虚空の果ての青 （月の訪れ） ６７

　3日までを樹の部屋で過ごし、優は4日の朝、施設へ戻った。
　見送る樹の目が少し心配そうだったことが、優は嬉しくもあり、そして、離れる辛さを一層かきたてた。だけど、彼女は生まれて初めて得たものがたくさんあって、それはあまりに大きくて、まだまだ消化し切れないほど熱くてくらくらした。

　失うものがなかったとき、優にとっては怖いものもなかった。ただ、逃げ続けるだけで、耐えていれば過ぎ去っていく。それだけだった。

　しかし、初めて得たもの。
　希望、と呼べる温かい想い。

　人を好きだと想う気持ち。想われる心地良さ。それらを知ってしまった優は、失うことへの恐怖に怯えることを同時にその身に感じた。それは、今まで感じたことのない巨大で真っ暗な恐怖だった。

　会いたい人に会えない時間の身を裂かれるような辛い思い。
　優の身体のすべてが、細胞の一つ一つが、樹を求めているような気がした。
　水の中からすくい上げられた魚が、息が苦しくて喘ぐように。


　
　それでも、優は樹と交わした約束を必死に守って生活を続ける。
　食事をしっかりと取ること。
　受験を滞りなく済ますこと。
　


　合格発表が終わったら迎えに行くからと、微笑んだ彼の笑顔を瞼の裏に繰り返し刻み込んで。





第一部　完




※いえ、単に長いので区切っただけです（＾＾；
すぐに第二部始まります。
ええと。
第二部は、いろいろあれです。あれって、はい、まぁ、今更ですが、倒錯してます。
一応、ちょっと覚悟してください。
ははははは･･･