君はそれに見合うだけの何をしてくれると?」
「俺に出来ることはありませんよ」

 くくく、とレオは可笑しそうに笑った。

「そうはいきませんよ、ITSUKI、俺にその道を歩ませるなら、君にも相応の覚悟はしてもらわないと」
「待って、レオ、それは私が…」

 それまで黙って兄弟の会話を見守っていた美也子が口を挟む。

「依頼内容は分かりました、ITSUKI。いずれ、また会いましょう」

 レオは不意にそう言って立ち上がった。

「レオ!」
「MIYAKO、ご招待ありがとう。ITSUKI、では、また」
「待って、まだ帰る訳じゃないでしょう?」

 慌てて美也子も立ち上がり、立ち去ろうとするレオの前に立ちはだかる。

「ああ、今夜はホテルへ戻るだけです。明日、Mrs.ユウに会いにまた顔を出させていただきますよ」



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