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Stories of fate


アハンカーラ ~エゴ・自我意識~ (R-18)

アハンカーラ (堕ちた世界) 5

 翌日も、そして、翌々日も男は私が目を覚ましたときにはもう小屋にはいなかった。

 その隙に逃げ出せば良いようなものだが、自分の素性が分からないのでは、どこへ行って良いのか、誰に連絡を取って良いのかさっぱり分からない。しかも、この小屋の周囲には何もないのだ。

 どう考えても男は車を使っているのだと思われたが、少なくとも、私が散策して歩いてみた程度の周囲には、車の通れるような道はない。つまり、男は、ずっと麓に車を停めて、ここまでは歩いてのぼってきているのだ。

 そして。
 私もそうして、ここに辿り着いているはず…なのだ。

 小屋の周りをぐるりとまわってみる。
 道…とまではいかないが、低い草が続く獣道を歩いていくと、不意に切り立った崖の上に出た。付近の草が踏みしだかれていて、まるで人が争ったような跡が残っている。

 ここで、何かを言い争って、或いは、もみあって、私はここからあの男にでも突き落とされたんだろうか?

 ぼうっとそんなことを考える。
 いや、殺すつもりで突き落としたのなら、助けるわけないか。
 むしろ、争っている内に誤って私が足を踏み外しでもしたんだろう。
 そんなことを淡々と思う自分の精神の疲れを思う。

 すべて、想像に過ぎないそれは、単に獣が争った跡かもしれないし、もっと別の…もっと単純などうでも良い現象の跡かもしれない。

 その日、山を歩き回るのに疲れて私は小屋に戻り、そして、男がそうしていたように、渇いたタオルを数枚持ち出して、沢に下りた。水浴びするでもなく、足を水に浸けたままぼんやりとそこに座って景色を眺めていると、いろんな音が聞こえてきた。小鳥のさえずりや、木々のざわめき、小さな生き物の息吹。

 その中に身を浸していると、心が穏やかになるのと同時にざわざわと波立つのが分かる。

 何故だろう?
 私はここに何の目的で訪れ、そして、あの男は誰なんだろう? 私を追ってきたのか、それとも私が男を追ってきたのか? …何のために?

 どう転んでも楽しい話ではないに違いない。どこか心臓にきりきりとした痛みを感じる。その理由が分からなくて私は眉をひそめてみる。断片でも良いから、何かを思い出そうと試みたのだ。しかし、相変わらず頭の中には霧がかかったようで、周囲の様子は何も掴めない。

 あの最初に日に目覚めてから、4日目のことだった。

 不意に、足音が近づいて来て、私ははっと振り返る。あの男以外には有り得ないのに、私はほんの一瞬期待した。私を知る、他の誰かが私を探しに来てくれないかと。

 いや、明確に‘誰か’を私は待っている…ような気がする。

「なんだ、逃げ出したのかと思ったよ」

 明らかにほっとした表情を浮かべて、男ははあはあと肩で息をする。その日はスーツ姿ではなくて、ラフなシャツとジーンズだった。小屋の中に私の姿がないことに気付き、ここまで走ってきたのだろう。

「…行くところなんてないもの」
「ああ、そうだな」

 男は、真顔になって頷く。そして、不意にその場で服を脱ぎだす。露出狂か、こいつ?
 しかし、この景色の中ではそういうことがまったく異様ではなくて、自然の一部のように溶けてしまう。そして、服を脱ぎ捨てた男は、流れの淀んだくぼみではなくて、急流の川に向かって飛び込んだ。

「え…っ?」

 私は唖然として声をあげた。
 だ…大丈夫なの?
 心配する筋合いなんてないのだが、私はほんの少し不安になった。ここにこのまま一人取り残されたら、人が住んでいる町まで、一体どうやって帰れるのか見当もつかなかったのだ。

 流れのずっと下流で顔を出した男は、そのまま岸に泳ぎ着き、そして、川岸を歩いて戻ってくる。
 この男は、もしかして、昔この辺に住んでいたのかも知れない。川での泳ぎ方をよく知っているような気がした。

 茫然と男の姿を眺めていると、彼はそのまま私の前までやってきて、ぽかんと見上げた私の身体を不意にその場に押し倒した。

「や…っ、何を…」

 抵抗する間もなく私は荒いスナ砂利の上に組み伏せられ、ワンピースの裾を捲り上げられた。
 どうせ、夜には私の身体を好きにするくせに、何故、こんな昼間から? しかも、いつ、誰が覗くか知れない野外で…。

