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Stories of fate


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虚空の果ての青 第二部

虚空の果ての青 (陰謀) 35

 今、樹が、ボスの最愛の女性の息子であり、日本での財団の要である以上、その庇護のもとにある‘優’は、マクレーン財団にとっても重要人物であった。

 今回の件は、ボスの知らないところで進められた話だ。彼なら、仮にも樹に関わることであれば、相手の人物を裏表ひっくるめて念入りに調査するだろう。こんな見切り発車的で偶発的なことが起こるはずはない。

 普段、父親に個人的な依頼はほとんどしない樹だったが、こと、優に関しては彼の情報網を利用してみようかと決意させるに至った。

 母、美也子にメールを入れ、知る限りの事情を説明し、今回の降って湧いたような縁談の裏を探って欲しい由を依頼すると、彼女からはすぐに、了解、の返信があった。


 
「優ちゃん、部屋に食事を用意してもらうから少し食べなさい」

 樹が部屋に戻ると、優は、ソファの上に丸くなってひっそりと息をつめていた。まったく予想通りの様子に苦笑しながら、樹は彼女の傍らに腰を下ろす。すると、優は一瞬怯えた目で彼を見上げて、そして、必死な様相で彼の首筋にしがみついてくる。

「いつき…怒ってる?」
「なんで?」
「…だって、…ごめんなさい」

 時間を見つけて、佐伯や、この屋敷がマクレーン氏に買い取られる前から勤めていた年配の家政婦長などに、優は時々、接待マナーなどを教わっていた。樹の妻として生きていく限り、どうしても避けて通れない社交術だ。

「心配しなくて良いよ。君の勘はきっと正しいから。今回はちょっと特殊だしね」

 何が? ときょとん、と見上げる優の視線には応えずに、樹は続ける。

「普通、日本では握手をする程度だし、高校を卒業する頃までに慣れてくれると良いんだけどね。まあ、どうしてもダメな場合は白い手袋をしていれば良いんだよ。そうすれば、直接触れられずに済むしね」

 優は、よく分からないなりにも頷いた。とりあえず、樹が怒ってないなら、それで良いのだ。

「…そうだなあ。君が卒業してから、と思って延ばしてたのが、そもそも失敗だったかな」

 ふと、優の身体を抱いたまま樹は独り言のように呟く。耳元でささやかれた言葉に、優は再度「?」と怪訝そうに身体を離して彼の顔を見た。

「ああ。結婚披露パーティみたいなことをさ。入籍しただけで、挙式も披露宴もしてないからね」

 樹は優の不思議そうな表情に応えて微笑む。同時に、樹の住む世界へのお披露目と社交界デビューみたいなものだ。しかし、そういう公共の場に、あまり優を出すつもりのなかった樹は、その点でも迷うところだった。まだ、早すぎる。

「パーティ?」

 あまり良い思い出がない優は不安になる。また、あの窮屈で動きにくい服を着せられて、食べ物の味も分からない場に出なければならないのか、と思う。しかし、そういう場に樹と同伴するのが優の役目であるのだ、と佐伯や家政婦長に言われたことを同時に思い出す。

 樹と一緒にいるためには、自分も相応の努力や我慢もしなければならないのだ、と優はそっと思う。それまでの失うものは何もない、ただ、死を待つだけの生活に比べれば、優は両手いっぱいに抱えきれない温かいものを得た。どれだけ大勢の人々の中にいてもたった独りだった樹に出会う前の生活に比べれば、今は、鹿島や雅子、佐伯という人々に囲まれている。それを、知ることが出来る幸福を感じることが出来た。

 そして、言い方を変えれば、それ以上のものを何も望まなかった。
 それで、充分だったのだ。

 世界が広がることを優は望まず、自分という物語に登場人物が増えることを望まなかった。
 それは、樹の希望でもあり、樹の望むことが彼女の望みだった。

「そうだよ。開催するからには準備をしっかりしないとね。君も、勉強しなきゃならないことが今まで以上に沢山出来るよ。招待客も大勢来るしね。母も呼ばないといけないだろうし」
「お母さん?」

 優はその単語にだけ嬉しそうに反応する。

「そう。あと、父の代理で誰か来るんだろうな。もしかして、兄も誰か顔を出すのかもなあ」
「おにいさんが、いるの?」

 複雑な表情で優は聞く。

 この間の拉致事件に兄が絡んでいること、恐らく、今回のこの縁談話の裏にも兄の誰かが裏に居るだろうことは容易に想像できるが、それを話したところで優にとって良いことは何もない。樹は曖昧に微笑んだ。
 兄と一口に言っても、皆が皆、樹を目の仇にしているわけではない。むしろ、跡継ぎ戦線からとっくに離脱して組織とはあまり関わりなく人生を過ごしている変わり者もいる。

「先のことは、あとでおいおいね。とりあえず、佐伯さんが食事を運んでくれるはずだから、優ちゃんは朝食をしっかり食べなさい」
「食べたくない」
「ダメ」
「あとで…食べるから」
「少しでも良いから口に入れて」

 樹の腕の中で、優は消え入りそうに小さな声で聞く。

「少し…で、良い?」
「食べられるくらいで良いよ。良いかい? 男がせっせと働いて女に食わせるのは何のためだと言った?」
「…太らせて、食べるため?」
「そうだよ。」

 樹は笑う。

「食べ甲斐があるくらい、ちゃんと肉をつけてもらわないとね」

 そう言いながら、優の髪を掻き分けて樹は耳元にチュッとキスを落とす。

「ひゃああっ」
「君が太るのを待ってたら、俺はおじいさんになってしまうよ、ほんと」
「やぁっ…だって、さ…佐伯さんが…っ」

 優が涙目になってもがいているところに、佐伯がドアをノックし、「失礼いたします」と、食事のワゴンを押して現れる。ソファでじゃれ合っている二人の姿を見て、佐伯は、一瞬目を丸くしたが、すぐに気を取り直して、こほん、と咳払いをする。

「樹さま」
「ああ、ありがとう。そのまま置いていってくれて良いよ」

 真っ赤になっている優を胸に抱いたまま、樹は笑って答える。

「かしこまりました。」

 佐伯は内心の苦笑は表に出さず、食事の乗ったワゴンをテーブル脇に置いて、去っていく。

「さて、優ちゃん。食事が届いたようだよ。ここで俺に食べられたくなかったら、きちんと食事しようね」



 他に何も要らない。
 いつきのそばにいられれば…。



 それが、優の唯一にして最大の望み。


 
 そんな、大好きないつきのことを‘忘れる’ことがあろうとは、優は考えてもいなかった。




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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

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