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Stories of fate


虚空の果ての青 第三部

虚空の果ての青 (murder) 15

 翌朝、樹が目を覚ますと、珍しいことに、優はもう起きて窓ガラスにへばりついていた。

「優ちゃん?」

 寝ぼけたままで、変に悪酔いした頭痛に顔をしかめながら、樹は慌てて身体を起こした。あれから、樹は眠れずに一人、明け方までウィスキーを飲んでいた。優は、ゆっくりと振り返ってきらきらした瞳で樹を見つめた。

「海…、綺麗だね」

 逆光で淡く霞む優の白い顔が、透ける長い髪の毛が、天使のように光を放っているように見えた。
 綺麗だ、と思った途端、昨夜の母の瞳を思い出してはっとする。

 神様がちょっと貸してくれた天使。
 その言葉がぞっと背筋を凍らせる。

「いつき、海に行って良い?」

 優は、そんな樹の心を知らずに無邪気に海に焦がれる。ただ、うっとりと朝の海辺に心を飛ばす。青い色が、光る波が、どうしても優の心を捕えるらしい。

「ああ、そうだね、散歩してこようか」

 せっかく海辺に泊まっているのだ。優に海を満喫させてやりたいと樹は思った。もう、ここを離れて日本に戻ったら、しばらく彼女が海に触れることはないだろう。しかも、日本の海で、優が望むような色をしているのは沖縄の海くらいなものだ。

「着替えて、支度してて。俺もシャワー浴びてくるから」

 樹は、ちょっとくらくらする頭をすっきりさせようと、バス・ルームに消える。優は、しばらく窓の外の海を眺めて、それからゆっくりとパジャマを脱ぎ、脱いでしまってから、あれ? 何を着れば良いんだっけ? とその変をウロウロする。

 監視カメラを覗いているSPが、思わず唖然とするような光景に、反対側の部屋では、同じ映像を覗いている鹿島が内心苦笑しながらコーヒーを飲んでいた。彼はほぼ慣れてしまっていてそれほど動じないのだが、若いSPたちは思わずお互いの顔を見合わせているだろうと考えると失笑を禁じえなかった。

「あれ? まだ着替えてなかったの?」

 ローブを羽織ってバス・ルームから出て来た樹は、優が下着姿のままクローゼットを前にして途方に暮れている姿を見つけた。

「明日はこれ着るんだよ、って分けて置いてただろ?」

 樹はちょっとおどおどする優に、少し濃い目のオレンジ色のシャツとスカートを出す。

「これは、ほら、紫外線カットの素材になっているから」

 言われていたことを思い出して、優はこくこく頷いてそれを受け取る。

 樹は、優の着替える姿を横目で見ながら、冷蔵庫から清涼飲料水を出して飲み始めた。放っておくと、優は、むちゃくちゃな着方をしておかしな格好になってしまう。彼女は、自分の容姿にまったくと言って良いほど無頓着で、お洒落に関する興味が、ない。大抵、樹や佐伯がコーディネイトして、なんとか最低限の服装をさせているのだ。

 優が、ぎこちない手つきでUVカットの日焼け止めクリームを肌に塗りこむ様子を見守り、帽子を用意して、万全の支度を整えると、樹はSPに内線をする。

「ちょっと浜辺まで行ってくる」

 返事を待たずに受話器を置き、樹は優を連れて部屋を出た。
 両隣の扉が一緒に開き、鹿島とSPが二人現れる。

 やれやれ、と思わなくはないが、美容師の件を思うと警戒しすぎということはない。



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