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Stories of fate


虚空の果ての青 第二部

虚空の果ての青 (漂う海原) 44

 夕食を共にして、そのまま樹は仕事に戻る。
 再び一人取り残された優は、案内されて浴室へと向かった。そして、脱衣所の鏡に写った自分の姿に、彼女は愕然とする。

「…誰?」

 優は、思わず、そう呟いていた。
 そこに写っていたのは、記憶にある自らの姿ではなかった。全身に刻まれた傷や怪我のことではない。そういうものは幼い頃から見慣れているので、彼女は特に驚かない。

 そうではない。
 そこに佇んでいたのは、幼いだけの少女ではなかった。どこか大人びてすっきりした輪郭。そして、幾分丸みを帯びて女性らしく成長したボディライン。そして、もっと暗い栗色だった髪の毛は、生え際からどんどん鮮やかな明るい色へと変わっていた。

 私の身体はどうなってしまったの?
 優は、ぐらりと視界が揺れ、ふらりと床に手をついた。

 冷静に思い返してみると、何もかもがおかしいことだらけだった。

 そうだ。
 そもそも彼はいったい誰なのだろう? 病院で、初めから親しげに名前を呼んで、ひどく優しい瞳で自分を見つめた人。

 それから、それまであまり考えなかったが、クローゼットを開けて寝巻きを取り出してもらったとき、そこにあった服は、すべて彼女のサイズのもので、どう見ても新品ではないものが多数あった。

 包帯は外れたものの、あちこちに刻まれた傷が、触れるとまだしくしくと痛んだ。
 考えても明確な答えは何も浮かばない。
 優は、諦めてふらふらと立ち上がる。

 今までも、自分の意思で何かを強く願い、決めて、それを実行に移すということを特にしてこなかった優は、諦めることだけは得意だった。そして、受け入れる、ということも。

 特に、今は誰も優に対してひどいことをしているわけではない。むしろ、誰もが彼女を心配し、優しくしてくれる。その意味が分からないまでも、ここから逃げ出す理由も、逃げ込む場所も思い浮かばない。優は、もう考えることすら諦めて、浴室への扉を開けた。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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