「優ちゃん、明日、午前中に時間を作るから、俺とデートしよう?」
ベッドの中で、もう、ほとんど眠り込みそうな優を腕に抱いて、樹はささやくように言う。
「…うん」
デートって何? という表情で、ぼんやりしたまま優は頷く。
何にしても、彼女は、樹といられるのが嬉しかった。
他の人々にいろいろ質問されると、しまいには萎縮して何も答えられなくなってしまう優が、樹の問いかけにはあまり深く考えずに返答を返せる。彼の声を聞いているのが嬉しいのかもしれない。
樹は、常に優に対して優しかった。それは今まで‘他人’を認識したことのない優にとって初めて心から安堵・安心して身を任せられる相手だった。それはきっと、子どもが家庭の中で守られて知る当然の感情だったろう。
それが‘親’でも‘恋人’でも、優が甘えをほんの少しでも見せられる初めての相手だったということだろう。
「普段着られるような服をいくつか買ってあげるよ。それから、公園を散歩してみようか」
ほとんど眠りに落ちそうになって、優はただ必死に頷く。
抱かれている腕が温かかった。
この腕の中では自分の存在が許されているという、身体の奥からほかほかあったまるようなやすらぎが彼女を捕え、ずっと怯えて凍りついたように固まっていた身体の力がふうっと抜けて優はとにかく眠くて仕方がなかった。
樹のそばにいると、優はいつでも眠かった。
翌朝、優は樹の声で目が覚めた。
彼はまだ寝巻きのまま、机に寄りかかって、書類を手に、静かな声で誰かと電話で話していた。
まだ眠っている優を気遣って、樹は出来るだけ声をひそめていたのだ。
優は、身体を起こして毛布を抱きしめる。その気配に樹は振り返り、優に微笑んでみせた。
優は、その笑顔にほっとして再び毛布の中に丸くなる。
樹の匂いを胸いっぱい吸い込んで、優は満足して幸せな気分に浸った。セックスの余韻がまだ身体に残っていて、どこか気だるい。
やがて、電話を終えた樹が優のそばにやってくる。
「お目覚め? お姫様?」
優の頬にチュッと優しくキスを落として、樹は彼女の身体を毛布ごと抱きしめる。その温かさに、抱きしめられた腕の強さに、優は嬉しくて身体が震えた。
「朝食が届くまでに、シャワー浴びて着替えして。夕べ、そのまま寝ちゃったでしょ?」
「…うん」
優がシャワーを浴びている間、樹は鹿島に連絡を取り、迎えの時間を伝える。
「ああ、うん。9時にホテル前に。午後の仕事は予定通り入れててもらって良いよ」
「…今日一日くらい休まれたらいかがですか? 樹さま」
鹿島の少し心配そうな声が電話口から聞こえる。
「大丈夫だよ。今抱えている件が解決したら、ゆっくりするから」
樹は笑う。
間もなく朝食が運ばれてきて、優も、シャワーの雫を滴らせたままバスタオルに包まってバスルームから出てくる。
「優ちゃん、昨日君が着てた服、置いてあったでしょう? 着替えておいで。」
「…でも」
優は、昨日の樹の反応を覚えていた。それが、彼女には怖かったのだ。
「とりあえず、何か着ないと外出出来ないでしょ?」
優のおどおどした様子に気がついて、樹は苦笑する。濡れた髪が肌にはりつき、優の白い肌から湯気が立ち上り、艶やかに色づいている。
「そんな格好で部屋をうろうろしてると、デザート代わりに食べられちゃうよ」
きょとん、と彼を見上げる優を、樹は手招きして抱き寄せ、首筋に流れる雫を舌で掬い取る。
「ひゃあっ」
思わず声をあげて、タオルから手が離れ、優の裸体があらわになる。
「あ…っ、や…、いやっ」
驚いて暴れる優の腰を動けないように片手で押さえ込み、もう片方の手は、優の細い腕を捕らえた。優の肌に残るシャワーの雫をぺろりと舐めて、樹はかああっと桜色に染まる肌を目で味わう。
「先にデザートをいただいちゃおうかな」
不敵に微笑んで、樹は優の身体を抱き上げてベッドへと運ぶ。
「あ、あの…」
慌ててもがく優の身体をすとんとベッドへ下ろすと、彼女は咄嗟にベッドの隅へと逃げようとする。恐怖というより、身体のだるさに少し怯えていた。
「ダ…ダメ…」
「何が?」
樹はふわりとベッドに乗って、優を端へと追い詰める。
「だって…その、か…っ身体が、重くて…動けなくなる…」
「良いよ、動けなくなったら抱いてあげるから」
優の頬にそっと触れて樹はにやりと微笑む。
「で…っ、でもっ…」
優が尚も何かを言おうとして口を開いたとき、樹は優を抱き寄せてその唇をふさぐ。怯える心とは裏腹に優の身体は、もう樹の愛撫に応え始めていて、樹の舌の動きは優の官能を誘うのに充分だった。
「俺に逆らおうなんて、10年早いよ」
腕の中で虚ろな視線を投げかける優を、笑って樹はベッドに沈める。
「…い…いつき…さま…」
優は、ほぼ無意識に彼の名を呼んで許しを請う。
