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Stories of fate


アハンカーラ ~エゴ・自我意識~ (R-18)

アハンカーラ (堕ちた世界) 1

 堕ちていく。
 真っ暗な底へ。光も届かない真っ暗闇へ。
 ものすごいスピードで、地面に叩きつけられる…。

「きゃああぁぁぁぁぁっ」

 はっと自分の声で目が覚めた。真っ暗な冷たい場所に堕ちたはずだったのに、そこは薄明るく、しかも私の身体に触れるのは柔らかく温かい布地だった。

 がちがちに強張った身体に冷や汗がにじみ、私は肩で息をしていた。

「ああ、ようやく気がついた」

 不意に、間近で声がして、びくりと勝手に身体が反応した。声の主は私の顔を真上から見下ろし、薄い笑いを浮かべた。真っ黒に日焼けした面長の顔に、額を覆うほど前髪が長く、更に長い髪の毛を後ろで束ねているようだった。つやつやとその髪の毛が真っ黒な様子を見れば、若いのだろうか?年齢不詳の顔をしている。そして、その瞳の光は恐ろしく鋭く、そして不快だった。

 ワイシャツ姿のその男は、ネクタイを外して、それをテーブルに投げる。

「…誰?」

 そう聞いたつもりだったのに、声が変にかすれていた。

「どうした? 俺の顔を見忘れたのか?」

 そんな訳ないよな、と言いたげな彼の表情は、私が、何の反応も示さずに戸惑っていることに気付くと、訝しげな顔に変わっていく。

「おい、本気で分からないのか?」

 私は、小さく頷く。そんな、知り合いみたいな顔をされても困る。私は本当にあんたなんか知らない。だいたい、ここはどこなの?

 どこかうろたえる男の顔から視線を外して、私は反対側に顔を向けてみる。そこにはカーテンの閉じられた窓があり、そして、ここはどうも木造の古い小屋か何かのようだった。

「ここは…どこ?」

 やっとのことで、声を絞り出す。

「もうすぐダムの底に沈む村だよ」

 彼は、私の様子をうかがうように静かに言った。

「ダム?」
「そうだよ、立ち退きは終了。これから本格的な工事が始まる。もう、誰もここにはいない。探したって無駄だよ。」

 何を言われているのかさっぱり分からなかった。

「どうして、私はここに…?」
「本当に何も覚えてないのか?」
「何を?」

 男は黙った。そして、不意に一点を凝視する。その視線の先を追ってみると、そこには一枚の色あせた写真が飾られていた。美しい田園風景が写っている。温かい光が降り注いで、緑がきらきらとしていた。
 なんだか、懐かしい光景だな、と私は思う。実際にその場所を知っているわけではないのだけど。

「お前、名前は?」

 男に聞かれて、私は答えようとして…そして、初めて愕然とした。

「…分からない」



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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[現代小説

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