「いやぁっ」

 冷たい手が私の胸をまさぐり、滴り落ちる雫が服の上を伝う。手足をバタつかせる私の両腕を片手で押さえ込み、男はもう片方の手で、片足を抱え上げた。

「いやああぁっ、いやだっ」

 身体は水に濡れて冷たいのに、男のそこだけは熱かった。そして、その熱いモノをぐい、と私の中に押し入れてくる。

「あぁっ…」

 抵抗感があったのは初めだけで、すぐに私の中から蜜が滲み出してきた。じわじわという感触で、男が中へ進入してくる。両腕を押さえていた男の手が不意に外れ、彼の手は私の腰にまわって、ゆっくりと引き寄せる。

「あっ…あ、あ、あぁ…」

 再奥まで到達したことを感じ、子宮を突かれた刺激に、私の中は彼をぎゅうっと締め付けたようだ。
 うっ、と男は声を漏らし、そして、私を見下ろすとそのままゆっくりと腰を動かし始める。
 せせらぎの音が耳に響いている。空を翔る鳥の影が頭上をかすめ、私の喘ぎ声は崖の中に吸い込まれて消えていくような気がした。

 肌を撫でていく風が心地良くて、水音がどこまでも私を誘った。だけど、砂利にこすられる背中が痛み、何度、絶頂に達しても止まらない彼の動きに、次第に私の声は悲鳴に変わっていく。目に見える白い光が太陽の光線なのか、頭の中の閃光なのか分からなくなった頃、ようやく男は私の中にたぎる彼の熱を放出して果てた。

 男は、初めから一度も避妊しようという意思はないらしい。

 それに気付いても、私にはどうすることも出来なかった。男が私の中から出ていくと、同時にどろりと液体が太ももの間を伝うのが分かる。白濁した液体と、透明にねばつく液とが交じり合っている。初めから出血は起こさなかったし、痛みもなかったから、私は少なくとも処女ではなかったらしい。

 ここには鏡もないので、自分の顔もマトモに分からない。そして、自分の年齢すら。

 疲労感にだるくて動けずにいると、しばらくして身体を起こした男が、振り向いて私の身体を抱き起こし、するすると服を脱がせる。
 え…? と思っている間に、私は男の腕に抱かれて川の中に引き込まれた。

「ひゃあぁぁっ」

 驚いて悲鳴はあげたが、水はそれほど冷たく感じなかった。大分、肌が火照っていたのだろう。
 二人で腰まで水に浸かり、そして、男は一瞬熱い目で私を見つめ、そのまま唇を合わせた。

 何、してるんだろう? 私…。
 ぼんやりとそう考えたが、なんだか、もう、どうでも良いような気がした。
 何故だろう?
 私は疲れ果てていたのだ。

 私がそのとき失っていたのは記憶だけではなかったのかも知れない。

 人間社会で普通に生きていく術を、すべて放棄しようとしたかのように、本能だけで生きる獣になろうとしていたのかもしれない。

 裸で大地に抱かれていると、アダムとイヴに戻ったような錯覚を得る。
 太古の昔、最低限の布を腰に巻いて暮らしていた人類のように。

 男は女のために食料を狩ってきて、女はそれを家族のために料理し、命を育む。ただ、それだけの単純な世界に。

 数時間後、ようやく二人で小屋へ戻り、二人とも何故かくたくたで、そのままベッドに潜り込んで眠ってしまった。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

~ Comment ~


未完なんですよね

さてさて、次はなにを読ませてもらおうかと思い、メインリストの下からずーっとたどってきて、まだ読んでいなかったこの「アハンカーラ」を開きました。

5までということは、途中なのかな? 短篇なのかな、と思って読んでいたのですが、完結してないんですよね?

とりあえず今日はここまで、ってことで、感想もまだ書けない感じですが。

いやぁ、しかし、fateさんの世界は風景描写も美しいですね。
こういうのって、fateさんの心象風景だったりするのでしょうか? せせらぎでたわむれる、涼しげでいてエロティックな男と女。丁寧に綺麗に描写されていて、これだけでも引き込まれていきます。
#2240[2012/07/06 01:06]  あかね  URL 

Re: 未完なんですよね

あかねさん、

どひゃああああっ!
これには誰も関心示さんだろう、とちょっと放っぽってしまっていたらば~(^^;

> とりあえず今日はここまで、ってことで、感想もまだ書けない感じですが。

↑↑↑未完というか、放ったらかし状態というか。
これ、リライト版で、根本から内容が変わってしまって、ハナシの筋は見えているのに進まなくって(筋を決めているせいであろう・・・)なんだか気が乗らなくて投げたまま現在に至ります(ーー;
すみません、描きますともっ!

> いやぁ、しかし、fateさんの世界は風景描写も美しいですね。
> こういうのって、fateさんの心象風景だったりするのでしょうか? せせらぎでたわむれる、涼しげでいてエロティックな男と女。丁寧に綺麗に描写されていて、これだけでも引き込まれていきます。

↑↑↑うひゃあああ、ありがとうございますっ!
基本、fateが田舎モノであるからであろう(^^;
#2242[2012/07/06 06:54]  fate  URL 














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