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Stories of fate


虚空の果ての青 第一部

虚空の果ての青 (年上の女性) 41 

 優は、眠るとき、くるりと胎児のように丸くなって眠る。

 失神するように樹の腕の中で眠ってしまったときはともかく、うとうとと眠くなって自分でベッドに潜り込んだときや、ソファでうたた寝してしまったときなど、そして施設のベッドの中では、彼女はくるりと丸くなってしまう。

 優は、まだ‘胎児’の状態なのだ。
 母親の胎内から、まだ生まれ出てすらいない。外の世界があまりに辛くて怖い世界だったので。

 外の世界へようこそ、と抱きしめて慈しんでくれる手が、彼女には与えられなかったので。

 その夜も、ソファでビデオを観ている間に、優はとろとろと眠ってしまった。お風呂でちょうど良くあったまって、ローブに着替えて、更にバスタオルを抱えていた優は、初めから眠りの体勢だったのかもしれない。

 樹が「映画でも観る?」と聞くと、優は初めはちょっと嬉しそうに一緒に画面を眺めていたのだが。

「優ちゃん?」

 樹に寄りかかったまま動かなくなってしまった優の気配にふと横を見ると、彼女は膝を抱えてくるんと丸まって、すうすうと寝息を立てていた。

「油断も隙もないなあ…」

 樹は仕方なく優を抱えてベッドに横たえる。毛布を掛けてやっても、彼女はぴくりとも動かなかった。

 眠っている間に何かひどいことをされるかも、などとこの子は思いもしないんだろうか? と樹は少し不思議に思う。それとも、もう、何もかもを諦めているのか?
 俺に殺されても良いと…?

 一瞬の不穏な思考に、樹はふと何かを思い出しそうになった。
 幼い日の眠れぬ夜…。

 樹はため息をついてコーヒーを湧かす。

 淡々としたヒューマンドラマのような筋なので、特に盛り上がりはしないが、樹はときにそういう淡い印象の映画が観たくなる。確かに優には退屈な映画だったのかもしれない。

「今朝もあれだけ寝てたから、まだ眠くないなあ」

 画面の明かりだけで部屋の照明は落とし、コーヒーの香りの中で、樹はふと雅子の言葉を思い出す。

 ‘あの子にとっては、その方が幸せなのかもしれないわね’

 そんな評価をされるとは思わなかった。そんなつもりでは、なかった。

 彼は、ただ、逃げる術も持たない子ウサギを狩って、追い詰めて、捕らえてみたに過ぎなかった。それでも相手が泣き叫んで彼を拒絶すれば、彼は放してやるつもりだったのだ。それほどまでに執着する理由はなかった。

 だけど、優はどうしてか彼になついてしまった。
 それは、生まれたばかりの赤ん坊が初めて自分以外の人間を認識するような、切実な信頼として。

 ヒヨコが初めて見た動くものを親だと認識するように、優は、人の肌が温かいのだと初めて感じさせてくれた相手を‘親’のように思ってしまっているのだろうか。彼女にとって、その定義する言葉が、『親』であろうと『恋人』や『友人』であろうと、保護者という観点では皆同じなのだろう。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

~ Comment ~


優ちゃんは樹だから安心できるのですよね。
誰でも良いという訳ではなく、樹が良い、という。

優ちゃんにとって樹は何だろう。
好き、なんだけど、恋人、という感じがイマイチしない。対等ではないからかな。

優ちゃんは守られていて、樹が守ってくれている。
ずっと守ってあげて欲しい。
ずっと丸くなって眠っていられるように。
#2285[2012/07/30 21:08]  けい  URL 

けいさまへ

けいさん、

> 優ちゃんにとって樹は何だろう。
> 好き、なんだけど、恋人、という感じがイマイチしない。対等ではないからかな。

↑↑↑スルドイっ!!!
さすが、女神さま~
これ、いずれ、助けになる(?)感覚です。フフフ。

> ずっと丸くなって眠っていられるように。

↑↑↑これも、覚えていてください~
第二部でいろいろ分かります(^^;
しかし、ちょっとドキドキしました!
#2286[2012/07/31 08:33]  fate  URL 














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