FC2ブログ

Stories of fate


虚空の果ての青 第三部

虚空の果ての青 (純白のエンジェル) 6

 しばらくクラスメイトに守られていた優は、一人では出来なかった食事を少し進め、空腹が満たされた途端、疲れて休みたくなった。

「ロビーの方にソファがあったよ」

 優の様子に敏感に気付いて、希美子が誘う。

「でも、もしかして勝手に出て行ったら怒られる?」

 希美子が心配そうに優を覗き込む。樹は、まだ忙しそうに大勢の人間に囲まれて相手をしている。優の周りはクラスメイトのバリケードが出来た状態で、他の人間はむしろ優に近づけずにいた。

「…分からない」
「そんな、なんでも言うこと聞かなくても大丈夫だろ?」
「オレたちも行くから、怒られたらオレらが勝手に連れ出したんだって言ってやるよ」

 九条と山城が言い、傍に居たクラスメイトの子たちも、あ、私もロビーに行ってみたい、と言い出した。

「どうする?」

 希美子に聞かれ、優は頷く。
 若い男女がぞろぞろ移動するので、イヤでも目立つ。樹は、優が一緒に出て行くところを目の端に捉えたが、希美子が一緒にいることを確認し、まあ、良いや、と思う。

 大人の思惑の中にいてすり減るよりも、知った顔ばかりのクラスメイトと一緒の方が少しは息がつけるだろう、と。それでも、その一団を追って、優に近づこうとする輩が数名いたことも確かだった。また、優のクラスメイトと知って一際若い群れに近づいてくる周到な連中もいて、樹は気が気ではない。ここに生徒達を預かっている責任もあるのだ。

 ロビーで思い思いの席に就いてくつろぐ若い子たちの群れは、ホテルの設備の豪華さに感嘆して、ただ楽しそうだった。その様子を不思議そうに眺める一般客や、その中心にいる優が、事実上、樹のアキレス腱であることを分かっていて見つめる視線など、沢山の注目を集めながら十数人の子ども達は警戒心もなくそこにいた。
 樹に指示されてホールから出てきたホテルの警備が、その一団を守るようにさり気なく周囲に立つ。

「ここ、飲み物とか何か頼んで良いみたいだぜ」

 早速、メニューを見つけて男の子たちがはしゃぐ。
 思い思いにパフェだとかケーキだとかを注文して、生徒たちはデザートを楽しんだ。その様子をぼんやり見つめて、優は、樹にもいつも外で食事をするとデザートは? と聞かれることを思い出していた。

「優も、何か食べる?」

 希美子に聞かれて、優は、ううん、と首を振り、「食べて良いよ、希美子」と友人を見つめる。優がいつの間にかそんな風に他人に心を使えるようになっていることに、希美子は少し驚いた。

「何か頼んでやろうか?」

 山城が希美子の背後から顔を覗かせる。

「要らないよ、もうお腹いっぱいだし」
「そういうのはベツバラって言うんだろ?」

 九条がからかうように笑ったが、希美子は無視していた
 ふと、警備に無線で何か連絡が入ったようで、彼らは生徒たちに、そろそろ会場に戻るように促した。その様子を見ていた希美子はふと呟く。

「何か、あったのかな?」

 そろそろ注文した品は食べ終わっていた生徒たちは、警備に付き従われてぞろぞろ戻っていく。その様子をぼんやり眺めながら、優も希美子に、戻ろう、と声を掛けられて立ち上がった。

 九条も山城も、クラスの他の男の子と話に夢中になっていたが、周囲の様子に気付いて立ち上がり掛けた。

 優が、希美子と共に会場へ向かおうとしたとき、不意にどこからともなく現れて近づいてきた男がいた。大柄な男性で、縮れた黒髪に真っ黒い肌、そして、スーツ姿であったが不自然に彼の左袖には何かが隠してあるように見えた。

「Mrs.マクレーン? お目にかかれて光栄です。私はニューヨークの方でお義兄さんのお世話になっているんですが…」

 振り返った優に、その黒人系の男は少し英語訛りの日本語で話し掛ける。

 咄嗟に、優は後ずさった。何か…清琳に近い匂いがしたのだ。しかし、男の手に何か握られていることをまだ誰も気付かない。それでも、優の怯えた様子に気付いた希美子が、反射的にその男と優の間に立ちはだかった。

「どなたですか?」

 希美子の、低い、だけど威嚇的なその声に、背を向けていた九条と山城が反応した。そして、不敵な笑みを浮かべている背の高い黒人男性が二人の前に立っている姿を見て、何を考える間もなく駆け寄ってきた。他の生徒たちは大方ホールに戻り、警備もそちらに付いて行ってしまっている。

