不意に樹の気配を間近に感じてはっと目を開けたとき、優はすでに彼の腕に抱かれ、唇をふさがれていた。
「う…んんっ…?」
思わず樹の腕にしがみついてもがいた優は、腕を押さえ込まれ、ソファに押し倒される。
そのかなり乱暴な行為に、一瞬怯えて、優は固まった。
「優ちゃん、君、俺の前でいつも眠ってるよ?」
不意に抵抗をやめた優の瞳を覗き込んで、樹は不敵な笑みを浮かべる。
「…ごめんなさい」
訳も分からず泣きそうになって、優は、まだ半分仕事の顔をしている樹を見上げた。外向けの顔をしている樹はどこか近寄り難く、更に、さきほど見せた彼の表情が優を不安にさせていた。再会を喜んでくれるとは期待していた訳ではなかったが、明かに困惑したような呆れたような目をして彼はため息をついたのだ。
樹が口を開きかけたとき、不意に、机上の電話が鳴る。
彼は、小さく息をついて、優の身体を抱えあげて机に向かうと、そのまま電話の横に浅く腰を掛けて受話器を取る。
「…はい、つないでください」
優を片手で抱いたまま、彼女の耳元で樹はそう電話に告げる。背後からその大きな手に抱えられ、樹の片方の膝に座った形の優は、不安定な姿勢におろおろする。その間にも、彼の手は優の肌を求めてTシャツの中に滑り込んでくる。
「…あっ…あの…っ」
何か言いかける優に、樹はちょっと通話口を押さえて小声でささやく。
「ダメだよ、優ちゃん。静かにしててね」
慌てて優は口を押さえる。
樹は、その手の動きとは裏腹に、まったく冷静な声で淡々と仕事の話を進めていく。そして、仕舞いには受話器を肩と耳の間に挟んで、両手を使って優の身体を愛撫し始めた。
身体の反応に声がもれそうになって、優は必死に自分の口を押さえている。
「…んん…っ、く…ぅっ」
それでも、小さな声がもれて優は身をよじらせる。こらえようと思えば思う程、身体は熱く反応する。熱がどんどん内に蓄積されてきて、優の身体は小刻みに震える。
早く電話が終わって欲しいと、優はただ必死に祈る。
たとえ樹が何かに怒っていても、どんなに怖いことをされても、声をあげられない苦しさはもう限界に近かった。
「ああ、ではそれで結構です。そうしていただきます。よろしく」
ようやくそう言って、相手の電話は切れる。
それでも、もうそれすら分からないほど、優の頭は思考が停止状態になり、痙攣する身体を押さえられない。通話から開放された樹の唇が、そっと優の首を這い、舌が髪の生え際を舐める。
「ふぅっ…んん~っ!」
優の目には涙が光る。樹が、もう良いよ、と許可をくれないので、優は自分の口を両手でふさいだままだった。もだえ苦しむ優を楽しむように、樹はその手も、舌も官能的な愛撫を決して緩めない。
遂に、絶頂まで導かれ、優は切ない悲鳴に似た声をもらす。
足のつま先まで痙攣しながら、優の身体からがくりと力が抜け、樹の腕に崩れ落ちた。
「よく耐えたね。良い子だよ、優ちゃん」
樹の声が、仕事用の声色から、いつもの甘い調子に変わった。
「服を脱いで、先にベッドで待ってて。」
多少ふらつく優を立たせて、樹は彼女の首筋にキスを落としてささやく。目的はそれしかないだろう、と言わんばかりの冷たさだったが、優はただ、やっと本当に樹に触れると思うと嬉しかった。
樹は散らかったままの机にちらりと視線を投げ、時計を確かめる。
今日予定していた相手からの連絡はだいたい来たはずだった。それでも、ふと不安になり、樹はフロントに電話をつなぐ。
「これから6時まで、緊急の連絡以外、取り次がないでもらいたいんだけど。…そうですね、判断は彼に任せます。鹿島がそう判断した場合だけ。…はい、お願いします」
まったく何の考えもなく、するすると服を脱ぎ捨てている優を視線の端に捕えながら、樹はふっと笑みをもらした。
優の小さな喘ぎ声も、彼の手で桜色に染まる肌も、樹は愛しかった。抱きしめたときに見せるとろんとまどろむ優の至福の表情も、じらされたときの泣きそうに切ない瞳も、無性に可愛いと思うのだ。
それがどういう意味の愛おしいなのか、或いは、擦り寄ってくる仔猫を可愛いと感じるのと変わりがない感情なのか、樹にも分からない。
探さなくても、優はいつでも同じ場所に同じように、樹をただ待っている。
彼に、自分を愛しているか? と尋ねたりしない。恋人にして欲しいと目に見える関係を、増して結婚して欲しいなどと迫ったりしない。
彼が見ている前で、最後の下着もためらいなく脱ぎ捨ててベッドに潜り込んだ優の小さな背中を見つめながら、樹は受話器を置いた。
