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Stories of fate


虚空の果ての青 第一部

虚空の果ての青 (同じ場所をさまようのは) 53

 そのままベッドの中で過ごす甘い時間。
 まだ眠ったままの優を背後から抱き寄せて、樹はその細い肩にキスを落とす。柔らかく触れる唇の感触に、優は軽く身じろぎをして無意識に逃れようとくるりと身体を丸める。

「ん…っ、んん…」

 逃げようとする身体をきゅっと抱きしめて、樹は長い髪をかき上げて首筋に舌を這わせる。

「んんっ…やっ」

 ようやく目を開けて優は腕を伸ばしてシーツを掴んだ。首周りがくすぐったくて、耐えられない。手に触れた布を必死に手繰り寄せようともがいても樹の腕からは逃れられず、背中をくすぐられて優は悲鳴をあげた。

「ひゃ…あ、あ、あっ」
「目が覚めた?」

 くるりと仰向けにされて、どこかいたずらな樹の視線と真っ直ぐに相対し、優は不意にどきりとする。仕事の顔ではないどこか怪しい夜の表情をしている彼の瞳の光。それを受け留めきれずに彼女はほんの少し怯えた。

 明るい朝の光の中に浮かび上がる彼の、優とは違う日焼けしたような浅黒く熱い肌。照りつける太陽を思い起こさせる明るい色の瞳。不意に知らない男のような気がしてしまった。

「い…いつき…」
「何?」
「い…っ、あ、…やぁっ」

 樹の熱い息遣いを胸元に感じ、優は慌てて彼の肩を押す。その腕の中から逃れようともがいてみる。だけど、結局、優はその肌の熱さに頭の芯がくらりと痺れ、何も分からなくなってしまう。まるで身体の中が溶けて、溶け出してなくなってしまうような気がする。

 白い熱が身体を満たし、頭上を突き抜けるとき。
 その痺れるような余韻に優は、虚ろなまま願ってしまう。

 このまま離れないで、ずっと樹を中に抱いていたいのに。彼がどこにも行ってしまわないように。見えなくなってしまわないように。

 母のように、いつか消えてしまわないように。
 そして、樹も同じことを思う。

 このまま溶け合って、一つになって、彼の中に取り込んで閉じ込めてしまいたいと。もう二度と誰にも触れさせたくないと。

 セックスは悲しい。いつか必ず終わりがくる。こんなに今一つなのに、本当は別々の身体に別々の魂が宿っているに過ぎないのだと、終わったあとに思い知らされる。身体も、魂も、一つに溶け合えたら、もう誰も悲しんだり苦しんだりすることはないのに。



 そのまま肌を寄せ合って眠り、半日をベッドの中で過ごしてお昼近くなって樹はようやく起きだした。まだすうすう眠っている優の頭をそっと撫でて、樹はシャワーを浴びて部屋着に着替える。

 部屋を見渡して、締め切ったままのカーテンの隙間からそっと外を覗く。冬のどんより曇ってかすむ空が見える。樹の心はしんと冷えて静かだった。

 気がついたら、ここにいた。
 そういう気がする。

 彼女と出会って恋に落ちたときにも感じたことだった。そして、彼女を想ってその後何度も心はさまよった。ふと気がつくと、樹はいつも同じところにいる。

 虚空の果てを夢見ているのだ。
 いつか辿り着ける魂のふるさととして。
 何の暗示だろう? と樹は思う。
 同じ場所をさまようのは…。

 

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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

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