「おお、ナイトが大勢いるのですね」

 彼は笑顔を浮かべながら大袈裟に驚いてみせる。

「希美子、桐嶋さんを連れて早く戻れ」

 山城は男をしっかりと見据えたまま振り返らずに言った。

「私は、ご挨拶に伺っただけです。他意はありませんが?」

 男は、相変わらず笑みを浮かべたまま、ふわりと彼らの脇をすり抜け、はっと気付いたときには優に向かっていた。男の手が、優の腕に触れようとしたとき、希美子がその間に立ちふさがる。

「誰かぁっ」

 叫んだ希美子を突き飛ばして男は優に襲い掛かる。しかし、彼が左手に持っていた銀色の注射器を優の腕に突き立てようとした瞬間、山城と九条が自らの危険も顧みずに男の背に飛び掛っていた。

「きゃああああっ、いやぁぁっ」

 男に腕を掴まれた優は反射的に悲鳴をあげ、辺りは騒然となった。その騒ぎに慌てて警備が引き返してくる。男は、飛びつかれた拍子に注射器を取り落とし、それを拾う間もなく、舌打ちをするとそのままどこかへ走り去って行ってしまった。警備の人間が数名、男を追いかけていく。そして、残った一人が慌てて4人のもとへ駆けつけた。

「き…、希美子、大丈夫?」

 優は、震えながらその場に座り込み、泣きそうになりながら希美子に声を掛けた。

「希美子っ、桐嶋さん! 大丈夫かっ?」

 男に振り落とされて顔をしかめている山城を助け起こしながら九条は叫ぶ。

「私は大丈夫よ、それより、優? なんともない?」

 希美子は優に駆け寄り、青ざめた顔で優の身体を確認した。優は、恐怖とショックでまだ動けず、座り込んだまま頷いた。



関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←アハンカーラ (謎) 7    →虚空の果ての青 (純白のエンジェル) 7
*Edit TB(0) | CO(2)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


ぎゃあ

ひいいぃ、今度こそ大団円だと思っていたらまさかの!!
もうfateさんったらそろそろ勘弁してくださいよーーー

と、いきなり愚痴ですみません。
もちろんお話としては面白いんですよっ。
でも優ちゃんがそろそろ名実ともに死ぬんじゃないかと思って私は心配です^o^←精一杯の笑顔
この3部は短いとうかがっていたので、お手柔らかにお願いしますね><

そうそう、優ちゃんが披露宴スピーチに失敗しちゃったけど、みんなホレボレしてたっていうエピソードがすごく好きです。きっとなにも言えなくなって赤くなって黙っちゃって、それを樹がフォローしたんだなってほほえましくなりました。

PS 先日fateさんのアドレス宛にメールさせていただきました!お時間あるときに開いてみてくださいませ^^
#2246[2012/07/09 17:09]  たつひこ  URL 

Re: ぎゃあ

たつひこさん、

先に叫ばれてしまった・・・
いや、だから何? ってことだけどさ(・・;

> ひいいぃ、今度こそ大団円だと思っていたらまさかの!!
> もうfateさんったらそろそろ勘弁してくださいよーーー

↑↑↑まったくねぇ。
描けば描くほど、優ちゃんたら酷い目に遭うんだよな。
なんか、その辺が悶えどころです~(ーー;

> でも優ちゃんがそろそろ名実ともに死ぬんじゃないかと思って私は心配です^o^←精一杯の笑顔

↑↑↑うう、なんか嬉しいなぁ。
そんな風に愛されるなんてっ
fateも実は優ちゃんとか李緒ちゃんが好みだったりする。奈緒ちゃんのようなしっかりした女の子は何げにちょっとコワイ。
・・・って別に好みのハナシをしてるんじゃないんだって(ー"ー*

> この3部は短いとうかがっていたので、お手柔らかにお願いしますね><

↑↑↑結局、予約投稿にしちゃって(メンドかったので(^^;)7月末頃に完結しそうっす。
つまりは30pもないってこったな。

> そうそう、優ちゃんが披露宴スピーチに失敗しちゃったけど、みんなホレボレしてたっていうエピソードがすごく好きです。きっとなにも言えなくなって赤くなって黙っちゃって、それを樹がフォローしたんだなってほほえましくなりました。

↑↑↑エヘヘヾ(´▽`)
って、fateが褒められたんじゃないっつの。
はい、そこはもう絶対そうなるだろうと思ってました。
そこで完璧を演じるようじゃ優ちゃんじゃない気がして~

・・・で、すみません、実は、ということなので、すみませんm(__)m
はい、再度ご連絡お待ちしております~~~
#2248[2012/07/09 20:42]  fate  URL 














管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←アハンカーラ (謎) 7    →虚空の果ての青 (純白のエンジェル) 7