FC2ブログ

Stories of fate


虚空の果ての青 第一部

虚空の果ての青 (その想いの名を) 34

 優を先にお風呂に入れ、樹はやっとコーヒーを飲む。

 ソファで新聞を広げながら同時にテレビのニュースを聞き、その日の情報を仕入れる。一通り新聞を眺めて、コーヒーを飲み終わった頃、バスルームの扉が開く音がして、すぐに優が出て来るものと思っていると、それきり、しーんとしてしまう。

「優ちゃん…?」

 樹は振り返って声を掛けてみる。返事はない。

 また、寝てるのかな? と立ち上がって迎えにいくと、なんのことはない。優は必死にバスタオルで濡れた頭を拭いていた。まだ、何も身につけていなくて、背中を雫が流れている。

「…優ちゃん、君用に小さいサイズのバスローブを用意してあるんだから、まずそれを着なさいよ。身体、冷えちゃうでしょう?」

 樹はワゴンの中に置いてあったバスローブを優に着せ掛けながら呆れて言った。

「髪はドライヤーで乾かせば良いんだから」
「…うん」

 素直にローブに袖を通しながら、優は彼を見上げる。少し怯えたような色が瞳に浮かんでいる。樹の声色の変化に、優は敏感に反応する。それをいちいち気を使っているときりがないので、樹は慣れてもらおうと、敢えて余計なフォローはしない。

「はい、これ。ドライヤー。自分で使える?」

 コンセントを差し込み、スイッチの位置を教えて、樹はドライヤーを手渡す。すると、優はきょとん、と彼を見上げる。

「…使ったこと、ないの?」
「ない」
「O.K.じゃ、教えてあげる。良い? こうやってスイッチをonにすると温風が出るから。そうそう。少し離して髪に風が当たるようにして。内側からこうやって、手を添えて乾かしていくと乾き易いよ。…分かる?」

 優は、よくは分からないなりにも一生懸命挑戦する。

 けっこう長い髪なのに、じゃあ、普段はどうしているんだろう? と樹は苦笑する。それでも、新しいことを覚えるのは楽しいらしい。優はとにかく夢中になって一人でドライヤーと格闘している。

「新しい歯磨きと歯ブラシはここにあるから、勝手に使って。あと、ブラシはこの棚にいつも置いてあるからね」

 樹の言葉に優は頷く。

「じゃ、俺もシャワー浴びてくるよ」

 次に樹が後ろから声を掛けたときには、ドライヤーの音に彼の声はかき消されて優には届いていないようだった。
 しばらくするとドライヤーの音が止み、優がごそごそと歯を磨いたりドライヤーを片付けたりしているらしい気配がしていた。

 湯船のお湯を落としてバスルームの扉を開けると、優の姿はなく、彼女に着せたはずのローブがバスタオルと一緒にたたまれて置いてあり、樹は、おや? と思う。

 自分のローブを着て、頭を拭きながら部屋に戻ってみると、ソファに優の姿はなかった。

「…優ちゃん?」

 訳が分からなくて呼んでみても返事はなく、ふと耳をすますと、どこからともなく寝息が聞こえる。ベッドに近づいてみると、ほぼ、頭から毛布をかぶって優が丸くなって眠っていた。

 なるほど、素直過ぎるのか…。
 この間、服を脱いでベッドで待ってて、と言われたことをどこかで覚えていたのだろう。

 樹はまだ生乾きの優の頭を撫でて、自分の髪を乾かすためにバスルームへ戻った。

関連記事
スポンサーサイト



もくじ  3kaku_s_L.png 紺碧の蒼
もくじ  3kaku_s_L.png 真紅の闇
もくじ  3kaku_s_L.png 黄泉の肖像
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 2
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 3
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 4
もくじ  3kaku_s_L.png 花籠 外伝集
もくじ  3kaku_s_L.png 蒼い月
もくじ  3kaku_s_L.png 永遠の刹那
もくじ  3kaku_s_L.png Sunset syndrome
もくじ  3kaku_s_L.png 陰影 2
もくじ  3kaku_s_L.png Horizon(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png Sacrifice(R-18)
もくじ  3kaku_s_L.png 閑話休題
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  ↑記事冒頭へ  
←虚空の果ての青 (その想いの名を) 33    →虚空の果ての青 (その想いの名を) 35
*Edit TB(0) | CO(0)
ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

~ Comment ~















管理者にだけ表示を許可する

~ Trackback ~


  ↑記事冒頭へ  
←虚空の果ての青 (その想いの名を) 33    →虚空の果ての青 (その想いの名を) 35