「う…んんっ…?」
思わず樹の腕にしがみついてもがいた優は、腕を押さえ込まれ、ソファに押し倒される。
そのかなり乱暴な行為に、一瞬怯えて、優は固まった。
「優ちゃん、君、俺の前でいつも眠ってるよ?」
不意に抵抗をやめた優の瞳を覗き込んで、樹は不敵な笑みを浮かべる。
「…ごめんなさい」
訳も分からず泣きそうになって、優は、まだ半分仕事の顔をしている樹を見上げた。外向けの顔をしている樹はどこか近寄り難く、更に、さきほど見せた彼の表情が優を不安にさせていた。再会を喜んでくれるとは期待していた訳ではなかったが、明かに困惑したような呆れたような目をして彼はため息をついたのだ。
樹が口を開きかけたとき、不意に、机上の電話が鳴る。
彼は、小さく息をついて、優の身体を抱えあげて机に向かうと、そのまま電話の横に浅く腰を掛けて受話器を取る。
「…はい、つないでください」
優を片手で抱いたまま、彼女の耳元で樹はそう電話に告げる。背後からその大きな手に抱えられ、樹の片方の膝に座った形の優は、不安定な姿勢におろおろする。その間にも、彼の手は優の肌を求めてTシャツの中に滑り込んでくる。
「…あっ…あの…っ」
何か言いかける優に、樹はちょっと通話口を押さえて小声でささやく。
「ダメだよ、優ちゃん。静かにしててね」
慌てて優は口を押さえる。
樹は、その手の動きとは裏腹に、まったく冷静な声で淡々と仕事の話を進めていく。そして、仕舞いには受話器を肩と耳の間に挟んで、両手を使って優の身体を愛撫し始めた。
身体の反応に声がもれそうになって、優は必死に自分の口を押さえている。
「…んん…っ、く…ぅっ」
それでも、小さな声がもれて優は身をよじらせる。こらえようと思えば思う程、身体は熱く反応する。熱がどんどん内に蓄積されてきて、優の身体は小刻みに震える。
早く電話が終わって欲しいと、優はただ必死に祈る。
たとえ樹が何かに怒っていても、どんなに怖いことをされても、声をあげられない苦しさはもう限界に近かった。
「ああ、ではそれで結構です。そうしていただきます。よろしく」
ようやくそう言って、相手の電話は切れる。
それでも、もうそれすら分からないほど、優の頭は思考が停止状態になり、痙攣する身体を押さえられない。通話から開放された樹の唇が、そっと優の首を這い、舌が髪の生え際を舐める。
「ふぅっ…んん~っ!」
優の目には涙が光る。樹が、もう良いよ、と許可をくれないので、優は自分の口を両手でふさいだままだった。もだえ苦しむ優を楽しむように、樹はその手も、舌も官能的な愛撫を決して緩めない。
遂に、絶頂まで導かれ、優は切ない悲鳴に似た声をもらす。
足のつま先まで痙攣しながら、優の身体からがくりと力が抜け、樹の腕に崩れ落ちた。
「よく耐えたね。良い子だよ、優ちゃん」
樹の声が、仕事用の声色から、いつもの甘い調子に変わった。
「服を脱いで、先にベッドで待ってて。」
多少ふらつく優を立たせて、樹は彼女の首筋にキスを落としてささやく。目的はそれしかないだろう、と言わんばかりの冷たさだったが、優はただ、やっと本当に樹に触れると思うと嬉しかった。
樹は散らかったままの机にちらりと視線を投げ、時計を確かめる。
今日予定していた相手からの連絡はだいたい来たはずだった。それでも、ふと不安になり、樹はフロントに電話をつなぐ。
「これから6時まで、緊急の連絡以外、取り次がないでもらいたいんだけど。…そうですね、判断は彼に任せます。鹿島がそう判断した場合だけ。…はい、お願いします」
まったく何の考えもなく、するすると服を脱ぎ捨てている優を視線の端に捕えながら、樹はふっと笑みをもらした。
優の小さな喘ぎ声も、彼の手で桜色に染まる肌も、樹は愛しかった。抱きしめたときに見せるとろんとまどろむ優の至福の表情も、じらされたときの泣きそうに切ない瞳も、無性に可愛いと思うのだ。
それがどういう意味の愛おしいなのか、或いは、擦り寄ってくる仔猫を可愛いと感じるのと変わりがない感情なのか、樹にも分からない。
探さなくても、優はいつでも同じ場所に同じように、樹をただ待っている。
彼に、自分を愛しているか? と尋ねたりしない。恋人にして欲しいと目に見える関係を、増して結婚して欲しいなどと迫ったりしない。
彼が見ている前で、最後の下着もためらいなく脱ぎ捨ててベッドに潜り込んだ優の小さな背中を見つめながら、樹は受話器を置いた。
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