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Stories of fate


虚空の果ての青 第一部

虚空の果ての青 (年上の女性) 36

 昼近くまで、優は樹の腕に抱かれたままその広い胸にすっぽりと収まり、安心し切って何度もとろとろと眠った。

 肌を合わせるのはとても気持ちが良かった。他人と触れ合って気持ちが良いと、優はそれまで感じたことがなかった。すべての感覚が眠っていたのかもしれない。そうすることで、痛みを、苦痛を最小限に押さえようとしてきたのかもしれない。

 生きるために。


 
 樹の指がすうっと髪を撫でる。そして、ふわりと内側に指を滑り込ませて髪をすく。その感触をまどろみの中で感じ続け、不意にゆっくりと目を開けた。

「いつきさま」

 彼の大きな手を両手でしっかり掴んで、優はその存在を確かめる。

「うん? あのね、優ちゃん、‘さま’は要らないって言ったでしょ」
「…いつき?」
「そうだよ」

 優は、半分虚ろな目で、明るく笑う樹を見上げる。

「そろそろ、お腹、空いたでしょ?」

 言われて初めて優はそれを意識した。朝から何も食べていないこと、お腹がきゅうっとした感じがすること。
 これは、お腹が空いたってことかな?
 優はこくりと頷く。

「食事に出ようか」

 樹は微笑む。その笑顔に優はただ満たされる。
 痛いことも怖いことも我慢しなくても笑って食事を与えてくれる人。
 名前を呼んで笑ってくれる人。
 ただ、優しく抱いて一緒に眠ってくれる人。
 それを思うだけで、優は心がぽかぽか温かかくなった。



 いつのまに用意したのか、樹は優の着替え一式を数点そろえて買っておいてくれたらしい。組み合わせも何もほとんど考えていない優を手伝って、樹は優の全身をコーディネイトする。

「これ、…かわいいね」

 優は真新しい下着をつけて、鏡に映ったその淡い桃色の色彩に少し嬉しそうに瞳を輝かせる。上に服を着たあとも、その服よりも下着が気になって、何度も服をめくって下着を確かめる。白い綿生地の下着類しか知らなかった優は、嬉しくて仕方がない。

「優ちゃん、お願いだから、外でそれをやらないでね」

 服をめくって下着のレース生地を触ってうっとりしている優に、樹は笑って背後から声を掛ける。


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

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