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Stories of fate


虚空の果ての青 第一部

虚空の果ての青 (その想いの名を) 29

 はっと目を開けると、樹が少し心配そうに優の顔を覗き込んでいた。

「苦しい?」

 優は、ううん、と首を振る。

 あれ? 私はどこにいるんだっけ?
 優はあたまがぼうっとして、考えがまったくまとまらない。

「なかなか目を開けないからびっくりしたよ」

 樹はほっとした表情で優の身体をそっと抱きしめる。その、熱い肌の感触に、優は頭がくらりとする。

 これは、夢じゃない。
 優は細い腕で樹の身体にしがみつく。
 夢、じゃない。


 
 ‘恋’を知った少女。
 生まれて初めて、願いを抱いた。希望というものを言葉として心に描いてみた。

 クリスマスにまた会おうと、彼は約束してくれた。
 それを指折り数えて‘待つ’ということを優は初めて体験した。

 ‘楽しみ’を期待して待つということ。

 しかし、それまで単調に変化のない淡々と流れるだけだった時間が、その途端、どこまでもぐんぐん伸びるゴムのように、果てしなく長く遠く、優の待つ時間を引き延ばしたような気がした。クリスマスまでの道のりは遥か遠く感じられたのだ。

 もっと食べなさい、と言われた言葉を優は覚えていた。

 いつもなら、何も考えずに箸を置いた食事を、あと一口…と頑張って口に運ぶように努力し、必死に食べていると、不意に、公園で二人でウィンナーを苦労して食べた甘い時間を思い出す。そのときの樹の笑顔を思い出すと、優は‘食べる’ことが少し楽しくなった。

 喜んでくれる人がいる。
 人の心の原動力だ。

 樹の笑顔を見るためなら、優はなんでも出来そうに思えた。
 そんな風に、心はどんどん広がっていく。可能性を求めて。

 幾夜も優は、樹のことを想って眠りに落ちる。

 彼に抱かれている夢をみる。大きな胸に安心してとろとろとまどろむ幸福な瞬間の夢を。腕を組んで歩いた公園の風景を。彼のコートにすっぽり包まれた温かさを。大切な宝物の様に何度も反芻する。そのときの彼の匂いも、コーヒーの熱さもリアルに感じられるくらいに集中して。

 そして、はっと目覚めて朝の薄明かりの中の一人きりの現実にしょんぼりする。

 隣のベッドで、希美子がまだすうすうと寝息を立てている姿をぼんやりと見つめ、また、布団に潜り込む。
 あと、何日待てば良いんだっけ…?


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ジャンル:[小説・文学] テーマ:[恋愛小説

~ Comment ~


うぬぬ?

28と29の繋ぎがわからず何度も行き来してしまいました。
デートを終えて施設にもどった優が28の最後。
けれど29の冒頭ではまた樹に会っている。
優の夢? とも思ったけれどそうでもなさそうな?
「夢じゃない」と書かれているけど、やっぱり眠っている間に見ている光景なのかな?

ちょっと混乱しちゃいました(・・`
#2483[2012/10/03 16:14]  あび  URL 

Re: うぬぬ?

あびさん、

ああ、なるほどぉ。
fateはこれ、実はよく使います、手法として、というより、結果を先に描いてあとから理由や経過がついてくるって感じのことが好きなので(^^;
すみません、混乱させました。
どっかで、冒頭が、つながると思いマス。

#2485[2012/10/03 17:08]  fate  URL 














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