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Stories of fate


虚空の果ての青 第一部

虚空の果ての青 (同じ場所をさまようのは) 52

 いつ眠ったのか分からなかったが、真夜中近くにふと目を覚まして、無意識に優は隣に樹を探す。そして、そこに彼がいないことに気付いた。
 はっと身体を起こして、泣きそうになってふと辺りを見回すと、樹はお酒を飲みながらソファに座り、最低限にしぼった音量でテレビを観ていた。

「いつき?」

 優はベッドから下りてソファの彼に駆け寄る。

「おや、起きたの? しかも優ちゃん、何か着てこないと…」

 まったく裸のままでベッドから出てきた優に呆れて樹は笑う。
 抱きついてきた優をそのまま抱き上げて、彼はローブを出してくる。

「ほら、これを着て」

 ローブに袖を通した優を膝に抱いたまま、樹はグラスを傾ける。あまりテレビに興味のない優は、ただ、樹の胸に抱かれてほっとまどろんでいた。

「どうしたの? 目が覚めた?」

 胸から直接声が聞こえる。優は頷いて、ぽつりと言う。

「怖い」
「何が怖いの?」
「…いなくなったら怖い。見てくれなくなったら、怖い」
「何が? …ああ、俺がってこと?」

 樹はうつむく優の顔を覗き込む。

「俺が優ちゃんのそばからいなくなったらイヤ?」
「…イヤ」
「俺が優ちゃんをもう抱いてあげないよ、って言ったらイヤ?」

 優は、瞬間、青ざめて怯えた表情で樹を見上げた。その目には明確な恐怖が宿っていて、樹は瞬間、しまった、と思う。

「ごめんごめん。そんなこと言わないよ」

 震える優の身体を強く抱いて、樹は微笑む。

「そういう気持ちをなんて言うか知ってる?」

 うつむいたまま、優は小さく首を振る。

「‘好き’っていうんだよ」

 驚いて優は顔をあげる。

「好き…?」
「そうだよ」
「…いつきが、好き」
「そうだよ」

 樹は優の髪に優しくキスを落とす。
 優は、どきどきする。

 ‘好き’? ‘好き’って、あったかいの? ‘好き’って柔らかい? ‘好き’って気持ち良い…。
 そういう名前の感情があることは、確かに優は知っていた。だけど、それがどういうものなのか、優には理解できていなかったのだ。

 ああ、私はいつきが‘好き’。
 そう思うことは、ひどく彼女の心と身体を温めた。

 桃色の光。オレンジ色の光。色彩豊かな世界が、突然彼女の目の前に広がった気がした。


 
 次に優の意識が戻ったのは、窓の外が大分明るくなってからだった。

 いつの間にベッドに…? などと、今では優はあまり驚かない。眠った場所と違うところで目覚めるのは、樹といるとしょっちゅうだった。それまで、そんな事態はあり得ないことだったのに、そして本当のところ、樹がどう考えているかなんて分からないのに、優はすっかり安心して、信頼しているのだろう。

 振り向かなくても、樹の腕が彼女を抱いていることを感じて、優は安心する。窓のカーテンの隙間から漏れている薄明るい光をぼんやり見つめて、またとろとろと眠りに落ちていく。

 幸せなまどろみだった。

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