「そうだよ。黙って俺の名前を呼んで、鳴いてな」
ベッドの中で、もう、ほとんど眠り込みそうな優を腕に抱いて、樹はささやくように言う。
「…うん」
デートって何? という表情で、ぼんやりしたまま優は頷く。
何にしても、彼女は、樹といられるのが嬉しかった。
他の人々にいろいろ質問されると、しまいには萎縮して何も答えられなくなってしまう優が、樹の問いかけにはあまり深く考えずに返答を返せる。彼の声を聞いているのが嬉しいのかもしれない。
樹は、常に優に対して優しかった。それは今まで‘他人’を認識したことのない優にとって初めて心から安堵・安心して身を任せられる相手だった。それはきっと、子どもが家庭の中で守られて知る当然の感情だったろう。
それが‘親’でも‘恋人’でも、優が甘えをほんの少しでも見せられる初めての相手だったということだろう。
「普段着られるような服をいくつか買ってあげるよ。それから、公園を散歩してみようか」
ほとんど眠りに落ちそうになって、優はただ必死に頷く。
抱かれている腕が温かかった。
この腕の中では自分の存在が許されているという、身体の奥からほかほかあったまるようなやすらぎが彼女を捕え、ずっと怯えて凍りついたように固まっていた身体の力がふうっと抜けて優はとにかく眠くて仕方がなかった。
樹のそばにいると、優はいつでも眠かった。
翌朝、優は樹の声で目が覚めた。
彼はまだ寝巻きのまま、机に寄りかかって、書類を手に、静かな声で誰かと電話で話していた。
まだ眠っている優を気遣って、樹は出来るだけ声をひそめていたのだ。
優は、身体を起こして毛布を抱きしめる。その気配に樹は振り返り、優に微笑んでみせた。
優は、その笑顔にほっとして再び毛布の中に丸くなる。
樹の匂いを胸いっぱい吸い込んで、優は満足して幸せな気分に浸った。セックスの余韻がまだ身体に残っていて、どこか気だるい。
やがて、電話を終えた樹が優のそばにやってくる。
「お目覚め? お姫様?」
優の頬にチュッと優しくキスを落として、樹は彼女の身体を毛布ごと抱きしめる。その温かさに、抱きしめられた腕の強さに、優は嬉しくて身体が震えた。
「朝食が届くまでに、シャワー浴びて着替えして。夕べ、そのまま寝ちゃったでしょ?」
「…うん」
優がシャワーを浴びている間、樹は鹿島に連絡を取り、迎えの時間を伝える。
「ああ、うん。9時にホテル前に。午後の仕事は予定通り入れててもらって良いよ」
「…今日一日くらい休まれたらいかがですか? 樹さま」
鹿島の少し心配そうな声が電話口から聞こえる。
「大丈夫だよ。今抱えている件が解決したら、ゆっくりするから」
樹は笑う。
間もなく朝食が運ばれてきて、優も、シャワーの雫を滴らせたままバスタオルに包まってバスルームから出てくる。
「優ちゃん、昨日君が着てた服、置いてあったでしょう? 着替えておいで。」
「…でも」
優は、昨日の樹の反応を覚えていた。それが、彼女には怖かったのだ。
「とりあえず、何か着ないと外出出来ないでしょ?」
優のおどおどした様子に気がついて、樹は苦笑する。濡れた髪が肌にはりつき、優の白い肌から湯気が立ち上り、艶やかに色づいている。
「そんな格好で部屋をうろうろしてると、デザート代わりに食べられちゃうよ」
きょとん、と彼を見上げる優を、樹は手招きして抱き寄せ、首筋に流れる雫を舌で掬い取る。
「ひゃあっ」
思わず声をあげて、タオルから手が離れ、優の裸体があらわになる。
「あ…っ、や…、いやっ」
驚いて暴れる優の腰を動けないように片手で押さえ込み、もう片方の手は、優の細い腕を捕らえた。優の肌に残るシャワーの雫をぺろりと舐めて、樹はかああっと桜色に染まる肌を目で味わう。
「先にデザートをいただいちゃおうかな」
不敵に微笑んで、樹は優の身体を抱き上げてベッドへと運ぶ。
「あ、あの…」
慌ててもがく優の身体をすとんとベッドへ下ろすと、彼女は咄嗟にベッドの隅へと逃げようとする。恐怖というより、身体のだるさに少し怯えていた。
「ダ…ダメ…」
「何が?」
樹はふわりとベッドに乗って、優を端へと追い詰める。
「だって…その、か…っ身体が、重くて…動けなくなる…」
「良いよ、動けなくなったら抱いてあげるから」
優の頬にそっと触れて樹はにやりと微笑む。
「で…っ、でもっ…」
優が尚も何かを言おうとして口を開いたとき、樹は優を抱き寄せてその唇をふさぐ。怯える心とは裏腹に優の身体は、もう樹の愛撫に応え始めていて、樹の舌の動きは優の官能を誘うのに充分だった。
「俺に逆らおうなんて、10年早いよ」
腕の中で虚ろな視線を投げかける優を、笑って樹はベッドに沈める。
「…い…いつき…さま…」
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